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第十二章 Major Strategy
第七話 言の葉大作戦
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異変が起きたのは朝、目を覚ました時だった。身体にまとわりつく倦怠感にズキズキとする頭そして乾燥している喉。
「っ!」
声がでない。何度か咳払いをすると少し出るようになった。キッチンでコップに冷たい水を入れ喉を潤す。しかし全部飲みきる前に頭がフラフラとしてその場に座り込む。
(これは、少しよろしくないかもしれない)
フラフラと起き上がり体温計を探す。体温計が見つかるまでが長く感じる。朦朧とした意識で救急箱を漁ると、体温計は使うことがないせいか一番下にあった。
ソファーに勢い任せに座り、体温計を挟んでしばらく待つ。
——ピピピ……
あまりいい予感はしないが恐る恐る画面をみると、38.7という数字が表示されていた。
気持ちが声に出ないため頭を抱えて首を振るリアクションをしてしまい、頭痛が酷くなった。熱や喉はともかくこんなにフラフラした状態では出勤もままならない。
会社に電話をするが、まだ早い時間なので誰も出なかった。それにこの声だときちんと休むことを伝えられるかが分からない。アルバートだと気がついてもらえるかすら……
しばらく考えたあと液晶画面をスライドして上司の名前を検索する。
『もしもし? アルバート、どうした?』
「ゴホッ……ッ……おはよう」
すぐに言葉がでなかった。そして案の定しゃがれた声が出た。
『?! 誰?』
「私だ」
『おいおい、どうした?! 風邪か?! 休むか? 有給出しとくぞ!』
話が早くて助かる。アルバートの言いたいことを全て言わずとも理解してくれた。
「すまない」
仕事はこれで問題ないだろう。あとは1日安静にして明日には出勤できるようにしなければ。朝ご飯を食べる気にはならずもう一度水分補給だけして寝室へ戻った。それに今のこのフラフラの状態では料理なんて出来たものではない。
まだ温もりが残るベッドに身を委ねる。少し部屋をウロウロしただけなのに身体に負担がかかったのか船の上にでもいるかのような浮遊感がある。
ギュッと目をつぶるが眠れそうにもない。意識は揺れるその奇妙な感覚と頭痛に全てを持っていかれている。こんな事で本当に明日までに治るのだろうか。
とりあえず心の中で神に祈っておこう
しかし、私の祈りは天には届かなかったようだ。状態は悪化し、とうとう声は出なくなった。体温計で熱を測る気力もない。寝室に体温計を持ってこなかった事を後悔してしまう。
——ブー、ブー、ブー
そしてこんな時に枕元に置いておいたスマートフォンが着信を伝える。
(誰だろうか? 友人? 家族? いや、イギリスはまだ朝にもなっていないか)
そんな当たり前のことすら分からなくなるほど意識が朦朧としていた。
(仕事だろうか?)
画面には普段なら嬉しいが今は一番電話をしたくない人物の名前が表示されていた。
(春人すまない。今は出ることができない。声も出ない上に、風邪をひいたと知られてはきっと彼に心配をさせてしまう)
なかなか鳴り止まない着信に気持ちが滅入る。早く止まれと思いながら携帯電話握りしめる。振動が止まり、メールを入れておいたが返信はなくまた電話がかかってきた。
(きっと不安にさせてしまっている。たぶん、職場のパソコンの出勤画面で私の休みを知ったのだろう。すまない)
鳴り止まない着信。しかし、彼の顔を浮かべると何故か頭痛は和らぎ、着信のバイブレーションが心地よく聞こえ、アルバートはようやく眠りにつくことができた。
次に目が覚めた時、部屋は真っ暗になっていた。
喉の痛みは相変わらずだったが頭痛は消えており身体も少し軽い。そして額には何かが貼り付いていた。
(これはあれだろうか……額を冷やすやつだろうか。ドラッグストアで見たことがあるが私はこんなものを貼るどころか買った覚えすらない)
つまり別の人物がこれを貼ったのだ。
まさかと思い、息を殺して耳を欹てるとやはり人の気配がする。
(泥棒ではないだろう。侵入先の人間を看病する泥棒などいない)
それにアルバートの家に泥棒以外で入ってこれる人物は1人しかいない。
(春人……来てしまったのか)
身体を起こしたくてもまだ少し気怠さが残っており、あげる気にならない。再び目を閉じると、ちょうど扉の開く音がした。背中に春人の気配を感じる。額に貼っていた物を剥がす。
——ぺリぺリ
(何の音だ?)
——ピタッ
(つ、冷たい!)
