こいじまい。 -Ep.the British-

ベンジャミン・スミス

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第十二章 Major Strategy

第一話 隠滅大作戦

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 アルバートが千葉から戻り、久しぶりの遠距離が終わって平穏が戻ったかに思えたが……

「すまない、少したてこむ」

というアルバートの一言で会社ですれ違うだけの日々が始まる。
すれ違うその表情は何かを深く考え込むような面持ちで、何か大きな仕事をまた任されたのかと春人は思った。

そして春人も

「今年度の新人の教育係をお前に任せたい」

と村崎に教育係を任され気を引き締めた。

「村崎部長、新人のデスクどこに増やしますか?」
「あー、それはこっちで用意するからお前は指導の要項にしっかり目を通してくれ。頼んだぞ」

デスクの予備がないのか?
発注が間に合っていないのか?

 新人の気配が全くしないまま、そしてアルバートの眉間も深くなったまま9月は過ぎていった。

「あれ?」

10月が始まり今日から研修を終えた新入社員が入社してくる。春人は新入社員の教育係を任されていて、気持ち新たに出社したのだがどうも様子がおかしい。

 春人の先輩・松田の机が綺麗に片付いていて、そしてそこには全く知らない女性が座っているのだ。きっと彼女が新入社員なのだろう。他の人もこちらをチラチラと見ていた。しかし、みなの視線の意味は新入社員がいたことでない。

なぜ、松田のデスクに彼女がいるかだった。

(松田さんは?)

デスクが増やされた様子もない。

(やっぱり間に合わなかったのかな? あれ? でもそれなら松田さんはどこに行ったんだ)

「えーと、宮野杏子みやのきょうこさん?」

と履歴書に記載されていた名前を呼ぶと、緊張した笑顔を浮かべ立ち上がった。

「おはようございます。新入社員の宮野です!」

元気な声は今のオフィスには不釣り合いだ。いつもならば、月嶋を筆頭に元気な声が飛び交っているのだが、その月嶋と元気の投げ合いをしている松田の席に彼女が座っているせいであろう。他の社員も、新入社員に向ける眼差しとは違う泳いだ瞳を向けていた。
この不可思議な状況と空気は宮野の緊張を更に酷くさせてしまうと思い、春人はいつも以上の笑顔を浮かべ、名刺を差し出した。

「よろしくお願いします! 教育係の月嶋です!」

その笑顔に、宮野も少し安心したところで、村崎から朝礼の声がかかる。
宮野は一番最初に紹介され温かい拍手を送られたが、「えー次に」と村崎が重たく口を開いた瞬間、再びオフィスの空気が張りつめた。

「朝、一階の掲示板で確認した者は知っていると思うが、松田要が本日付で愛知の関連会社に出向になった」

オフィスがどよめく。
春人はきちんと確認していない組で、そのどよめきに加わった。

(何で? 昨日だって普通に挨拶して退社したのに……)

「仕事の引き継ぎ等は既に資料にまとめてパソコンの中にデータとして入っているので確認しておくように」

つまり、昨日今日決まった話ではない。

(松田さん……どんな気持ちでここで仕事していたんだ)

先輩を突如失った悲しみと、これから先の教育係として誰に助言を請うていいか分からない不安が春人を襲う。

(僕、大丈夫かな……)

しかし、それを宮野に悟らせまいと、春人は必死に笑顔を取り繕った。

「では各自業務に移る様に」

仕事モードに全員切り替える……とはいかなかった。
「部長、松田は?」「どうして出向なんかに?!」と社員が詰め寄り村崎を困らせている。
松田を全く知らない宮野はキョトンとしていて、そんな彼女に仕事に関する簡単な説明をしながら春人も耳だけは部長のデスクの方に向けていた。
しかし何も分からなかった。
勿論、会話は聞こえていた。だが、村崎は出向の理由は謎だというばかりで何も分からなかった。

(アルなら知っているのかな)

