52 / 85
第5章 三日目の午後、そして再び事件は起こる
4
しおりを挟む
「え? これがクルミさんだと」
「そんな、これだけの解像度じゃ」
先輩の自信たっぷりな言葉に戸惑ってしまう。高遠さんが言う通り、この解像度では女性か男性かの判断も難しい……。
「いや、間違いない。これはクルミや」
三輪さんは断言を繰り返す。
「先輩、どこかに、その、彼女の特徴が?」
「そうや、この黄色いTシャツとベージュのパンツ。あいつが夏山へ行くときの定番や。そしてピンクのザックは間違いなくあいつが愛用しとったカリマーのカデット20や」
山道具の有名ブランドカリマーのカデットは、女性向けザックの定番で、僕のワンゲル部の先輩もこのモデルを使っている。薄いピンクと濃いピンクを組み合わせたデザインは美しいだけでなく、山中でも視認性が高い。
「そう言われれば、これは太田先輩が使っているのと同じデザインですね。でも、他の人がこれを持っていても別に変では」
「いや、これは登山用や。もちろんファッションで持つ人もいるが、可能性は低いやろ」
「しかし……」
「それにこのザックは女性用や。高遠さんはこの写真を撮った人。そして2枚後の水戸さんと飯畑さんは黄色いTシャツでも、ベージュのパンツでもなかった。だとしたら、残る女性はクルミだけや。違うか?」
確かにその通りだ。もちろん夏の午後、水戸さんと飯畑さんが着替えた可能性もなくはない。しかし可能性というならば、この人物がクルミさんである確率は相当に高いと言えそうだ。でも……、
「でも、もしこれが小橋さんだとして、それでもおかしくはないのでは?」
高遠さんが言うように、これが小橋胡桃さんだとして、何が問題なのだろう。
「よう聞いてくれ。これがクルミだとしたらおかしいやろ。クルミはこのあと、大島さんと美鈴浜で溺れた。そやないのか?」
「その通りです。え? あっそうか。ここでクルミさんが一人で海に行くのは変ですね。後ろの写真に大島さんが写ってるし」
「まず変なのはそこや。しかしそれなら、あとでたまたま合流したのかも知れん」
二人が別々に美鈴浜へ向かい、合流し、そして二人で溺れる。もちろん無くはない。どちらかが溺れかけたのに気づき、駆けつけたのかもしれない。
「しかしや、日ノ出側から美鈴浜へ向かう遊歩道は五年前の台風で壊れ閉鎖されている。そうでしたよね、高遠さん」
「え、ええ」
「やとしたら、何でクルミは徒歩なんや?」
「え……」
「あ……」
僕と高遠さんの驚きの声がシンクロする。そうだ、確かにこれはおかしい。なぜ彼女は徒歩で日ノ出集落方向へ向かっているのだ。
「アオイ、覚えているか?」
「な、何をです」
「大島さんの遺体が見つかった場所に、残っていたものや」
残っていたもの?
「えーっと確か、自転車が1台、クルミさんの荷物、そして片方のサンダルです」
「そうや。正解や。それで、この写真の人物の足元を見てくれ。これはどうや?」
先輩のの言葉に画面上の人影の足を見る。
「あああ」
高遠さんの溜息が聞こえた。その響きはあまりに悲しげだ。画面の中、道を歩く人影の足元には、確かに白いソックスとブラウンのシューズが写っていた。
「先輩、これは」
「ああ間違いない。これはローカットのトレッキングシューズや。もちろん背中のザックにサンダルが入っていた可能性はある。しかし現場で靴は見つかってへん」
「で、でも、もしかしたら」
「一緒に流されたか? そんなわけあるか。海辺で靴をサンダルに履き替える。それはある。しかしその靴を、お前はどこに置いとく? 波打ちギリギリに置いとくか?」
そんなはずはない。靴は万が一にも波がかからぬよう、内陸側に置いておくだろう。
「もともとや、自転車が一台ってところで、俺はおかしいて思てたんや」
その点は、僕も変だと気づいていた。ここから美鈴浜まで自転車で四十分の距離だ。しかも道は険しい山道。男女の二人乗りで行くルートではないだろう。
この新しい発見のあと、高遠さんも三輪さんも完全に黙り込んでしまった。三輪さんは再び自分のベッドに寝転び、両手を枕に天井を見あげている。高遠さんは椅子に座り、窓から雨降る景色を眺めていた。誰も話さない。いつしか目を閉じた三輪さんは、もしかしたら本当に眠ってしまったのかもしれない。
「そんな、これだけの解像度じゃ」
先輩の自信たっぷりな言葉に戸惑ってしまう。高遠さんが言う通り、この解像度では女性か男性かの判断も難しい……。
「いや、間違いない。これはクルミや」
三輪さんは断言を繰り返す。
「先輩、どこかに、その、彼女の特徴が?」
「そうや、この黄色いTシャツとベージュのパンツ。あいつが夏山へ行くときの定番や。そしてピンクのザックは間違いなくあいつが愛用しとったカリマーのカデット20や」
山道具の有名ブランドカリマーのカデットは、女性向けザックの定番で、僕のワンゲル部の先輩もこのモデルを使っている。薄いピンクと濃いピンクを組み合わせたデザインは美しいだけでなく、山中でも視認性が高い。
「そう言われれば、これは太田先輩が使っているのと同じデザインですね。でも、他の人がこれを持っていても別に変では」
「いや、これは登山用や。もちろんファッションで持つ人もいるが、可能性は低いやろ」
「しかし……」
