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居場所
その24
しおりを挟む「…えっと、あなた達にいきなり畑を与えるというのは無理、というのはまず分かりますか?」
老人の質問に、トロール達がざわつく。
「では、俺達はここで農業は出来ないのか?」
トロールたちの質問に、少女が答える。
「農業というのはこれでいて大変なんですの。何も知らないで上手に育てるのは、難しいんですのよ?」
少女の答えにトロール達は、残念そうに落ち込んでいる。
「これも言った様に、農業とは一筋縄にはいかないのですよ。それに、あなた達の畑も作らないといけませんし」
「あら?。どこか空いてる畑はありませんの?」
少女の質問に、老人が小さく笑う。
「いくつかはありますが、トロールの皆さんがやるほどの広さはないのですよ。それより新しく開墾していく方が、より建設的だと私は考えます」
「じゃ、じゃあ。いつかは俺たちの畑も、この村に作れるってことなんだな?」
少し興奮気味なトロールが老人に質問を投げる。
「はい、その通りです。とりあえずそれまでは、今農家をしてる人達の手伝いからお願いしたいんですが…どうですか?」
老人の問いに、トロール達は顔を明るくして「お願いします」と口々に言う。
「───では、うちの横に空き家があります。トロールの皆さんは、とりあえずそこで生活してもらうって事で宜しいですか?」
老人の提案にトロール達は快く同意した。
「食事等は…そうですね、店なんかもないですし、とりあえずうちで出しましょう。大したものは出せませんが。兵隊さん、それでよろしいですか?」
老人が質問をすると、兵士は同意する。
「ただ…こう言ってはなんですが、ご老人は大丈夫なんですか?」
ずっと気になっていたのか、兵士が逆に老人に質問を投げかける。
「今はこうして隠居してますが、昔はそこそこの冒険者だったのですよ。度胸だけは無駄にありましてな。ホッホッホ」
老人が愉快そうに笑うので、兵士は「そーですか…」としか言えなくなった。
「あ、忘れてましたの。お城から『準備金』を預かって来てますの」
少女が肩から下げた小さな鞄から小さな袋を取り出すと、そのまま老人へと差し出した。
「おぉ、これは助かります。兵隊さん、王様によろしくお伝ください」
老人は兵士達の方に顔を向け、小さく頭を下げる。
それからしばらく、トロール達の村での生活について話し合った。
「───本当に、1人も残らないで大丈夫なのですか?」
兵士が少し不安そうに老人に尋ねる。
「とりあえず明日まではわたくし達もいますし、気にしないでいいですの」
「…まぁ、十分に訓練を経て連れてきていただいたと聞きましたし、大丈夫でしょう」
老人と少女にそう答えられて、兵士も「そうですか…ではよろしくお願いします」というのが精一杯だった。
その後、兵士二人は老人達に頭を下げて、村の外へと出ていった。
そんな風に兵士を見送りながら、老人が肩に手を当て腕をぐるぐると回しだす。
「あー…やっぱあの口調は疲れるな。肩が凝っていけねぇ」
「…いつも思うんですの。なんでホーガンさんは、知らない人が来たら変な口調になりますの?」
少女が老人をじーっと見ながら不思議そうに言う。
「一応オレが村の代表って事になってるからな、それなりに落ち着いた方が向こうも安心するだろう?」
「そんなもの、なんですの?」
ガハハと笑いながら「そんなもんさ」と少女の頭を撫でる。
「しかし…あの嬢ちゃん達といい、今回のトロールといい、お前らはこの村をどうしたいんだ?」
口調は楽し気なまま、老人は青年へと質問を投げる。
「…別に、どうもしない。ただ、あいつらのやりたい事と噛み合ったから連れてきただけだ」
「ほーん…まぁいいけどな。こんな老人だらけの小さな村だ、若い労働力が増えるなら大歓迎さ」
老人は青年の肩をバンバン叩きながら、楽しそうに笑っている。
「でも、ラベンダーさん達の事、いつの間にか気付いてましたのね。内緒にしててごめんなさいですの」
「元々なんとなく気付いていたんだけどな…まぁあの嬢ちゃん達の頑張りで村に被害は出てないわけだし、何も問題は無かろう?」
老人は少女の方を見てニヤリと笑っている。
「そーですの。とりあえずラベンダーさん達を通じてお話はすぐ伝わりますの。何かあったら直ぐに言ってくださいですの」
少女は真面目に、ちょっとだけ口調を強めて老人に釘をさす。
老人は「おうっ、分かってるって」と手をヒラヒラさせながら自分の家の扉を開けた。
「ってなわけで、今からここの案内ついでに、村の者達に挨拶に行くぞ?」
老人は中にいた4人のトロールに声をかけると、いきなり口調が変わった老人に少し戸惑ったのか、トロール達が驚いた顔をした。
「まずは開墾して畑作って、水路なんかの導線も考えなきゃいけねぇ。作物ごとの作り方も覚えなきゃいけねぇし、村の者達と協力してやんねぇと、まず上手くいかねぇぜ?。土地もやる事も文字通り山ほどある…がんばれよ?」
老人の言葉に、トロールたちは元気よく「ハイ」と答えた。
その後、トロール達は老人達に連れられて、村の家を一軒一軒回っていく。
老人と少女が一緒にいるからの安心感なのか、住人達は少し驚きはしながらも、トロール達を村の住人として快く迎えてくれるのだった。
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