恋人がどうして出張終わり早々から忙しくなり始めたのか謎が解けた春人が、天井を見上げる。

(いや、でも村崎部長は絶対に赤澤部長やアルバートに原因を尋ねたはずだ。それなのに分からないと言うことは本当に人事ですら把握出来ていないのかよほど言えない内容なのかどちらかだ。どちらにせよ……)

落胆する春人や社員に向けて村崎が苦しそうな声を出す。

「もう松田はいない」

悲しみが圧し掛かり、天井が迫ってきているように感じる。
それでも春人が教育係という事に変わりはない。
松田に教えて貰ったことを、指導の仕方を思い出しながら、春人は新しい一日をスタートさせた。

 教育係と新入社員の一日目は慌ただしい。まず各部署の管理職に挨拶に行くことから始まる。社内を案内しながら各部署をまわっていく。

「ここが人事・広報部です!人事広報部は赤澤部長とミラー副部長で、どの支社にもないグローバル化推進を取り入れています!」

その中心人物に恋人がいるのは鼻が高いが、今はそのにやけ顔をしまって、春人はオフィスのドアを開いた。部長のデスクにはパソコンのキーボードを軽快に打つ赤澤とその横で眼鏡をかけて資料を熟読しているアルバートがいた。

「赤澤部長、ミラー副部長今お時間よろしいでしょうか」

赤澤がアルバートに目を向け、それを合図にアルバートも顔を上げて2人を見る。
眼鏡を外すアルバートに春人は視線を逸らし、気持ち横顔を向け口を結んで耐える。喉を締め付け、「今年度の新人の教育係になりました月嶋です。こちらは新人の宮野杏子さんです。よろしくお願いします」と声を出した。
 もう知っているであろう事をわざわざ言うのは何だか少し恥ずかしい。しかし形式上仕方の無いことでそれはあちらも分かっているはずだ。「頑張ってね」とありきたりな励ましをもらい、お礼を伝えて、さあ戻ろうかという時だった……

「月嶋、挨拶回りあといくつ?」

赤澤が春人を引き止めた。

「これでもう終わりです」
「分かった。ちょっといいか? 月嶋だけで大丈夫だ」

赤澤は親指でクイッと人事・広報部に備え付けてあるミーティングルームを指す。宮野は察してか「お先に失礼します」と言ってインテリア事業部へ戻って行った。
 赤澤とミーティングルームへ行き、座るように促される。

「今年は教育係か、しっかり頑張れよ」

労いの言葉を貰うがこんなことで呼んだわけではないのは赤澤の神妙な面持ちで分かる。

「ところで、お前の教育係は誰だった?」
「松田要さんです。赤澤部長はご存知なんですか? 松田さんの出向の原因を」

赤澤の目じりが下がり、答えは言わずとも分かった。

「いや、すまん。俺達もわからないんだ。だから今あいつの同期や近しい奴に聞いて回っているんだけど、何か知らないか?」
「いえ、僕も今日知ったので。昨日も普通に一緒に仕事をしていました」
「そうか。同期とお前以外で松田と仲が良かった社員を知っていたら教えてくれ」

誰かいただろうかと、松田さんと食事をする相手や、松田さんのことを話している人物を想像する。

(そういえば白石さんの時に佐久間さんから松田さんの名前が出た様な……下の名前で呼ぶくらいだから仲いいのかな?)

「佐久間さん……かな?」
「化学事業部のか?」
「そうです!」
「たしか、松田と一緒に飯を食う仲とはどっかで聞いたな」

何かを思い出しながら話している赤澤。

(松田さんと佐久間さん、そんなに仲いいんだ)

「分かった。悪いな仕事中に! 本当に頑張れよ!」

もう1度労いの言葉をもらい人事・広報部のオフィスを後にする。
再び先輩の出向の件が重く圧し掛かり、春人は不安に襲われる。しかし何事も最初が肝心だと、自分のできる限りの力をもって宮野に懇切丁寧に仕事を教えた。
気付けば時計は夜の七時を回ろうとしていた。オフィスには春人と宮野しかいない。

「これと、これと……」

今日メモしたことを綺麗にまとめている宮野を見つめ、自分の一年目を思い出す。

(僕にもこんな時期があったなあ)