思わず目を開けてしまうところだった。
(いや、まず寝たふりをする必要はあるのだろうか。だが、春人はきっと看病をしてくれているのだ、少しだけ様子を伺っていたい)
優しくタオルで汗を拭いてくれている。
——カチャッ
(ペットボトルを開ける音だろうか? どうやって飲ませる気だ?)
春人がベッドに侵入してくる気配がして、アルバートは身構えた。
冷たい唇が寄せられ何かが押し付けられる。
(上手く飲めない……)
下手に動けば狸寝入りがばれてしまうし、そうなると春人の零れた雫を舐めるという可愛い行動を楽しむことも出来なくなる。アルバートは最小限の口の動きで済ませた。
だが、そのせいで……
——クチュッ
「?!」
興奮した春人の舌を受け入れてしまう。風邪が移ってしまうからさすがに止めなければと起き上がろうとしたが、春人の舌は激しさを増し、アルバートはそれに圧され舌を絡める。一生懸命な舌遣いに、どんな表情をしているのか好奇心が沸いてしまい、とうとう重たい瞼を上げた。
すると必死にキスをしている彼が目の前にいた。しばらく見つめているとようやくキスをやめた春人と目が合い、それが見開かれる。
「……ア、アル?!」
「ッ!」
声は出ない。咳払いをするもやはり出ない。
「アル、大丈夫なの?!」
蓋をしたような咳に、心配した春人が詰め寄る。
「───!」
移るから近寄ってはいけないと言いたいのに声が出ない。仕方なく手のひらを突きつけ、こちらに来るなとジェスチャーしてみるが
「ん? なぁに?」
ハイタッチとでも勘違いしたのかパチンと自分の手のひらを重ねてきた。
「アル?」
「───!」
「また声が出ないの?」
首を縦に振る。
「大丈夫なの? ご飯食べれる? あっ、お粥作ってこなきゃ!」
「───!」
(待て春人、オカユとは何だ)
と伝えようとしたが、勿論それは叶わず、残念なことに春人は意気揚々とやる気に満ち溢れた顔で寝室を出ていった。
しかしヒョコッとすぐに顔を出す。
「寝ててよ! ね!」
アルバートは追いかけようとベッドから片足を出していたが余りにもキツく言われたため黙って足を戻した。
(何をしているのだ)
キッチンから音がする。
(つまりオカユとは食べ物か。春人は料理をあまりしないから少し心配だ。包丁を使う音もしないから大丈夫だろうか?)
モヤモヤと考えながら布団に潜り込む。
しばらくするとお盆で何かが運ばれてきた。
(一つは林檎だと分かるのだが、もう一つは何だ)
白いスープのようなものに赤い皺くちゃの球体が浮いている。
春人がお盆をベッド横のデスクに置く。そして本人はオカユの器を手に取りベッドに腰掛けた。
アルバートはオカユをのぞき込む。
(この赤いのは見たことがある……たしか梅干しだ)
梅干を指して、口にしたことがない旨を伝えたかったが、春人はピョンと跳ねた。
「あっ、もしかして食べさせてほしいの? いーよ! 今日だけ特別」
(違う。違うぞ、春人。いくら弱っていても手は動く)
しかし本人はその気になっており、レンゲで梅干しを崩し、お粥と共に掬い「はい、あーん!」とアルバートの口に運んだ。しかしアルバートの口に収まる前に引っ込める。
「あっ、まって! ふー、ふー……はい、どーぞ!」
お粥の湯気の勢いがおさまり、次こそ口の中にドロリと初めてのそれが広がった。
(これは……白米か。さすがに今は胃に重たいが、もしかすると日本ではこれが普通なのかもしれない。それにリゾットよりも柔らかめに煮込んである。それよりもッ)
「ッ!」
「不味かった?!」
アルバートは口を塞いで前かがみになり悶えた。
(酸っぱすぎるだろ!)
