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前兆
その2
しおりを挟む【…というわけなのじゃ。お前達の方にもオークが来るかもしれん。気を付けるのじゃよ】
【分かりました、姫様。ですが、これからどうされるんですか?】
【ある程度のオークなら何とか止めれますけど、数が多いと厳しいですね…】
【それじゃが、今は街におらぬヤツを呼ぶつもりなのじゃ】
【今はいないって、あの方は今どちらにいらっしゃるんですか?、姫さま?】
【何日か前に『ジュライに行く』って言ってたのじゃ…そろそろ着いておるやもしれん】
【ジュライって…かなり距離ありますよ!?。姫様、どうされるんですかっ!?】
【姫さま…】
【姫…】
【姫様…】
【…最悪、儂らでオーク共を止める。時間を稼ぐだけなら十分やれるじゃろう】
【!!。…でもそんな事をすれば、私達が夢魔であると知られる可能性もありませんか?】
【!?。そ、それは困ります!。私、まだ旦那様と離れたくありません!】
【…それは、私も一緒ですよ、ラベンダー】
【ここを守らずに生き延びて、儂らになにが残るというのじゃ。折角得た儂等の居場所は必ず守るのじゃ】
ふぅ、と夢魔王の少女が息を吐く。
目をつぶり上を向いていたのはほんの数分の出来事で、周囲に少女以外に人影はない。
では今の瞬間まで行われていた複数名による会話はなんだったのか?。
意識体でもある夢魔族の特性の1つで、存在を意識体の世界に置くことにより、物理的な距離に関係なく言葉を送りあう事が可能だった。
それが『念話』と呼ばれる、夢魔独自のコミニケーションである。
そしてこの念話、対象を一度補足さえしておけば、夢魔以外にも送り込むことができる。
ただ、これは別に多種族と会話するためでなく、気に入った餌場(夢を見る人)へ毎回確実に辿り着くために進化していった能力なのだろうと思われる。
その能力を使い、夢魔王はある人物へと言葉を送った。
【不死王よ、少々面倒な事になった。明日の夜、ウィズ=ダムにオーク共が襲撃してくるのじゃ】
そういえば、明確な人数とかは聞いてなかったなと、夢魔王は今更ながらに思う。
【オークの奇襲部隊の様な格好だったので、そこまでの大軍ではなきような気もするが…とりあえず、さっさと戻ってくるのじゃ】
少しの間を開けて、頭に声が響いてきた。
【…なるべく早く帰る…城に向い助力を乞え…「シェイド」の名を出せば少しは話が通る…はずだ】
【…不死王よ。儂等は人間共に正体を知られたくないのじゃが?】
【…じゃあ俺みたく…布でもなんでも巻いていけ…】
なんというか雑な指示だなと、夢魔王は不満を漏らす。
【…少しでも長く足止めしろ…明日の晩には戻る…】
自分達がサンド=リヨンから馬車で3日はかかったような?、そんな疑問が頭に浮かぶが、不死王なりになにか手段があるのかもしれない。
【………お主が戻れるというなら戻れるんじゃろ…よい。何とか足止めは儂等がしよう】
頭の中に「…頼む」とだけ響かせて、不死王への念話は終了した。
というか、なぜ向こうから念話を切れたのかが正直納得いかないが、まぁアイツは不死《アンデッド》だしと自分を納得させる。
(…さて、やる方向性は決まったのじゃ)
まずこのウィズ=ダムを守る───これはマストじゃ。
その守る手伝いを城に要請する───これは布を纏って何とか。
ガーベラ達の村も守らんといかんのじゃ───とはいえ、村にまで来るかどうか分からんし、そっちはラベンダーだけで足りるか?。
方針は決まった、襲撃は明日の夜だというし、一日しか猶予はない。
ここにきて、サンド=リヨンで手放した破夢の秘石が痛い。
アレさえ手元にあれば、邪夢の魔石をかなりの数生み出せたものを…。
まぁ、ないものを考えても仕方ない、やれることをやる。
とりあえず、城へは3人で行こう─────儂1人でいくよりは説得力が上がるじゃろう、多分。
それから、村にいる2人にこっちの街へと出てくるように命じると、夢魔王は目の届く教会だけは自分が守ろうと、意識を広げるのだった。
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