入社に向けて黒く染め直したであろう髪の毛はおかしなくらい真っ黒のセミロングで、スタイリング剤も何もついていないのかストンと落ちているだけ。飾り気がないのにどこか触れたら壊れそうな姿。それこそが新入社員の特徴とも言えるだろう。

しかし、流石にもうそろそろ帰らないと行けないのではないだろうかと心配になる。いつもなら「残業?」「早く帰れよ!」「無理すんな!」そんな言葉をかけてくれていた先輩がいた。しかし隣には今日初めてあったばかりの新入社員。

(松田さんを手本にしてここは声をかけるべきだろうか)

必死で頑張る横顔に春人は口を開いた。

「まだ残るの?」
「いえ、もう帰ります! 先輩は?」
「先輩……」
「どうかされましたか?」
「先輩なんて社会人になって言われたことないから驚いて」
「そうなんですね! あの、質問いいですか?」
「何?」
「月嶋先輩、彼女いますか?!」

真っ直ぐに目を見て言われる。仕事の質問だと思っていたのにまさかのプライベートな事に驚く。その瞳は好意というより興味だった。

「急にすみません! 実は各部署に挨拶に行ったとき、女性たちが先輩をチラチラ見ていたので、凄くモテるんだろうなって」

(彼女ではないけど……)

「いるよ」
「やっぱり! 年上ですか?」
「え? うん。よくわかったね」
「そんな気がして!」

と楽しそうに話す宮野に春人は質問の答え以上の事を返せない。これが松田なら更に話を広げていただろう。相手がこうやって自分を知ろうとしているのに、急な事とはいえ一歩下がるのは松田の教えには反している。

「付き合って長いんですか?」
「そこそこかな」

(そういえばアルはもう仕事が終わったのかな? あとで連絡してみよう)

「仲いいですか?」
「仲いいよ!」

(何だかアルバートに会いたくなってきた)

宮野の質問に返答はするが頭の中は恋人でいっぱいになっていた。

(会いたい、アルバート……)

「―—月嶋さん」

欲していた声を耳が捉えてハッと振り向く。
そこには金色が広がっていた。

「ア、ミラー副部長! お、お疲れ様です!」

オフィスの入口に立つ声の主を思わず名前で呼んでしまいそうになった。

「お疲れ様。今からちょっといい?」

長い指が天井に向けられる。
その瞬間春人の身体が熱くなる。

「はい! 大丈夫です! じゃ、宮野さんもお疲れ様!」
「お疲れ様です! お先に失礼します!」
「戸締まり僕がしておくから!」

ガタガタと机の引き出しに足をぶつけながらワタワタと立ち上がる春人は、宮野から見たら副部長に呼ばれて焦っている先輩にみえる。

でもそんなことはどうでもいい。

(早くアルの所へ行きたい)

 いつもの会議室までアルバートの背中を追うように着いていく。
定時を過ぎると春人にとって「ミラー副部長」は「アルバート」に変わる。
もちろんそれはアルバートも一緒だ。昼にあった時は、「月嶋さん」でも今は「春人」だ。
この時間、彼が春人を呼び出すのは「月嶋さん」に用があるという建前で「春人」を補給するためだ。

 こうやって直接呼び出されることはほとんど無い。大体メモ用紙かメールで呼び出される。急な登場にまだ心臓が高鳴り、それは止むことは無い。思えばこんなに近くにお互いを感じるのは久しぶりだ。
夏の3週間の出張が終わってから一度あったきり、アルバートの仕事が多忙になり会うどころかほとんど連絡も出来なかった。
会議室に入り、ドアから一番遠い場所へ行く。カモフラージュのためか、アルバートは資料を必ず持参している。
それを見て、春人は今一番気になっている事を尋ねた。

「アルは松田さんのこと知ってたの?」
「もちろん。人事だからね」

久しぶりに聞くアルバートのプライベートの低い声が心地よい。

「言ってくれても良かったのに」
「誰にも言わずに、というのは松田さんからのお願いだ。無下にもできないだろう」
「でも、何も言わずに出向なんて。そもそも何で松田さんが……」
「それは分からない」
「本当に?」
「本当だ。逆にこちらが知りたいくらいだ」