日本食がアルバートの口の中で大暴れしていた。歯はギチギチに痺れ、頬の筋肉が強ばるのが分かる。
「ごめん。僕料理が下手で……」
(ああ。違うんだ春人。君のせいじゃない)
春人の悲しげな表情をこれ以上見たくなくて、どうにか平常を装う。しかし口内は大変なことになっていた。
「で、でも、こっちは大丈夫だから!」
春人はフォークに小さく切り分けた林檎を刺して、アルバートに「あーん」と差し出した。
流石にこれは問題ないと警戒心をといたアルバートだったが、舌が何かを感知した。
「……」
「どう?」
「……」
舌の上で転がした後、ゆっくりと噛みしめたが硬い。
硬く汁の溢れる塩を噛んでいるようだった。
だが、お粥と梅干しに比べると幾分もマシだった為、親指をたてて「GOOD」のジェスチャーをした。
「彼氏?」
(なぜ、そうなる)
アルバートが春人を手招きする。
「なぁに?」
近寄ってくる春人に背中を向けさせ、そして指で背中に「THANKS」と書いた。
「どういたしまして!」
嬉しそうに振り向いた春人、その指に絆創膏が巻かれているのを見つけ、アルバートは目じりを下げた。
(私の為に……)
塩辛い林檎を思い出しながら、細い指を手に取ろうとしたが、アルバートの熱を持った指は空をかいた。
「べ、別に切ったわけじゃ!!」
「……」
「なに?」
もう一度背中を向かせ、アルバートは指を背中の上で滑らせた。くすぐったそうに「ふふ」と笑う春人が、文字を増やすごとに背筋を伸ばす。
「S、O、R、R、Y……?! 大丈夫だよ! それにアルは病気なんだから当然!」
二度目の振り向き顔はアルバートを心から心配する表情を浮かべていて、恋人の優しさに再度触れたアルバートは、目を細めた。
そして今度は春人の胸に指を滑らせる。
「L、O……」
何を書いているか分かった春人は頬を染めて俯いた。そして消え入りそうな声で「……V、E」と続けた。アルバートが顎をとり、持ち上げた春人の顔は林檎の革より真っ赤だった。
今度は腕に同じ文字を書く、太ももにも、そしてまた背中にも。声で伝えることができない分、たくさんたくさん彼の身体のあちこちに愛を刻み込む。
(優しい君に私の嬉しさと、君への愛おしさが伝わるように)
そう願いを込めておまじないの様に何度も指を躍らせた。
それには何の効力もないが翌日、なんとあれほどあった熱は下がり出勤することができるまでに体調は回復した。しかし残念ながら声だけはまだ戻らなかった。
心配だからと泊まり込んでくれた春人は、出勤前のアルバートにマスクを渡した。
「はいこれ! あと、喉飴も……どうしたの?」
春人はマスクをじっと見つめるアルバートに不思議そうに声をかけた。
「っ!」
「はい!」
何かを伝えたいということを察したのか背中を向けた春人にアルバートは昨日と同じように指を滑らせた。
(マスクは必要ない)
「ダメだよ! 他の人に移しちゃうかもしれないし! それにアルの風邪が悪化しないためにもつけておかないと!」
アルバートはマスクをつける習慣がないため抵抗があった。
日本に来て驚いたことの一つは、コンビニエンスストア、スーパーあちこちにいろいろな種類のマスクが売ってある事だ。そして日本人は病気でもないのにマスクをつけることがある。特に女性だ。風邪が流行っているのかと思っていたが風邪ではないというから驚きだ。
正直マスクをつける習慣がない人種からすれば異様な光景だが、日本人からすれば今のアルバートがマスクをつけずに出勤する方が遺憾に思うだろう。
(それに他人に移さないためという紳士的な理由は見習うべきかもしれないな)
アルバートは素直にマスクをつけ、春人から飴を受け取る。
「本当に大丈夫? 倒れたりしない?」
と出勤中、春人はアルバートの周りをグルグル周りながら尋ねた。マスクのせいで視界の下が少し見えにくいため、心配してうろちょろとする春人に何度か引っかかりそうになる。
会社の建物が近くなると落ち着きを取り戻し副部長と平社員がたまたま一緒に出勤しましたよという何食わぬ顔で会社へと入る。
そして昨日1日休んだだけなのにデスクの上には書類が積まれていた。マスクの中で細くため息をつき積まれる書類と向き合うべく気合を入れる。
「おっアルバート、おはよう! もういいのか?」
「っ!」
よっ!と手を挙げた赤澤が出勤してきた。アルバートは頭を下げ、そして喉を指さし、指で×を示す。
「まだ声がでないのか、大変だな」
赤澤は憐れむような目を向けた。そして会話を必要とする仕事は率先して請け負ってくれた。おかげで危惧していたよりは楽に仕事をこなすことができた。指示は筆談で、会議も発言するようなこともなく特に会話ができずともなんとか乗り越えたが、やはり声が出ないことはかなり不便ではあった。
