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最終章 四日目、そして全て崩壊へ
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どれくらい走っていたのだろう。おそらくは短い時間だったと思うが、息が苦しく、心臓が熱い。少し前から、下の方でゴウゴウと恐ろしい音が響いているのはわかった。
いつ足元に激しい水の流れが来るか。その恐怖と戦いながら、一心不乱に階段を登り切った。
崖の上の展望台まで来れたのがわかると、思わず地面に手をついて倒れ込んでしまう。
「はあはあ、三輪さん無事ですか」
「ああ、生きとる」
「よかった。高遠さんは」
「ええ、無事よ」
階段から下を見下ろすと、黒い濁流が集落の狭い平地を洗い流しているのが見えた。多くの瓦礫が激流の中で浮き沈みしている。
「危なかったな」
「これで、これで終わったんですね」
「いや、まだや」
「え?」
「まだ終わってへん。そやね高遠さん」
階段脇にへたり込んだ三輪さんが顔を上げ、高遠さんの顔をジッと睨みつける。
「なんのことでしょうか?」
彼女は小さな声で問い返した。
「この島で起こった事件のことですわ」
「あれは飯畑さんが犯人だったんでしょ」
「違います」
「違う?」
「俺はほんまアホや。勘違いしとったんや。飯畑さんには悪いことをした。もう、取り返しもつかんがな」
濡れた髪を掻き乱し、本当に悔しそうに三輪さんは、言葉を吐き捨てた。
「なんのことを言ってらっしゃるのか、私にはわからないのですが」
と、高遠さんが呆れたような顔をする。僕も同じ気持ちだ。先輩は一体何を言っているのだろうか?
僕と高遠さんが見つめる先で、三輪さんは肩で一息つくと、スッと立ち上がった。
そして、
「もう、とぼけるのはやめましょう。これで終わりです。高遠さん、あんたが殺人犯や」
強い敵意のこもった口調で、先輩は確かにそう言った。その内容は衝撃的で、僕は何も言えない。三輪さんは狂ってしまったのだろうか。しかし高遠さんは変わらず、静かに微笑んでいるだけだ。
「初めてお会いした時に、私があなたに言ったことを覚えていますか?」
「さて、なんだったでしょうか?」
そこで彼女は、フッと笑って海の方へ目を移すと、こう言った。
「まるで探偵さん見たいねって、私はそう言いましたよ」
「ああ」
そうだ、あのとき。船酔いで苦しんでいた僕を連れて行ってくれた、親頭島のカフェブルーム。そこで彼女は先輩を「探偵のようだ」と、そう評した。あの時の、あの笑顔は、もう遠い彼方に去ってしまったのだろうか。
「そうやったね。思い出しましたよ。俺があなたの行き先は大風島でしょうって言い当てた時でしたね」
険しかった三輪さんの顔も、少し綻んだように見える。
「本当にびっくりしました。そう、あの時に、もうこの終わりは決まっていたのですね」
再び高遠さんは三輪さんに目を戻す。
「そんなことはない。運命の分岐は、そんなに簡単には決まりません。誰も一つ一つの分岐を選び、選んだ結果が、今なんです」
「そうですか……。そうかもしれませんね」
と、言って彼女は悲しそうに笑った。
「本当に、高遠さんのやった……と?」
僕の問いに彼女は確かに首を縦に振った。
「悲しいお話は、したくありません。三輪さんにお任せして良いですか」
「あくまで想像になりますよ」
「それで構いません」
「じゃあ一つ確認させてください。昨日、突然あなたは俺たちの部屋に来ましたね。あの時、水戸さんは死んでいた。違いますか」
僕は高遠さんの顔を凝視した。その顔に、うっすらと笑みが浮かぶ。そして、そして、彼女は再び、しっかりと頷いた。
「俺らの部屋に来たのは、アリバイ工作だったんですね」
「その通りよ」
「水戸さんを殺したのは、突発的だった?」
「昨日、鍵の件で飯畑の部屋に集まったあと、あの子は私の部屋にやってきたの」
「殺す」その単語を先輩は使った。しかし高遠さんは、そんなこと気にもせず、淡々と質問に答えている。
「やっぱりな。飯畑さんは昨日、水戸さんが問いただしに来たと言っていました。しかし彼女は、今さら何かを聞く必要はないはずやった。それやのに」