アルバートは嘘をつかない。

(つまりはもっと上の立場の人たちが絡んだ極秘の人事だったということか)

いまだ悲しみに暮れる春人の気持ちを和らげようと、アルバートは別の話題を振った。

「ところで教育係初日はどうだった?」
「んー、難しい! 教えるって大変だよね」
「私の指導担当だったじゃないか。問題ないだろ」
「えーでもさ、アルはもとができるじゃん! むしろ僕必要だったのかなって思ってたくらいなのに」
「あれは、赤澤さんの仕事量軽減のために取られた措置のようなものだったからね」

春人は正直かなり疲れていた。自分の仕事プラス教育係。
松田も同じようにしていたのかと思うとお礼を再度言いたい気持ちになったのにその彼はもういない。

「君も初めてあった時は初々しい感じだったよ」

アルバートが春人の落ち込んだ頬に手を添える。

「そんなに変わってないと思うよ!」
「いや。今日、君がオフィスに来た時、だいぶ顔つきが変わっていたよ。と、言っても横顔しか見せてもらえないようだがね」
「だってそれは……わざと眼鏡を外すからじゃん」
「わざとではない。君を綺麗に見るにはあれは必要ない」
「老眼鏡だから?」
「一本取られたな。でも、いつになったら慣れてくれるのだろうか? もう眼鏡になってだいぶ経つ」
「たぶん慣れない。それに、アルも悪いよ、眼鏡外したりして。僕が興奮するのを知っててしてるでしょ!」
「へぇ興奮するのか」

アルバートの顔に不敵な笑みが浮かび、春人の頬を撫でていた手が顎を捕らえる。クイッと上に向けたそこへキスを降らせる。

——チュッ

「あまりかっこよくならないでくれよ」

繋がりのない発言に、春人は頬を染めながら首を傾げた。

「どういうこと?」
「今日の君はとても先輩らしかった。でも、そんな君に新入社員が惚れてしまわないか少し心配だ」
「絶対にありえない!」
「謙遜だな」
「本当にないもん! それに僕にはアルがいるから!」
「ああ確かに。君にはどうやら〈彼女〉がいるらしいからね」
「えっ? 彼女? あっまさか宮野さんとの会話聞いてたの?!」
「聞こえていたんだ」

つまりあの会話は聞かれていたのだ。

「言っとくけど彼女ってアルのことだからね!!」

フッと笑うアルバート。

「分かっているよ。少し意地悪な聞き方だったな。すまない。でも久しぶりに会えると思ったのに、新入社員とあんな会話していて少し妬いてしまったよ。まだ彼女は君に好意の眼差しは向けていなかったが、もし向けたら来年度飛ばしてしまおうか」
「職権乱用!」
「冗談だよ。しかし、しばらく会えなくて寂しかったのは事実だ。それなのにまだ仕事が残っている。いったいどこから湧いてくるのか……」
「僕も寂しいけど今は我慢する。アルの仕事が落ち着いたらまた家に行くから」

ゆっくりとアルバートから離れる。これ以上一緒にいれば我慢ができなくなると分かり、春人は会議室を出ようとした。

「春人、少し待っていてくれ」

アルバートはスーツのポケットから黒いレザー生地のキーケースをだした。
そこら一本の鍵を外す。

「私の家の鍵だ。もし君がいいなら家で待っていてはくれないだろうか」

煌めく銀のそれは恋人には嬉しい一本。それは冷たい金属なのに、受け取った春人の指先の熱を更に熱くさせる。

「いいの?」
「問題ない」
「明日も仕事だよ?」
「乾燥機があるから君の服は今日中に乾かせる」
「そうじゃなくて、アルがしんどくないかなって」
「君は本当に私の心配ばかりだね」