人を呼ぶことも出来なければ、電話に出ることも出来ない。筆談で伝えるにも限界がある。
それにやはり……
(春人と会話ができないのが辛い)
ありがとう。
ごめんね。
愛している。
これが伝えれないことがこんなにも辛いなどアルバートは今まで思わなかった。
そして同じ建物内で仕事をする恋人を思う。すると、その恋人からメールが来ていた。
今夜も看病に行くというメールだった。
(さすがに今夜も梅干しは勘弁して欲しい)
アルバートが料理を作るという条件で彼の訪問を許可することにした。
それから程なくして、アルバートの風邪は綺麗に完治した。声も元に戻りいつもと変わらぬ日常を取り戻した。全快した初日仕事帰りに少し寄り道をして春人の家へと向かった。
春人は結局アルバートの声が戻るまで家に通っていた為、「掃除するからゆっくり来てね!」と連絡が来ていた。そろそろ頃合いかという時間に、寄り道をして購入したあるものを手に春人の部屋のインターフォンを鳴らす。
「はーい!」
元気な声がスーツ姿のまま扉から顔を出す。
もういつもの声に戻ったバリトンボイスが「お邪魔します」と大きな背中にプレゼントを隠して足を踏み入れた。
「どうぞ、どうぞ!」
「春人」
「なぁに?」
リビングへ戻ろうとした春人を呼び止めて背中に隠していたプレゼントを渡す。
「これ……」
カサとラッピングのために施されたビニールとリボンが擦れ合う。
「看病してくれてありがとう。君のおかげで元気になったよ」
春人に薄いピンクの薔薇の花束を渡す。あまり豪華だと気合が入りすぎたと思われたくないので少し控えめに五本ほどにした。
「うわぁ! ありがとう!」
受け取りながらも照れているのか少しぎこちない動きを見せる春人が薔薇に鼻を寄せる。
花より可愛い恋人に愛しさがこみあげ、ギュッと花束を潰さぬように春人を軽く抱きしめる。
「本当にありがとう」
「もういいってば! それに病気の恋人なんて放っとけないもん!」
「それでも感謝している……春人、君が好きだ。愛している」
春人にキスをする。
「愛してるよ」
何度も繰り返される愛の言葉に春人は薔薇より頬を染めた。
「う、うん」
「心から、本当に。本当にありがとう。愛しているよ」
「は、恥ずかしい」
「伝えずにはいられないのだ。声が出ない間、君に何度感謝や謝罪、そして愛しさを伝えたかったことか。文字では到底無理だった。やはり気持ちを込めて声に出して言いたかったのだ」
それを我慢していた分が、今溢れ出す。
「もっと、君へ伝えたい。愛していると」
「僕も愛してるよ。良くなってよかったアルバート。」
「I love you」
──2人を繋ぐ2つの言語で君に何度も伝えたい。
その後、伝えたいだけ春人に想いのたけを伝えてようやくリビングで落ち着くと、春人は花瓶に薔薇を移し替えだした。
「棘、落としてもらったけど気をつけてね」
「大丈夫だよ!」
「そういえば、切った指はどうなったのだ?」
棘で春人が看病初日に怪我をしていたことを思い出した。
「もう大丈夫!」
絆創膏は剥がれていた。
「それよりお粥そんなに不味かった?」
春人は薔薇の花瓶をテーブルに起きながら恐る恐る聞いた。
「あぁ、あれか。お粥自体は食べやすかった。しかし梅干しがあまり得意ではないようだ。すまない。あとあまり病気の時にお米はちょっと……」
「なるほど……林檎は?」
「春人、芯はきちんと取ったかい?」
「芯?」
「やはりか。また今度一緒に剥こう。あと塩水の加減も」
「しょっぱかった?」
「……少し」
溜息をつきながらアルバートの横に座る春人。落ち込む春人肩をアルバートは抱きよせた。
「でも君の気持ちは本当に嬉しかったよ。ありがとう」
「どういたしまして。イギリスでは病気の時どうするの?」
「基本的には安静にしておくくらいだ。あと、食べ物は好きなものを食べる。病気で苦しんでいるのだから、せめて美味しいものを食べて心を満たさないとね」
なるほどといった顔をする春人。
翌日からはアルバートが料理をして、普通にサンドイッチや肉料理を作ると心底驚いた顔を浮かべたいた。
「覚えておきます! 好きなものね!」
「では……」
「では?」
アルバートが春人を見つめる。
「好きなものをいただくとするか」
キスをしてシュルッと春人のネクタイを解く。
「も、もう病人じゃないでしょ!」
春人は引き抜かれるネクタイを抑え、抵抗する。
「すまない。また声が出なくなったようだ」
「嘘つきー! ちょっ、わっ!!」
春人の手を払い除け一気にネクタイを抜き去り、ベルトを外していく。
声が出なくて気持ちを伝えれないだけでなく、春人がそばに居るにも関わらず全く触れることが出来なかった。
「こちらもきちんと満たしておかねばなるまい」
「ちょっと!」
ベッドに春人を優しく下ろす。