「それにこのザックは女性用や。高遠さんはこの写真を撮った人。そして2枚後の水戸さんと飯畑さんは黄色いTシャツでも、ベージュのパンツでもなかった。だとしたら、残る女性はクルミだけや。違うか?」
確かにその通りだ。もちろん夏の午後、水戸さんと飯畑さんが着替えた可能性もなくはない。しかし可能性というならば、この人物がクルミさんである確率は相当に高いと言えそうだ。でも……、
「でも、もしこれが小橋さんだとして、それでもおかしくはないのでは?」
高遠さんが言うように、これが小橋胡桃さんだとして、何が問題なのだろう。
「よう聞いてくれ。これがクルミだとしたらおかしいやろ。クルミはこのあと、大島さんと美鈴浜で溺れた。そやないのか?」
「その通りです。え? あっそうか。ここでクルミさんが一人で海に行くのは変ですね。後ろの写真に大島さんが写ってるし」
「まず変なのはそこや。しかしそれなら、あとでたまたま合流したのかも知れん」
二人が別々に美鈴浜へ向かい、合流し、そして二人で溺れる。もちろん無くはない。どちらかが溺れかけたのに気づき、駆けつけたのかもしれない。
「しかしや、日ノ出側から美鈴浜へ向かう遊歩道は五年前の台風で壊れ閉鎖されている。そうでしたよね、高遠さん」
「え、ええ」
「やとしたら、何でクルミは徒歩なんや?」
「え……」
「あ……」
僕と高遠さんの驚きの声がシンクロする。そうだ、確かにこれはおかしい。なぜ彼女は徒歩で日ノ出集落方向へ向かっているのだ。
「アオイ、覚えているか?」
「な、何をです」
「大島さんの遺体が見つかった場所に、残っていたものや」
残っていたもの?
「えーっと確か、自転車が1台、クルミさんの荷物、そして片方のサンダルです」
「そうや。正解や。それで、この写真の人物の足元を見てくれ。これはどうや?」
先輩のの言葉に画面上の人影の足を見る。
「あああ」
高遠さんの溜息が聞こえた。その響きはあまりに悲しげだ。画面の中、道を歩く人影の足元には、確かに白いソックスとブラウンのシューズが写っていた。
「先輩、これは」
「ああ間違いない。これはローカットのトレッキングシューズや。もちろん背中のザックにサンダルが入っていた可能性はある。しかし現場で靴は見つかってへん」
「で、でも、もしかしたら」
「一緒に流されたか? そんなわけあるか。海辺で靴をサンダルに履き替える。それはある。しかしその靴を、お前はどこに置いとく? 波打ちギリギリに置いとくか?」
そんなはずはない。靴は万が一にも波がかからぬよう、内陸側に置いておくだろう。
「もともとや、自転車が一台ってところで、俺はおかしいて思てたんや」
その点は、僕も変だと気づいていた。ここから美鈴浜まで自転車で四十分の距離だ。しかも道は険しい山道。男女の二人乗りで行くルートではないだろう。
この新しい発見のあと、高遠さんも三輪さんも完全に黙り込んでしまった。三輪さんは再び自分のベッドに寝転び、両手を枕に天井を見あげている。高遠さんは椅子に座り、窓から雨降る景色を眺めていた。誰も話さない。いつしか目を閉じた三輪さんは、もしかしたら本当に眠ってしまったのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」
masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。
世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。
しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。
入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。
彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。
香織は、八重の親友。
そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。
その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。
ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。
偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。
「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。
やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。
その中で、恋もまた静かに進んでいく。
「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。
それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。
一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。
現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。
本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる