テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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夢魔

その24

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「と、とりあえず、儂はここの教会に厄介になるのじゃ。不死王よ、2人を頼んだぞ」

昨晩、デレデレの姿を見られてしまい、神官の少女から生暖かいめで見られていた夢魔王は、教会の前で黒衣の青年に告げる。

よほど居辛いのか、顔は真っ赤にして視線は合わせる事が出来ずどこかあらぬ方向を見たままである。


まだ薄暗い早朝。とりあえず教会で5人は夜を明かし、夜が明けたので少女達は夢魔の二人の女性を連れて出発するところだった。

夢魔王は神官の少女にこっちにこいと手招きをすると、少女だけに聞こえる声でぼそぼそと話す。

「分かりましたの。参考にさせてもらいます、ありがとうですの」

少女は笑顔で礼を言うと青年の方へと戻っていく。

「それでは、いってきますの」

少女は夢魔王の方へ手を振り、前に向き直ると青年に並んで街の外へと向かい歩き出した。



朝ウィズ=ダムの街を発って、ルビナの村に到着したのはその日の夕方くらいだった。

万が一の厄介を避けるために夢魔の女性二人にはターバン等をしたまま、パッと見では正体が分からない恰好をしてもらっている。


「おばさまー、マレットですの。いらっしゃいますの?」

とある小さな家の扉を開けて、少女は中に声を投げた。

ばたばたと言う足音がすると思うと、中から少しぽっちゃりとした年配の女性が出てくる。


「あらあら、マレットちゃんかい。なんか冒険者になって街に出たって聞いてたけど、無事戻ってきてたんだね」

女性はとてもうれしそうに少女を見つめる。


「ところで、早速で申し訳ないんですけど、1つお願いがありますの。聞いていただけませんの?」

なにやら真剣に見える少女の言葉を聞いて、女性は「とりあえず入りなさい」と家の中へと案内する。

少女の後ろに3人ついて来たが、全員ターバン等で覆われており、少し異質な空気である。


食卓に座らせ、奥からハーブ茶を煎れたコップを全員の前に置くと、女性は自分も席に着く。

それを確認して、少女は話し始めた。



「お話というのは、この女性をこちらで預かってほしいという事なんですの」

そう言うと少女は横にいた女性を手で示す。

示された女性は身に着けていたターバンとマスクを外し机の上に置いた。


「こちらはガーベラさんといいますの」

そう紹介され、ガーベラは軽く頭を下げる。

「あら?。あんたエルフだったのかい?。でも、肌の黒いエルフってのは珍しいねぇ?」

目の前には褐色の肌のエルフを見て、驚いた風の女性が声をあげた。


「ただ、預かるのは構わないんだけど、うちもそこまで裕福じゃないので、悪いけど食事は大したのは出せないよ?」

女性は言いにくそうに少女に伝えた。

この村で生活してる人々は自給自足でなんとかやってる程度なので、裕福とはかなり縁遠い生活をしている。

正直一人分の食が増えるのは厳しいというのが現実だ。


「その点は問題ありませんの。この方は特殊なエルフさんでして───」

少女は教会でナタリーにしたのと同じ説明を女性にする。

聞いてる女性は驚きながらも、「そんな子もいるんだねぇ…アタシもそんな風になれないもんかね」と笑いながら言っていた。


「一応お世話になるという事で、少しですが、とりあえずお礼を入れさせていただきたいと思ってます」

そう言うとガーベラは、懐から金貨を数枚差し出した。

「こ、こんな大金受け取れないよ!?」

金貨一枚あれば、この村で普通に2人でひと月は過ごせる。

ここは宿屋でも何でもない、単なる農家なのだ。

その上このエルフは(本当かどうか分からないものの)食事が必要ないと聞いている。

部屋を間借りさせるだけでこんな大金を受け取れるはずがない。


「ですが、お世話になる以上受け取っていただかないとこちらが困ります。どうかよろしくお願いします」

ガーベラは机に手をついて頭を下げる。

そんな必死なエルフを見て女性は「しかたないね」というと、ガーベラに頭を上げるように言う。

「わかった、これはあたしがとりあえず預かっとくよ。でも何か要るんだったらすぐいいな、これから払うからね?。とりあえず、今日からよろしく頼むよ」

女性はそう言うとにっこりとほほ笑み、ガーベラは再び頭を下げるのだった。



しばらくすると家の扉が開き、筋肉質な健康的な男性が入ってくる。

この女性の息子で、畑仕事をほぼ一人でやってる若者だ。


「お?。母ちゃん、その子受け入れることにしたのか?」

若者は女性にそんな質問をする。話を聞くと、ここを訪ねる前に先に畑にいって顔合わせをしており、自分はいいのであとは母親に聞いてくれとの返事をしていたらしい。

「若い女性が一緒に暮らすからって、要らない事はしては絶対ダメだからね!」

女性は息子に強めに釘を刺すと、男性は分かってるよと笑って返事を返した。



しばらく皆で話した後、神官の少女が「少し息子さんをお借りします」といって外に連れ出すした。

少女と一緒について来た冒険者達も、ガーベラを家に残し一緒にぞろぞろと出ていった。


「少しの間そのままにしててほしいですの」

裏庭に出ると、少女は若者を切り株に座らせると、その背に回り目を閉じ胸の前で手を合わせた。


しばらくすると、その両手の間に徐々に大きくなるぼんやり光る何かを作る。

両手の平で楽に包める程度のボール位の大きさになったそれを、少女は若者の背中に押し当てゆっくり押し込んでいく。

光が全て若者の中に消えると少女は若者の背中を軽く叩く。


「終わりましたの。一人分多く働いて頂かないと困りますからね。ケガしない様に神様の加護をお願いしておきましたの」

少々息が荒くなっている少女を少し心配しながらも、若者は「それは有り難い」と嬉しそうに言って家に向かって歩き出した。


「それではわたくし達はこれで失礼しますの。おばさまによろしくですの」

少女は若者に言うと一礼をすると、言われた若者は「わかったー」と手を振りながら家へと入っていく。



「さて、次はラベンダーさんの番ですの。えっと…そう、こっちですの」

少女の案内で3人は別の畑の方へと向かって歩いて行った。


言われたラベンダーのターバンとマスクで隠れた顔が、少し鼻息荒く興奮して見えるのは全然気のせいではなかった。

 
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