不満そうな顔をしていてもどこか満更でもないなさそうな雰囲気を醸し出しているのは、春人も我慢していたからだろう。
「君が欲しくてたまらない」
「?! ……ど、どうぞお好きに」
「ありがとう」
感謝を伝え、彼をベッドの中で激しく愛した。
「っ!」
声がでない。何度か咳払いをすると少し出るようになった。キッチンでコップに冷たい水を入れ喉を潤す。しかし全部飲みきる前に頭がフラフラとしてその場に座り込む。
(これは、少しよろしくないかもしれない)
フラフラと起き上がり体温計を探す。体温計が見つかるまでが長く感じる。朦朧とした意識で救急箱を漁ると、体温計は使うことがないせいか一番下にあった。
ソファーに勢い任せに座り、体温計を挟んでしばらく待つ。
——ピピピ……
あまりいい予感はしないが恐る恐る画面をみると、38.7という数字が表示されていた。
気持ちが声に出ないため頭を抱えて首を振るリアクションをしてしまい、頭痛が酷くなった。熱や喉はともかくこんなにフラフラした状態では出勤もままならない。
会社に電話をするが、まだ早い時間なので誰も出なかった。それにこの声だときちんと休むことを伝えられるかが分からない。アルバートだと気がついてもらえるかすら……
しばらく考えたあと液晶画面をスライドして上司の名前を検索する。
『もしもし? アルバート、どうした?』
「ゴホッ……ッ……おはよう」
すぐに言葉がでなかった。そして案の定しゃがれた声が出た。
『?! 誰?』
「私だ」
『おいおい、どうした?! 風邪か?! 休むか? 有給出しとくぞ!』
話が早くて助かる。アルバートの言いたいことを全て言わずとも理解してくれた。
「すまない」
仕事はこれで問題ないだろう。あとは1日安静にして明日には出勤できるようにしなければ。朝ご飯を食べる気にはならずもう一度水分補給だけして寝室へ戻った。それに今のこのフラフラの状態では料理なんて出来たものではない。
まだ温もりが残るベッドに身を委ねる。少し部屋をウロウロしただけなのに身体に負担がかかったのか船の上にでもいるかのような浮遊感がある。
ギュッと目をつぶるが眠れそうにもない。意識は揺れるその奇妙な感覚と頭痛に全てを持っていかれている。こんな事で本当に明日までに治るのだろうか。
とりあえず心の中で神に祈っておこう
しかし、私の祈りは天には届かなかったようだ。状態は悪化し、とうとう声は出なくなった。体温計で熱を測る気力もない。寝室に体温計を持ってこなかった事を後悔してしまう。
——ブー、ブー、ブー
そしてこんな時に枕元に置いておいたスマートフォンが着信を伝える。
(誰だろうか? 友人? 家族? いや、イギリスはまだ朝にもなっていないか)
そんな当たり前のことすら分からなくなるほど意識が朦朧としていた。
(仕事だろうか?)
画面には普段なら嬉しいが今は一番電話をしたくない人物の名前が表示されていた。
(春人すまない。今は出ることができない。声も出ない上に、風邪をひいたと知られてはきっと彼に心配をさせてしまう)
なかなか鳴り止まない着信に気持ちが滅入る。早く止まれと思いながら携帯電話握りしめる。振動が止まり、メールを入れておいたが返信はなくまた電話がかかってきた。
(きっと不安にさせてしまっている。たぶん、職場のパソコンの出勤画面で私の休みを知ったのだろう。すまない)
鳴り止まない着信。しかし、彼の顔を浮かべると何故か頭痛は和らぎ、着信のバイブレーションが心地よく聞こえ、アルバートはようやく眠りにつくことができた。
次に目が覚めた時、部屋は真っ暗になっていた。
喉の痛みは相変わらずだったが頭痛は消えており身体も少し軽い。そして額には何かが貼り付いていた。
(これはあれだろうか……額を冷やすやつだろうか。ドラッグストアで見たことがあるが私はこんなものを貼るどころか買った覚えすらない)
つまり別の人物がこれを貼ったのだ。
まさかと思い、息を殺して耳を欹てるとやはり人の気配がする。
(泥棒ではないだろう。侵入先の人間を看病する泥棒などいない)
それにアルバートの家に泥棒以外で入ってこれる人物は1人しかいない。
(春人……来てしまったのか)
身体を起こしたくてもまだ少し気怠さが残っており、あげる気にならない。再び目を閉じると、ちょうど扉の開く音がした。背中に春人の気配を感じる。額に貼っていた物を剥がす。
——ぺリぺリ
(何の音だ?)
——ピタッ
(つ、冷たい!)
思わず目を開けてしまうところだった。
(いや、まず寝たふりをする必要はあるのだろうか。だが、春人はきっと看病をしてくれているのだ、少しだけ様子を伺っていたい)
優しくタオルで汗を拭いてくれている。
——カチャッ
(ペットボトルを開ける音だろうか? どうやって飲ませる気だ?)
