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夢魔
その21
しおりを挟む───夢魔族。
すらっとした姿、長く尖った耳、一見するとエルフと見間違える姿であるが、明らかに違うところもいくつかある。
それが褐色の肌、そして背中に生えたトンボの様な透明な羽だ。
そしてエルフと決定的に違うところとして、夢魔族は生命体と思念体のどちらでもあるという事が挙げられる。
思念体とは肉体をもたず、意思だけがそこにあるもの。逆に生命体は、肉体の器に意思を宿すものだ。
この思念体でもあるという得性のため、夢魔族の栄養摂取の方法は独特だった。
それが『夢食い』と呼ばれる独特の食文化である。
人々が睡眠に入り見ている夢に入り込み、その夢を食べるのだ。
夢を食べられた人々は、その奪われた量に応じた体力を失う事になる。
サンド=リヨンの街で発生していた、寝ているのに疲れ果てているという謎の奇病、それの正体がこれだった。
こんな食文化を持つ夢魔族だが、決して人達に害をなしたい訳ではない。
むしろ自分達に栄養を与えてくれる人達に感謝すらしていた。
美味しい夢を与えてくれる人は、特に夢魔から愛さているのだ。
だが人から見れば夜な夜な体力を奪う魔物だ。
しかも肉体を持ってないので襲われる際に対策のしようもなく、一方的に襲ってくる厄介な魔物という認識である。
そんな認識が世界に広がり、夢魔族は迫害を受ける歴史を辿り、その個体数はどんどん減らしていった。
思念体なのになぜ人々が減らせたかと疑問に思うかもしれないが、それが思念体でありながら生命体でもあるという得性だ。
思念体というものは、油断をするとすぐに吹き飛んでしまうまるで霧のようなもので、飛ばされないように常に魔力でその姿を維持し続けねばいけない。
なので、その状態で居続ける事はエネルギーの無駄でしかなく、肉体を持ちそれに意思を入れることで、維持を楽にしていた。
つまり夢魔族は、基本的に食事以外は肉体を持っている状態なのだ。
肉体があるゆえに、その肉体が傷つくと思念体にも被害が及ぶ。
その結果、迫害で人々に襲われた夢魔族は一気に数を減らしていったのだ。
そんな状況に疲れ果て、敢えて肉体に戻らず思念体のままで過ごし、いつの間にか消滅することを選んだ個体も多数いた。
そんな歴史故に、夢魔族は人々から隠れ過ごすことを余儀なくされる。
だが夢食いをしないと生命活動を維持し続けることは出来ず、ある程度の人里離れたところで見つからない様に隠れ住み、知られない程度に夢を食い細々と命を繋いでいた。
ところで、夢にも味があるというのはご存じだろうか?。
また続きを見たいと思うような楽しい夢ほどとても美味しいものなのだ。
逆に日々のプレッシャー等から寝てまでもうなされる様な夢は、全く美味しくなかったりする。
この美味しさというのが、すなわちその夢の質という事であり、質の高い夢ほど夢食い時の栄養価が高い。
つまり世界が平和で、楽しい夢を見る人か多ければ夢食いは少量の夢で済む。
逆に不安に包まれ悪夢ばかり見る人が多いなら、必要量の栄養を摂る為に大量の夢食いの必要があるのだ。
そして今、世界は魔王の脅威と街の外に出れば魔物が襲ってくるかもしれないという不安だらけの世界で、人々は集まり国という枠の中で互いに守りあいながらなんとか生きている。
こんな世界だと、夢の質はとても悪くなっていくのは当然である。
だから夢魔は夜な夜な何人もの人々の夢を渡り歩き、必要量の栄養を確保する必要があったのだ。
確かにそれほど渡り歩かないで一人の夢を食べ尽くし腹を満たすこともできた。
だがそんなことをすると最悪その人が命を落とすこともあり得る。
だからなるべく気付かれない様に渡り歩き夢食いを続けた結果、そのあまりの被害者の数に国に存在を感づかれ、今回のサンド=リヨンの夢魔討伐へとつながっていくのだった。
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