テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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剣聖

その15

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あと一歩で逃げる魔法使いに手が届くというところで、目の前に人影が現れた。

「───────────────」


目の前の人影が何か言っているが、言葉が全く聞こえてこない。

…怒…怒…怒…怒

今、自分の中にあるのは怒りのみだ。


あの薄汚いオーク達に従ってしまった事、大切な部下達を、考え無しに投入されたせいで失ってしまった事。

そして、それを目の前で見ていながら何もやれなかった自分の事。

既に自分は怒りに身を任せてオークを手にかけてしまっている。


「───────────────」

後ろに控えていたバルガスがこれを見逃すわけがない。

仮に魔王城へ戻ったとしても、自分の未来はもうないだろう。


ならば、ならばこそ。

今はただこの内なる怒りに身を任せよう。

目の前の人間共を倒し、この身尽きるまで暴れ、そして誇りある魔族として滅びよう。

「─────」


トロール王はその手始めと、目の前の人影を睨みつけると、問答無用で手にした剣を振り下ろした。



「とりあえず丘にいたオークは滅ぼした。だからお前も話をきけ」

黒衣の青年が声をかけるが、トロール王から返事はない。

それどころかブツブツと何か独り言を言っているようにも見える。


「おい、トロール王?。聞いているのか?」

青年の語りかけにも、トロールは全く反応を示さない。

それどころか、手にした剣を青年めがけて振り下ろしてきた。



逃げていた兵士達は後ろを振り返り、あのトロールが追って来てないことに気付く。

そしてそのトロールの前に、黒衣で身を包んだ人影が立っているのが見えた。

次の瞬間、トロールの剣が人影めがけて振り下ろされる。

そして、叩きつけられた衝撃で土煙が舞い上がり、一瞬だけトロール達が見えなくなった。



「ふむ…聞く耳は持たないか…」

青年は自分に降ってき強烈な一撃を横に飛び避けていた。


【不死王よ!、不死王よ!。着いてたならなんでさっさと言わないのじゃ!!】

いきなり甲高い声が頭に響いた。

【…俺からどうやってコレを送れと言うんだ?】

【…………あっ!…なのじゃ】

気まずそうな感じの声が響いてくる。


【どうも怒りでこっちの言葉が届いてないみたいだな。ところで、他のトロールは無事か?】

【うむ…不死王が言う様に傷はつけておらぬのじゃが?】

そうかと青年は少し安堵する。そして念話で言葉を送る。


【無事なトロールを全員連れて来い。それを見れば少しは落ち着くだろう】

【それはそうかもじゃが…不死王はどうするのじゃ?。トロール王は激昂しておるんじゃろう?】

青年は拳を作り、逆の手の平にと叩きつけると、パァンと乾いた音が響いた。

【こっちは一発殴って落ち着かせれるかやってみよう】

【はぁっ!?、お主正気かっ!?。トロール王の実力を知らぬお主ではないじゃろうが!?】

不死王は頭に響く声には答えず、目の前のトロール王へと構える。

【勝手にするのじゃ!。とりあえず急いで連れてこさせるので、死ぬなよ、不死王!】



「兵士達よ、トロール達を全員連れてくるのじゃ!。ただし、絶対に傷つけてはならんのじゃ!」

夢魔王は動きを止めたトロールを見て立ち止まっている兵士達に指示を飛ばす。

「あのトロールに人質として使うのですか、魔術師殿!?」

「馬鹿者、逆じゃ!。仲間が無事だからと説得するのじゃ!」

「わ、わかりましたっ!。おい、お前達もトロール達を連れて来い。いいな、絶対に傷をつけるなよっ!?」

言われた兵士達は散り散りにトロール達の元に向う。

その様子を見た夢魔王は、今から後ろで今始まろうとする、2人の軍王の戦いを見守っていた。



(…今の剣を躱した?)

トロール王は即座に目の前の者の実力を判断する。

たまたま避けたという感じでなく、当然と避けた様に見えた。

それはこちらに対して普通に構えている事からも間違いないだろう。

油断はしないと自分に言い聞かせつつ、剣を構える。

「このズル汚い人間共めがっ!」

そして目の前の人影を倒すべく、袈裟斬りを放った。


摺り足による足さばきでスッと距離を詰めてからの斬撃を、目の前の人間は普通に避ける。

それどころか、こちらに飛び込んできて拳をこちらの腹部へと狙い打ち込んでくる。

後ろ足を引き半身を切る動きをしつつ拳を躱し、その人影をめがけ剣で横に薙ぐ。

人間はそれを屈み回避すると、止まる事無く下から拳を打ち上げてきた。

自分は背を反らせて回避しつつ、肉薄した目の前の人影を、接近しすぎているために剣の柄で殴りかかる。

人間はその柄に対して、逆の拳で打撃を放つ。

とんでもなく重たい音が響き、2人は互いに距離を取った。
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