【完結済み】君が見た海を探しに 〜風の島の冒険〜

阪口克

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第5章 三日目の午後、そして再び事件は起こる

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「え? これがクルミさんだと」
「そんな、これだけの解像度じゃ」

 先輩の自信たっぷりな言葉に戸惑ってしまう。高遠さんが言う通り、この解像度では女性か男性かの判断も難しい……。

「いや、間違いない。これはクルミや」

 三輪さんは断言を繰り返す。

「先輩、どこかに、その、彼女の特徴が?」
「そうや、この黄色いTシャツとベージュのパンツ。あいつが夏山へ行くときの定番や。そしてピンクのザックは間違いなくあいつが愛用しとったカリマーのカデット20や」

 山道具の有名ブランドカリマーのカデットは、女性向けザックの定番で、僕のワンゲル部の先輩もこのモデルを使っている。薄いピンクと濃いピンクを組み合わせたデザインは美しいだけでなく、山中でも視認性が高い。

「そう言われれば、これは太田先輩が使っているのと同じデザインですね。でも、他の人がこれを持っていても別に変では」
「いや、これは登山用や。もちろんファッションで持つ人もいるが、可能性は低いやろ」
「しかし……」
「それにこのザックは女性用や。高遠さんはこの写真を撮った人。そして2枚後の水戸さんと飯畑さんは黄色いTシャツでも、ベージュのパンツでもなかった。だとしたら、残る女性はクルミだけや。違うか?」

 確かにその通りだ。もちろん夏の午後、水戸さんと飯畑さんが着替えた可能性もなくはない。しかし可能性というならば、この人物がクルミさんである確率は相当に高いと言えそうだ。でも……、

「でも、もしこれが小橋さんだとして、それでもおかしくはないのでは?」

 高遠さんが言うように、これが小橋胡桃さんだとして、何が問題なのだろう。

「よう聞いてくれ。これがクルミだとしたらおかしいやろ。クルミはこのあと、大島さんと美鈴浜で溺れた。そやないのか?」
「その通りです。え? あっそうか。ここでクルミさんが一人で海に行くのは変ですね。後ろの写真に大島さんが写ってるし」
「まず変なのはそこや。しかしそれなら、あとでたまたま合流したのかも知れん」

 二人が別々に美鈴浜へ向かい、合流し、そして二人で溺れる。もちろん無くはない。どちらかが溺れかけたのに気づき、駆けつけたのかもしれない。

「しかしや、日ノ出側から美鈴浜へ向かう遊歩道は五年前の台風で壊れ閉鎖されている。そうでしたよね、高遠さん」
「え、ええ」
「やとしたら、何でクルミは徒歩なんや?」
「え……」
「あ……」

 僕と高遠さんの驚きの声がシンクロする。そうだ、確かにこれはおかしい。なぜ彼女は徒歩で日ノ出集落方向へ向かっているのだ。

「アオイ、覚えているか?」
「な、何をです」
「大島さんの遺体が見つかった場所に、残っていたものや」

 残っていたもの?

「えーっと確か、自転車が1台、クルミさんの荷物、そして片方のサンダルです」
「そうや。正解や。それで、この写真の人物の足元を見てくれ。これはどうや?」

 先輩のの言葉に画面上の人影の足を見る。

「あああ」

 高遠さんの溜息が聞こえた。その響きはあまりに悲しげだ。画面の中、道を歩く人影の足元には、確かに白いソックスとブラウンのシューズが写っていた。

「先輩、これは」
「ああ間違いない。これはローカットのトレッキングシューズや。もちろん背中のザックにサンダルが入っていた可能性はある。しかし現場で靴は見つかってへん」
「で、でも、もしかしたら」
「一緒に流されたか? そんなわけあるか。海辺で靴をサンダルに履き替える。それはある。しかしその靴を、お前はどこに置いとく? 波打ちギリギリに置いとくか?」

 そんなはずはない。靴は万が一にも波がかからぬよう、内陸側に置いておくだろう。

「もともとや、自転車が一台ってところで、俺はおかしいて思てたんや」

 その点は、僕も変だと気づいていた。ここから美鈴浜まで自転車で四十分の距離だ。しかも道は険しい山道。男女の二人乗りで行くルートではないだろう。

 この新しい発見のあと、高遠さんも三輪さんも完全に黙り込んでしまった。三輪さんは再び自分のベッドに寝転び、両手を枕に天井を見あげている。高遠さんは椅子に座り、窓から雨降る景色を眺めていた。誰も話さない。いつしか目を閉じた三輪さんは、もしかしたら本当に眠ってしまったのかもしれない。
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