「何かがおかしい、そう気づいたのね」
「飯畑さんは、自転車に乗れない……」
高遠さんがコクリと頷くが、二人が何について話しているのか、僕には分からなかった。
いつ足元に激しい水の流れが来るか。その恐怖と戦いながら、一心不乱に階段を登り切った。
崖の上の展望台まで来れたのがわかると、思わず地面に手をついて倒れ込んでしまう。
「はあはあ、三輪さん無事ですか」
「ああ、生きとる」
「よかった。高遠さんは」
「ええ、無事よ」
階段から下を見下ろすと、黒い濁流が集落の狭い平地を洗い流しているのが見えた。多くの瓦礫が激流の中で浮き沈みしている。
「危なかったな」
「これで、これで終わったんですね」
「いや、まだや」
「え?」
「まだ終わってへん。そやね高遠さん」
階段脇にへたり込んだ三輪さんが顔を上げ、高遠さんの顔をジッと睨みつける。
「なんのことでしょうか?」
彼女は小さな声で問い返した。
「この島で起こった事件のことですわ」
「あれは飯畑さんが犯人だったんでしょ」
「違います」
「違う?」
「俺はほんまアホや。勘違いしとったんや。飯畑さんには悪いことをした。もう、取り返しもつかんがな」
濡れた髪を掻き乱し、本当に悔しそうに三輪さんは、言葉を吐き捨てた。
「なんのことを言ってらっしゃるのか、私にはわからないのですが」
と、高遠さんが呆れたような顔をする。僕も同じ気持ちだ。先輩は一体何を言っているのだろうか?
僕と高遠さんが見つめる先で、三輪さんは肩で一息つくと、スッと立ち上がった。
そして、
「もう、とぼけるのはやめましょう。これで終わりです。高遠さん、あんたが殺人犯や」
強い敵意のこもった口調で、先輩は確かにそう言った。その内容は衝撃的で、僕は何も言えない。三輪さんは狂ってしまったのだろうか。しかし高遠さんは変わらず、静かに微笑んでいるだけだ。
「初めてお会いした時に、私があなたに言ったことを覚えていますか?」
「さて、なんだったでしょうか?」
そこで彼女は、フッと笑って海の方へ目を移すと、こう言った。
「まるで探偵さん見たいねって、私はそう言いましたよ」
「ああ」
そうだ、あのとき。船酔いで苦しんでいた僕を連れて行ってくれた、親頭島のカフェブルーム。そこで彼女は先輩を「探偵のようだ」と、そう評した。あの時の、あの笑顔は、もう遠い彼方に去ってしまったのだろうか。
「そうやったね。思い出しましたよ。俺があなたの行き先は大風島でしょうって言い当てた時でしたね」
険しかった三輪さんの顔も、少し綻んだように見える。
「本当にびっくりしました。そう、あの時に、もうこの終わりは決まっていたのですね」
再び高遠さんは三輪さんに目を戻す。
「そんなことはない。運命の分岐は、そんなに簡単には決まりません。誰も一つ一つの分岐を選び、選んだ結果が、今なんです」
「そうですか……。そうかもしれませんね」
と、言って彼女は悲しそうに笑った。
「本当に、高遠さんのやった……と?」
僕の問いに彼女は確かに首を縦に振った。
「悲しいお話は、したくありません。三輪さんにお任せして良いですか」
「あくまで想像になりますよ」
「それで構いません」
「じゃあ一つ確認させてください。昨日、突然あなたは俺たちの部屋に来ましたね。あの時、水戸さんは死んでいた。違いますか」
僕は高遠さんの顔を凝視した。その顔に、うっすらと笑みが浮かぶ。そして、そして、彼女は再び、しっかりと頷いた。
「俺らの部屋に来たのは、アリバイ工作だったんですね」
「その通りよ」
「水戸さんを殺したのは、突発的だった?」
「昨日、鍵の件で飯畑の部屋に集まったあと、あの子は私の部屋にやってきたの」
「殺す」その単語を先輩は使った。しかし高遠さんは、そんなこと気にもせず、淡々と質問に答えている。
「やっぱりな。飯畑さんは昨日、水戸さんが問いただしに来たと言っていました。しかし彼女は、今さら何かを聞く必要はないはずやった。それやのに」
「何かがおかしい、そう気づいたのね」
「飯畑さんは、自転車に乗れない……」
高遠さんがコクリと頷くが、二人が何について話しているのか、僕には分からなかった。
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