アルバートは微笑みながら優しい恋人の頭を撫でる。

「今日はいつもより早く終わる。それにもう私も限界だ」
「僕だってアルに会いたかったんだからね」
「早めに終わらせて帰るから、いい子で待っているんだよ」

最後にもう一度キスを落として足早に会議室を後にするアルバート。
春人もアルバートに貰った鍵を握りしめながら会議室を出て、誰もいなくなったオフィスの戸締りをした。ドキドキしながら自分の家とは逆方向に向かい、恋人の部屋の前で立ち止まる。

(う、うわ……合鍵みたいでドキドキする)

鍵穴に鍵を差し込みゆっくりと回す。ガチャッと解錠した音がして扉を開く。
真っ暗な部屋に足を踏み入れる。家主のいない部屋は静まりかえっており、まるで盗人にでもなった気分だ。電気をつけるとやはりそこには綺麗に片付けられている空間が広がっている。

「ど、どこにいたらいいんだ……いつも通りソファーでいいのかな?」

ソファーに腰を下ろしたが、ソワソワしてして何度か立ち上がる。アルバートの家に1人でいることが無かった為、何をしていいのか分からない。

(勝手に晩御飯を作ると怒るかな? そもそもそんな能力ないけど)

怒りはしないだろうが、さすがに人の家の冷蔵庫を断りもなしに開けるのは気が引ける。

 そしてここは当然ながらアルバートの匂いが充満している。本人がいないのに匂いだけするというのは、遠距離の時の薔薇を思い出し、寂しさを際立たせる。

コテンとソファーに横になる。
そのまま深呼吸をし胸いっぱいにアルバートの匂いを溜め込む。

——ゾクッ

それだけで下半身が疼いてしまう。

「やばい」

欲求不満な手は半分勃起している性器にもう伸びていた。
だが隅に残る迷いが、ジッパーを下ろす指を困らせ、その代り布越しに膨らんだそこを撫でている。

「んっ!」

それだけなのに身体が跳ねるように反応する。

「まだ帰っては……来ない、よね?」

むしろ、まだ帰ってこないでくれと祈りながら春人は、ジッパーを下ろした。そこから零れた性器を握りしめ、上下に扱く。目を閉じればアルバートの匂いが一層強くなった気がして、まるでそこに本人がいるかのような感覚に陥ってしまう。

「アルッ、あ、はあ……」

(家に呼ばれたってことは、この後抱いてくれるのかな?)

今日はどうやって抱かれるのだろうか。
後ろから? それとも前から?
抱きしめてくれるだろうか。
抱かれる前にはあの優しくも激しい愛撫で乱れてしまうのだろうか——アルバートに抱かれる自分を想像する。
その瞬間、先走りが大量に出て卑猥な音を響かせる。グチュ、グチュという音が大きくなり、ずっと恋人のそれを受け入れていない身体はあっという間に絶頂を迎えてしまう。

「あっ、いいッ、んあ……出ちゃう!」

やばいとは思ったが止められるわけもなく、精子が勢いよく溢れた。

「やっちゃった」

 一人でしてしまったという意味と大切なスーツを汚してしまったという意味も込めて呟く。幸いなことにウォッシャブルのスーツだったのが唯一の救いだ。ネイビーのスーツにこびり付く白濁は快楽に浸っていた脳をあっという間に現実へと引き戻した。
春人は一気に他人の家でしてしまったという背徳感に襲われる。

「片付けなきゃ」

 証拠隠滅とはがりにゴミ箱に捨てたティッシュは中のゴミごと全てベランダにあるポリバケツへと持っていく。
 今日がゴミ出しの日だったのか外のポリバケツにゴミは入っていない。次の収集日まで背徳にまみれたティッシュがここに残るのはいささか心苦しい。そしてベランダの扉を少しだけ開けて網戸にしておき換気をする。

 残るはこのスーツと自分の身体だ。

「ごめんアル、シャワー借ります。あと洗濯機も」

家主には申し訳ないが先にシャワーを浴びさせて貰うことにした。
しかし問題が一つある。替えの衣服や下着がないのだ。

「アル……ごめん」

もう一度謝罪した春人は寝室へ向かいクローゼットに手をかけた。

         
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