テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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決起

その4

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「ジュライ、ですの…」

少女は剣士ラーズの質問に答える事が出来なかった。


「ん?。ジュライだよ、ジュライ。中立都市ジュライ、ランク3になったら行くもんなんだろう?」

「…」

少女は下も向いてなにも答えれなくなる。


「あれ?。あんたまだジュライに───」
「ちょっと、ラーズ!。この子が困ってるでしょう!」

少女とラーズの間に、リズが割り入ってきた。


「ごめんね、ラーズが無駄に押しが強くって。私はリズ、よろしくね。えーっと、マレットちゃん?」

そう言いリズは手を差し出し、少女は差し出された手を見ると、顔を上げリズを見る。

顔を上げた少女に、「ん?」っとリズは優しく笑顔を向けると、少女は差し出された手を取った。


「マレット=リラシアですの、よろしくですの」

「うん、よろしくね。マレットちゃん」

横でラーズがブツブツ言ってるが、少女達は気にしてない。


(…いい感じに仲良くなれそうですね)

目の前で拡げられている少女の出会いを、受付のお姉さんはほっこりしながら見守っていた。



それから、少女達はカウンター前を占めていると業務の邪魔だろうと、テーブルの方へと移動する。

「しかし、あんたらもジュライはまだ行ってないのか。機会があれば行ってみたいよな、ジュライ」

「そうだね。でも、やっぱジュライまで行くってなると高いもんね。マレットちゃん達もやっぱそんな理由で行ってないの?」

「いえ、わたくし達は最近その街の話を聞いたんですの。クエストなんかで色々忙しかったんですの」

そっか、稼がなきゃだもんねぇ…とリズは言ってるが、多分それじゃない。



「もし人数が揃うようなら、乗合馬車という手もありますよ?」

書類整理も一段落したのか、飲み物をもって受付のお姉さんが3人が座る机にやってきた。

どうもと3人が飲み物を受け取るのを確認すると、空いた席にお姉さんも座る。


「お姉さん、乗合馬車とはなんですの?」

少女が質問をすると、お姉さんは持って来ていた紙にささっと何かを書きだした。

「乗合馬車というのはですね、何人も集まってお金を出し合って、1台の馬車を借りて目的地を目指すものなんです」

真ん中に書いた丸に、多方向から矢印が書き加えられる。

お金の流れを分かりやすく示そうとしているらしいけど、その必要性は分からない。

「ってことは、同じジュライに行く人を探せば、安く行けるって事か…」

ラーズはぶつぶつ言いながら、真面目な顔をして何か考えている。


「もし私達がジュライ行くとしたら、マレットちゃんも来る?」

リズの問いかけに、少女は入り口のとこでリュートを奏でている黒衣の青年の方を見る。

青年は首を下に振ると、相変わらず楽器を奏で続けていた。

「はい、その時はご一緒してみたいですの」

少女はリズに笑顔で答える。


「それじゃ、何かあったらお姉さんに伝えておくね。いいですか、お姉さん?」

「はい、大丈夫ですよ。あれでしたら掲示板の端になら、募集を貼っておいてもいいですよ?」

おねえさんの気遣いに、3人はありがとうとお礼を言った。


「それじゃマレットちゃん、またねー」
「またー」

2人は少女達に手を振ると仲良く出ていった。

出ていく前に貼らせてもらった募集には、『ジュライへ乗合馬車で行く方募集』と書かれ、何かあったら受付のお姉さんへと書いてあった。

少女はお姉さんに「よろしくお願いしますの」と一礼すると、青年と一緒に扉を出ていった。


(…人数が集まるといいですね)

受付のお姉さんは、これが要らない仕事を抱え込むきっかけとはまだ気付いてなかった。



次の日から、受付のお姉さんの激務が始まった。

この街を拠点にしているランク3の冒険者から、乗合馬車についての質問をされる機会が増えたからだ。

そもそもこの街はジュライは当然として、サンド=リヨンやバースという同じ同盟3国と比べても活気が少ない。

そういうわけで、国力、兵力共に3国最下位だ。

ただ、土地だけは広大にあるので、主要の産業は農業という比較的のんびりとした風土だった。


そこを拠点とし続ける冒険者となると、そこまで上昇志向のあるタイプはおらず、むしろ農業の片手間で冒険者をやってる者も多数いて、一生ランク3止まりの冒険者も少なくない。

そんな人々だが、機会あれば適性を調べてみたい、新たな可能性があるなら伸ばしたい、あわよくば一獲千金したい。

そんな冒険者としての欲望はきちんとあるらしく、そんなチャンスである乗合馬車に低出費でいけるならと、乗り気な者も多かった。

結局、募集の紙の下に蔑視を貼り付け、『詳細は後日説明会で。参加希望者は名前を残しておいてください』と書き置くことにした。


そして数日もしたら、20を超える人数の名前が紙に書かれることになった。

 
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