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第一章 十年後の七月
第一話 疲労困憊の数学科教師
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とある高校の職員室。
一学期の期末考査が終わり、福山は教務手帳に記載している数学の考査の点数をパソコンに入力していた。コンピューターシステムでパスワードさえあれば、どの教師でも知りたい生徒の点数が確認できる便利なシステムだ。大勢が使うが故に記入期日の締め切りは早めに設定されていて、急いで入力しなければならないのに、福山は目頭を押さえた。
それでも一向に消えない疲労困憊の身体に声がかかる。
「福山先生、増田先生が探していましたよ。多分校務分掌系だと」
校務分掌とは生徒指導部や進路指導部といった、教師が必ず最低一つは属している部署の事だ。福山は生徒指導部で増田は企画・広報部だ。
こんな忙しい時に……という表情を隠し、170㎝の身体を「どっこいしょ」と気怠そうに奮い立たせ、同期の元へと向かった。
「増田」と名前シールが張られたデスクでは、これまた沢山の国語のノートに囲まれた同期が何かと格闘していた。
「何だよ。職員室にいるなら自分で呼びに来いよ」
と言うが、増田が動けば、このノートの山は崩れるだろう。
それを押さえながら増田が顔を上げる。
「不機嫌だな。まさかまだ入力終わってないのか? 今日の15時までだろ?」
「厳密にいえば14時までだ。その後は三者面談だから夕方まで教室に缶詰だよ」
「じゃ、今のうちにこれ片付けるか」
そう言って増田が動いた瞬間とうとうノート雪崩が起こった。
「あーあ。二学期からは国語科準備室に持っていくか」
もう崩れてしまった物は仕方ないと、増田は二学期に望みを託した。
「で、で、これだよ。この企画どうなってる?」
企画・広報部の教師が、生徒指導部に企画の事で尋ねるのは年に数回だけだ。
「今度の生活指導講習。警察の手配はしてくれたんだろ?」
長期休暇前に警察と協力して行われる、生徒を対象にした夏休み前の生活指導だ。警察も事前の指導で長期休暇中の補導を減らすのが目的で学校までわざわざ足を運んでくれる。
生徒指導部と企画・広報部が連携して主催する授業で、暑い体育館に生徒を閉じ込め50分の講義が開かれる予定だ。
「とりあえず警察との連携はどうなってる? 終わってるよな? 扇風機とかそういうのはこっちでするから、そっちは任せるって話になってただろ?」
「大丈夫だ。もう生活安全課の人と連絡はとってある。当日30分前に応接室に来て貰うようにしているから俺はそっちにかかりっきりだ。体育館の方はよろしく頼む」
「おう、任せろ。あとさ……」
増田が声量を下げ、回りを気にし始める。
「ん?」
「一応、生徒指導主事の辻本先生にも挨拶しておいた方が良いよな?」
嫌そうな増田の表情は辻本と呼ばれた教師の不人気さを物語っている。
「別にしなくてもいいけど、しなかったらどっちかが転勤するまで嫌味言われる羽目になるぞ」
「挨拶一択しかないじゃん。はあ、あの人、小言が煩いんだよな」
と、立ち上がった増田が怠そうに職員室を出て行く。少しだけ開けた扉に、だらりと身体を擦りつけて出るさまはナメクジのようだ。
「塩でも用意しておくか」
増田の動きと、辻本の厄介さを重ねながらそう呟く福山も辻本を嫌っていた。
「ッ‼」
腰に痛みが走る。疲労困憊の原因はまさにこれだった。
保健・体育科教師の辻本は福山と肉体関係にある。そしてそれは福山の望む関係ではなかった。一方的に行われる性行為は強姦と言っても過言ではない。
そしてこの辻本の強姦は10年以上続いている。
一学期の期末考査が終わり、福山は教務手帳に記載している数学の考査の点数をパソコンに入力していた。コンピューターシステムでパスワードさえあれば、どの教師でも知りたい生徒の点数が確認できる便利なシステムだ。大勢が使うが故に記入期日の締め切りは早めに設定されていて、急いで入力しなければならないのに、福山は目頭を押さえた。
それでも一向に消えない疲労困憊の身体に声がかかる。
「福山先生、増田先生が探していましたよ。多分校務分掌系だと」
校務分掌とは生徒指導部や進路指導部といった、教師が必ず最低一つは属している部署の事だ。福山は生徒指導部で増田は企画・広報部だ。
こんな忙しい時に……という表情を隠し、170㎝の身体を「どっこいしょ」と気怠そうに奮い立たせ、同期の元へと向かった。
「増田」と名前シールが張られたデスクでは、これまた沢山の国語のノートに囲まれた同期が何かと格闘していた。
「何だよ。職員室にいるなら自分で呼びに来いよ」
と言うが、増田が動けば、このノートの山は崩れるだろう。
それを押さえながら増田が顔を上げる。
「不機嫌だな。まさかまだ入力終わってないのか? 今日の15時までだろ?」
「厳密にいえば14時までだ。その後は三者面談だから夕方まで教室に缶詰だよ」
「じゃ、今のうちにこれ片付けるか」
そう言って増田が動いた瞬間とうとうノート雪崩が起こった。
「あーあ。二学期からは国語科準備室に持っていくか」
もう崩れてしまった物は仕方ないと、増田は二学期に望みを託した。
「で、で、これだよ。この企画どうなってる?」
企画・広報部の教師が、生徒指導部に企画の事で尋ねるのは年に数回だけだ。
「今度の生活指導講習。警察の手配はしてくれたんだろ?」
長期休暇前に警察と協力して行われる、生徒を対象にした夏休み前の生活指導だ。警察も事前の指導で長期休暇中の補導を減らすのが目的で学校までわざわざ足を運んでくれる。
生徒指導部と企画・広報部が連携して主催する授業で、暑い体育館に生徒を閉じ込め50分の講義が開かれる予定だ。
「とりあえず警察との連携はどうなってる? 終わってるよな? 扇風機とかそういうのはこっちでするから、そっちは任せるって話になってただろ?」
「大丈夫だ。もう生活安全課の人と連絡はとってある。当日30分前に応接室に来て貰うようにしているから俺はそっちにかかりっきりだ。体育館の方はよろしく頼む」
「おう、任せろ。あとさ……」
増田が声量を下げ、回りを気にし始める。
「ん?」
「一応、生徒指導主事の辻本先生にも挨拶しておいた方が良いよな?」
嫌そうな増田の表情は辻本と呼ばれた教師の不人気さを物語っている。
「別にしなくてもいいけど、しなかったらどっちかが転勤するまで嫌味言われる羽目になるぞ」
「挨拶一択しかないじゃん。はあ、あの人、小言が煩いんだよな」
と、立ち上がった増田が怠そうに職員室を出て行く。少しだけ開けた扉に、だらりと身体を擦りつけて出るさまはナメクジのようだ。
「塩でも用意しておくか」
増田の動きと、辻本の厄介さを重ねながらそう呟く福山も辻本を嫌っていた。
「ッ‼」
腰に痛みが走る。疲労困憊の原因はまさにこれだった。
保健・体育科教師の辻本は福山と肉体関係にある。そしてそれは福山の望む関係ではなかった。一方的に行われる性行為は強姦と言っても過言ではない。
そしてこの辻本の強姦は10年以上続いている。
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