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村の診療所
その8
しおりを挟む「───はい、とりあえず痛みはこれで収まるはずです。まだ痛むようでしたらまた来てくださいね?」
「はい…司祭様、本当にありがとうございます。ありがたや、ありがたや…」
あいかわらず司祭を拝むおばあさん達。
司祭の女性は、もぉ諦めたのか「あはは…」と困った様な笑顔を返す。
「しかし、司祭殿も物好きですな?」
大男の騎士が司祭へと話しかけた。
「えーっと、騎士殿。それは一体何のお話でしょう?」
「いえ、別に癒してやる義理もないのにと思いましてな。我らは研究のために来ているというのに、よくあの老人達やトロールの相手をするものですね」
司祭は視線を遠くに飛ばしながら、どこか自分に言う様に話し出した。
「そうですね、私もこの村に着いた時はそんな風に考えていましたけど…教えられたんですよ」
司祭の顔は、どこか満足気に見える。
「───はい、マレットさんありがとうございました。しかし、本当に不思議な現象ですね、これは…」
「そーなんですの?。自分ではよく分からないんですの」
少しだけ申し訳なさそうに少女が答えると「あ、そんなつもりでは言ってないんです」と女性がフォローをする。
前にジュライで言った様に、ジュライから高位鑑定士と司祭、そして数名の護衛が街にやって来て2日が経った。
初日に少々トラブルがあったものの、それ以外は特に何事もなく日は変わり、今日は少女が状況を診せに来てくれる日だったのだ。
「マレットさんが力を預けた男性というのは、この村にいらっしゃるんですよね?」
「えぇ、そーですけど、あちらにも色々やる事があるんですの。あまり邪魔はしない様お願いしますの」
少女を診ていた高位鑑定士の女性は「分かりました」と同意を示す。
「もし可能なら、一度力を預けるところを見せていただきたいんですけど、やはり難しいですか?」
女性は少女の方を見ながら、少し言い難そうに尋ねる。
「んー…理屈は分かってませんが、一度やるとまたしばらく出来なくなりますの。今はまだなんとなく、足りない気がしますの」
「そーですか…あ、すいません。足止めしてしまいましたね」
女性が少女に「とりあえず今日はありがとうございました」と頭を下げる。
「すいません、ここに司祭様が来てるってきいたんですが!。お願いします、母を診てもらえないでしょうか?」
建物の外で、切迫した感じのする男性の声がする。
着替え終わった少女が外に出ると、村の男性が大男の騎士に止められていた。
「あの…どうかされましたの?」
「あ、マレットちゃん。帰って来てたのか…こんなところで何してたんだ?」
男性が建物から出てきた見知った少女を、少し驚いた顔で見る。
「色々とあって、中で診てもらってましたの。ところで、何か声をあげてましたが、何かありましたの?」
「ちょっと、おかぁが足を滑らせて転んでな、腰が痛いって全く動けなくなってるんだ」
少女は驚いた顔をして「では、急いでいきましょう」と男性の手を取って引っ張る。
「でも、この中に司祭様が居るんだろう?。マレットちゃんでもありがたいんだけど、もし良かったら司祭様に診て欲しいって思ってるんだよ」
「そーですね…確かに、わたくしより司祭様の方が安心ですの…」
少女が分かり易く落ち込み、男性は「ごめん、そんなつもりじゃ!?」と必死にフォローをしている。
そんな騒ぎを奥で聞いていたのか、立派な服装をした司祭が少女達の前に出てくる。
「申し訳ありません、私達は今研究の一環でこちらに来ているのです。ですので、職務中に席を外し診に行くというのは、少し難しいです」
しゃんと立ったまま司祭は男性へと告げる。
「そ、そーですか。すいません、わかりました…」
男性はきっぱりと断られ、分かり易く肩を落とす。
「とりあえず、わたくしも行きますので、急いで戻りますの」
「あぁ、すまねぇなマレットちゃん。オレ、あんな事言ったってのに…」
申し訳なさそうに言う男性に、少女は「わたくしは大丈夫ですの」と声をかける。
少女と男性は並んで建物を離れていく。
その後ろから、ずっと外で楽器を奏でて待っていた黒衣の冒険者もついていくのだった。
司祭と高位鑑定士の女性は、去り際に少女が残した言葉を胸で反芻させて、立ちすくんでいた。
『もしかしたら、これが沢山の人を救う為の研究に役立てればとわたくしは思ってましたの。でも、目の前の人も救えない様で、その意味はありますの?』
「あの、司祭様…」
女性が司祭をどこか気まずそうに見る。
「分かってます…」
司祭も唇を噛み、どこか悔しそうな顔をして、何も言えないままでいた。
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