春人がベッドに侵入してくる気配がして、アルバートは身構えた。
冷たい唇が寄せられ何かが押し付けられる。
(上手く飲めない……)
下手に動けば狸寝入りがばれてしまうし、そうなると春人の零れた雫を舐めるという可愛い行動を楽しむことも出来なくなる。アルバートは最小限の口の動きで済ませた。
だが、そのせいで……
——クチュッ
「?!」
興奮した春人の舌を受け入れてしまう。風邪が移ってしまうからさすがに止めなければと起き上がろうとしたが、春人の舌は激しさを増し、アルバートはそれに圧され舌を絡める。一生懸命な舌遣いに、どんな表情をしているのか好奇心が沸いてしまい、とうとう重たい瞼を上げた。
すると必死にキスをしている彼が目の前にいた。しばらく見つめているとようやくキスをやめた春人と目が合い、それが見開かれる。
「……ア、アル?!」
「ッ!」
声は出ない。咳払いをするもやはり出ない。
「アル、大丈夫なの?!」
蓋をしたような咳に、心配した春人が詰め寄る。
「───!」
移るから近寄ってはいけないと言いたいのに声が出ない。仕方なく手のひらを突きつけ、こちらに来るなとジェスチャーしてみるが
「ん? なぁに?」
ハイタッチとでも勘違いしたのかパチンと自分の手のひらを重ねてきた。
「アル?」
「───!」
「また声が出ないの?」
首を縦に振る。
「大丈夫なの? ご飯食べれる? あっ、お粥作ってこなきゃ!」
「───!」
(待て春人、オカユとは何だ)
と伝えようとしたが、勿論それは叶わず、残念なことに春人は意気揚々とやる気に満ち溢れた顔で寝室を出ていった。
しかしヒョコッとすぐに顔を出す。
「寝ててよ! ね!」
アルバートは追いかけようとベッドから片足を出していたが余りにもキツく言われたため黙って足を戻した。
(何をしているのだ)
キッチンから音がする。
(つまりオカユとは食べ物か。春人は料理をあまりしないから少し心配だ。包丁を使う音もしないから大丈夫だろうか?)
モヤモヤと考えながら布団に潜り込む。
しばらくするとお盆で何かが運ばれてきた。
(一つは林檎だと分かるのだが、もう一つは何だ)
白いスープのようなものに赤い皺くちゃの球体が浮いている。
春人がお盆をベッド横のデスクに置く。そして本人はオカユの器を手に取りベッドに腰掛けた。
アルバートはオカユをのぞき込む。
(この赤いのは見たことがある……たしか梅干しだ)
梅干を指して、口にしたことがない旨を伝えたかったが、春人はピョンと跳ねた。
「あっ、もしかして食べさせてほしいの? いーよ! 今日だけ特別」
(違う。違うぞ、春人。いくら弱っていても手は動く)
しかし本人はその気になっており、レンゲで梅干しを崩し、お粥と共に掬い「はい、あーん!」とアルバートの口に運んだ。しかしアルバートの口に収まる前に引っ込める。
「あっ、まって! ふー、ふー……はい、どーぞ!」
お粥の湯気の勢いがおさまり、次こそ口の中にドロリと初めてのそれが広がった。
(これは……白米か。さすがに今は胃に重たいが、もしかすると日本ではこれが普通なのかもしれない。それにリゾットよりも柔らかめに煮込んである。それよりもッ)
「ッ!」
「不味かった?!」
アルバートは口を塞いで前かがみになり悶えた。
(酸っぱすぎるだろ!)
