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第2章 一日目
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「おいアオイ、なにボーッとしてるんだ!」
今度は駐車スペースの方角から三輪さんの大きな声が聞こえてくる。再び僕が振り向けば、白いワンボックスカーの横で高遠さんが大きく手を振っていた。
慌てて走り出してはみたものの、少々足がもつれてしまった。やはり船酔いの後遺症がまだあるようだ。
「なんや、まだフラフラしてるんか」
憎まれ口を叩きつつも、三輪さんは僕の背のザックを持ち上げて、降ろしてくれる。元来は優しい人なのだ。
「大丈夫ですよ、もう。ところでこれが宿の車ですか?」
白いボディの側面に青地で「ペンションIsari-BI」と描かれたトヨタ製のワンボックスカーは、想像より大きなタイプで、軽トラ中心のこの駐車場では、一際目立っていた。海風に当たり続けて、塗装の質感がくすんでいるが、車体そのものはまだまだ古くはない。
「あれ、宿の人は?」
当然運転席に宿のスタッフが、座っていると思っていたら、車内はもぬけの殻だ。
「どうも、入れ違っちゃったようですね。たぶん宿宛の荷物が届いてたんでしょう」
高遠さんはそう言って、先ほど降ろされたコンテナ周辺を指さした。確かにその辺りには、船員さんや港の職員さんとは別に、幾人かの人だかりができている。
「島への船は週二便やからな。毎日のようにネットショッピングを使ってる我々には、わからへん苦労があるんや」
三輪さんがしたり顔で解説するが、僕はそんなにネットショッピングで買い物をしたりしない。毎回、明らかに怪しい安物のキャンプ道具を買っては失敗している三輪さんと一緒にしないで欲しいものだ。などと考えていると、カチッと音がして車の鍵が解錠された。
「待たせてごめんね。鍵、開けとけば良かったわ」
船の方から声がかかる。両腕に大きなビニール袋を二つぶら下げ、重そうな段ボール箱を抱えた三十代とおぼしき女性が、笑顔で歩いてきた。左手には車の鍵が握られているが、箱を保持しながらなので、やや苦しそうだ。どうやら彼女が「宿の女将さん」らしい。
「敦子さん、お久しぶりです! 荷物持ちましょう」
高遠さんが笑顔で駆け寄った隣で、スイっと段ボール箱を受け取る長身の影。三輪さんは女性には特に優しいのだ。
「あらあら、ありがとうさん。おっきな人だねー。あなた東京の三輪さんかしら」
「はい三輪旅人です。お世話になります。あっちにいるのが一緒に来た後輩の向井です」
「こんにちは。よろしくお願いします」
僕はそう言いながら、急いでワンボックスカーのラゲッジドアを開けたのだった。
今度は駐車スペースの方角から三輪さんの大きな声が聞こえてくる。再び僕が振り向けば、白いワンボックスカーの横で高遠さんが大きく手を振っていた。
慌てて走り出してはみたものの、少々足がもつれてしまった。やはり船酔いの後遺症がまだあるようだ。
「なんや、まだフラフラしてるんか」
憎まれ口を叩きつつも、三輪さんは僕の背のザックを持ち上げて、降ろしてくれる。元来は優しい人なのだ。
「大丈夫ですよ、もう。ところでこれが宿の車ですか?」
白いボディの側面に青地で「ペンションIsari-BI」と描かれたトヨタ製のワンボックスカーは、想像より大きなタイプで、軽トラ中心のこの駐車場では、一際目立っていた。海風に当たり続けて、塗装の質感がくすんでいるが、車体そのものはまだまだ古くはない。
「あれ、宿の人は?」
当然運転席に宿のスタッフが、座っていると思っていたら、車内はもぬけの殻だ。
「どうも、入れ違っちゃったようですね。たぶん宿宛の荷物が届いてたんでしょう」
高遠さんはそう言って、先ほど降ろされたコンテナ周辺を指さした。確かにその辺りには、船員さんや港の職員さんとは別に、幾人かの人だかりができている。
「島への船は週二便やからな。毎日のようにネットショッピングを使ってる我々には、わからへん苦労があるんや」
三輪さんがしたり顔で解説するが、僕はそんなにネットショッピングで買い物をしたりしない。毎回、明らかに怪しい安物のキャンプ道具を買っては失敗している三輪さんと一緒にしないで欲しいものだ。などと考えていると、カチッと音がして車の鍵が解錠された。
「待たせてごめんね。鍵、開けとけば良かったわ」
船の方から声がかかる。両腕に大きなビニール袋を二つぶら下げ、重そうな段ボール箱を抱えた三十代とおぼしき女性が、笑顔で歩いてきた。左手には車の鍵が握られているが、箱を保持しながらなので、やや苦しそうだ。どうやら彼女が「宿の女将さん」らしい。
「敦子さん、お久しぶりです! 荷物持ちましょう」
高遠さんが笑顔で駆け寄った隣で、スイっと段ボール箱を受け取る長身の影。三輪さんは女性には特に優しいのだ。
「あらあら、ありがとうさん。おっきな人だねー。あなた東京の三輪さんかしら」
「はい三輪旅人です。お世話になります。あっちにいるのが一緒に来た後輩の向井です」
「こんにちは。よろしくお願いします」
僕はそう言いながら、急いでワンボックスカーのラゲッジドアを開けたのだった。
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