日本食がアルバートの口の中で大暴れしていた。歯はギチギチに痺れ、頬の筋肉が強ばるのが分かる。
「ごめん。僕料理が下手で……」
(ああ。違うんだ春人。君のせいじゃない)
春人の悲しげな表情をこれ以上見たくなくて、どうにか平常を装う。しかし口内は大変なことになっていた。
「で、でも、こっちは大丈夫だから!」
春人はフォークに小さく切り分けた林檎を刺して、アルバートに「あーん」と差し出した。
流石にこれは問題ないと警戒心をといたアルバートだったが、舌が何かを感知した。
「……」
「どう?」
「……」
舌の上で転がした後、ゆっくりと噛みしめたが硬い。
硬く汁の溢れる塩を噛んでいるようだった。
だが、お粥と梅干しに比べると幾分もマシだった為、親指をたてて「GOOD」のジェスチャーをした。
「彼氏?」
(なぜ、そうなる)
アルバートが春人を手招きする。
「なぁに?」
近寄ってくる春人に背中を向けさせ、そして指で背中に「THANKS」と書いた。
「どういたしまして!」
嬉しそうに振り向いた春人、その指に絆創膏が巻かれているのを見つけ、アルバートは目じりを下げた。
(私の為に……)
塩辛い林檎を思い出しながら、細い指を手に取ろうとしたが、アルバートの熱を持った指は空をかいた。
「べ、別に切ったわけじゃ!!」
「……」
「なに?」
もう一度背中を向かせ、アルバートは指を背中の上で滑らせた。くすぐったそうに「ふふ」と笑う春人が、文字を増やすごとに背筋を伸ばす。
「S、O、R、R、Y……?! 大丈夫だよ! それにアルは病気なんだから当然!」
二度目の振り向き顔はアルバートを心から心配する表情を浮かべていて、恋人の優しさに再度触れたアルバートは、目を細めた。
そして今度は春人の胸に指を滑らせる。
「L、O……」
何を書いているか分かった春人は頬を染めて俯いた。そして消え入りそうな声で「……V、E」と続けた。アルバートが顎をとり、持ち上げた春人の顔は林檎の革より真っ赤だった。
今度は腕に同じ文字を書く、太ももにも、そしてまた背中にも。声で伝えることができない分、たくさんたくさん彼の身体のあちこちに愛を刻み込む。
(優しい君に私の嬉しさと、君への愛おしさが伝わるように)
そう願いを込めておまじないの様に何度も指を躍らせた。
それには何の効力もないが翌日、なんとあれほどあった熱は下がり出勤することができるまでに体調は回復した。しかし残念ながら声だけはまだ戻らなかった。
心配だからと泊まり込んでくれた春人は、出勤前のアルバートにマスクを渡した。
「はいこれ! あと、喉飴も……どうしたの?」
春人はマスクをじっと見つめるアルバートに不思議そうに声をかけた。
「っ!」
「はい!」
何かを伝えたいということを察したのか背中を向けた春人にアルバートは昨日と同じように指を滑らせた。
(マスクは必要ない)
「ダメだよ! 他の人に移しちゃうかもしれないし! それにアルの風邪が悪化しないためにもつけておかないと!」
アルバートはマスクをつける習慣がないため抵抗があった。
日本に来て驚いたことの一つは、コンビニエンスストア、スーパーあちこちにいろいろな種類のマスクが売ってある事だ。そして日本人は病気でもないのにマスクをつけることがある。特に女性だ。風邪が流行っているのかと思っていたが風邪ではないというから驚きだ。
正直マスクをつける習慣がない人種からすれば異様な光景だが、日本人からすれば今のアルバートがマスクをつけずに出勤する方が遺憾に思うだろう。
(それに他人に移さないためという紳士的な理由は見習うべきかもしれないな)
アルバートは素直にマスクをつけ、春人から飴を受け取る。
「本当に大丈夫? 倒れたりしない?」
と出勤中、春人はアルバートの周りをグルグル周りながら尋ねた。マスクのせいで視界の下が少し見えにくいため、心配してうろちょろとする春人に何度か引っかかりそうになる。
会社の建物が近くなると落ち着きを取り戻し副部長と平社員がたまたま一緒に出勤しましたよという何食わぬ顔で会社へと入る。
そして昨日1日休んだだけなのにデスクの上には書類が積まれていた。マスクの中で細くため息をつき積まれる書類と向き合うべく気合を入れる。
「おっアルバート、おはよう! もういいのか?」
「っ!」
よっ!と手を挙げた赤澤が出勤してきた。アルバートは頭を下げ、そして喉を指さし、指で×を示す。
「まだ声がでないのか、大変だな」
赤澤は憐れむような目を向けた。そして会話を必要とする仕事は率先して請け負ってくれた。おかげで危惧していたよりは楽に仕事をこなすことができた。指示は筆談で、会議も発言するようなこともなく特に会話ができずともなんとか乗り越えたが、やはり声が出ないことはかなり不便ではあった。
人を呼ぶことも出来なければ、電話に出ることも出来ない。筆談で伝えるにも限界がある。
それにやはり……
(春人と会話ができないのが辛い)
ありがとう。
ごめんね。
愛している。
これが伝えれないことがこんなにも辛いなどアルバートは今まで思わなかった。
そして同じ建物内で仕事をする恋人を思う。すると、その恋人からメールが来ていた。
今夜も看病に行くというメールだった。
(さすがに今夜も梅干しは勘弁して欲しい)
アルバートが料理を作るという条件で彼の訪問を許可することにした。
それから程なくして、アルバートの風邪は綺麗に完治した。声も元に戻りいつもと変わらぬ日常を取り戻した。全快した初日仕事帰りに少し寄り道をして春人の家へと向かった。
春人は結局アルバートの声が戻るまで家に通っていた為、「掃除するからゆっくり来てね!」と連絡が来ていた。そろそろ頃合いかという時間に、寄り道をして購入したあるものを手に春人の部屋のインターフォンを鳴らす。
「はーい!」
元気な声がスーツ姿のまま扉から顔を出す。
もういつもの声に戻ったバリトンボイスが「お邪魔します」と大きな背中にプレゼントを隠して足を踏み入れた。
「どうぞ、どうぞ!」
「春人」
「なぁに?」
リビングへ戻ろうとした春人を呼び止めて背中に隠していたプレゼントを渡す。
「これ……」
カサとラッピングのために施されたビニールとリボンが擦れ合う。
「看病してくれてありがとう。君のおかげで元気になったよ」
春人に薄いピンクの薔薇の花束を渡す。あまり豪華だと気合が入りすぎたと思われたくないので少し控えめに五本ほどにした。
「うわぁ! ありがとう!」
受け取りながらも照れているのか少しぎこちない動きを見せる春人が薔薇に鼻を寄せる。
花より可愛い恋人に愛しさがこみあげ、ギュッと花束を潰さぬように春人を軽く抱きしめる。
「本当にありがとう」
「もういいってば! それに病気の恋人なんて放っとけないもん!」
「それでも感謝している……春人、君が好きだ。愛している」
春人にキスをする。
「愛してるよ」
何度も繰り返される愛の言葉に春人は薔薇より頬を染めた。
「う、うん」
「心から、本当に。本当にありがとう。愛しているよ」
「は、恥ずかしい」
「伝えずにはいられないのだ。声が出ない間、君に何度感謝や謝罪、そして愛しさを伝えたかったことか。文字では到底無理だった。やはり気持ちを込めて声に出して言いたかったのだ」
それを我慢していた分が、今溢れ出す。
「もっと、君へ伝えたい。愛していると」
「僕も愛してるよ。良くなってよかったアルバート。」
「I love you」
──2人を繋ぐ2つの言語で君に何度も伝えたい。
その後、伝えたいだけ春人に想いのたけを伝えてようやくリビングで落ち着くと、春人は花瓶に薔薇を移し替えだした。
「棘、落としてもらったけど気をつけてね」
「大丈夫だよ!」
「そういえば、切った指はどうなったのだ?」
棘で春人が看病初日に怪我をしていたことを思い出した。
「もう大丈夫!」
絆創膏は剥がれていた。
「それよりお粥そんなに不味かった?」
春人は薔薇の花瓶をテーブルに起きながら恐る恐る聞いた。
「あぁ、あれか。お粥自体は食べやすかった。しかし梅干しがあまり得意ではないようだ。すまない。あとあまり病気の時にお米はちょっと……」
「なるほど……林檎は?」
「春人、芯はきちんと取ったかい?」
「芯?」
「やはりか。また今度一緒に剥こう。あと塩水の加減も」
「しょっぱかった?」
「……少し」
溜息をつきながらアルバートの横に座る春人。落ち込む春人肩をアルバートは抱きよせた。
「でも君の気持ちは本当に嬉しかったよ。ありがとう」
「どういたしまして。イギリスでは病気の時どうするの?」
「基本的には安静にしておくくらいだ。あと、食べ物は好きなものを食べる。病気で苦しんでいるのだから、せめて美味しいものを食べて心を満たさないとね」
なるほどといった顔をする春人。
翌日からはアルバートが料理をして、普通にサンドイッチや肉料理を作ると心底驚いた顔を浮かべたいた。
「覚えておきます! 好きなものね!」
「では……」
「では?」
アルバートが春人を見つめる。
「好きなものをいただくとするか」
キスをしてシュルッと春人のネクタイを解く。
「も、もう病人じゃないでしょ!」
春人は引き抜かれるネクタイを抑え、抵抗する。
「すまない。また声が出なくなったようだ」
「嘘つきー! ちょっ、わっ!!」
春人の手を払い除け一気にネクタイを抜き去り、ベルトを外していく。
声が出なくて気持ちを伝えれないだけでなく、春人がそばに居るにも関わらず全く触れることが出来なかった。
「こちらもきちんと満たしておかねばなるまい」
「ちょっと!」
ベッドに春人を優しく下ろす。
不満そうな顔をしていてもどこか満更でもないなさそうな雰囲気を醸し出しているのは、春人も我慢していたからだろう。
「君が欲しくてたまらない」
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「ありがとう」
感謝を伝え、彼をベッドの中で激しく愛した。
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