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司祭長 キール
その12
しおりを挟むこの村に来てそれなりの日数が経ちました。
これまでの時間でコツコツと積み重ねていた研究の日々、今日やっとその成果の一つが成されようとしています。
あ、突然すいません、自己紹介もしていませんでしたね。
私、少し前からこのルビナの村にジュライより参りまして、『とある』研究の為に滞在している機関の職員をやっております。
名前はエリー、職業は高位鑑定士というものをやらせていただいてます、よろしくお願いします。
「───ところで、毎回毎回申し訳ないのですが、その光を分けるというのはまだ無理そうですか?」
数日に一度、私達の研究への協力の為に訪れてくれている神官の少女に、私は尋ねる。
この少女を色々観させてもらって、他の対象なども観て、そーいうものというのは理解は出来ているのですが、まだまだ未知数です。
やはり研究者としましては、一度その行動を見て正確に判断したいと思うわけで、毎度つい尋ねてしまいます。
「そうですの…多分これくらいなら何とか出せそうな気がしますの」
少女はそう言うと、両手で水を掬う様な格好をしました。
良く分からないけれど、あの手に乗る程度の大きさ、という事なのでしょうか?。
「本当ですか?。でしたら、本国に連絡を取って司祭長様達に連絡をしてみますね」
「あら?。わざわざキールさんまでいらっしゃいますの?」
少女が不思議そうな顔をしています。
でもそうですよね……ジュライの司祭長キール様と言えば、人間の中で数本の指に入る高位の司祭です。
この建物で一緒に研究している司祭様もかなりの実力ですが、その更に上を行く……普通だったら会う事すら出来ないくらいに凄い人なのです。
そんな司祭長様が、稀有な研究の確認の為とはいえ、わざわざジュライから出てくると言っているのです。
目の前の少女でなくても、それは驚くのは仕方ありません。
「えぇ、もしそれが可能になったら必ず連絡してくれと言われております。可能ならば自分が被験者となりたいともおっしゃってまして」
「そーですの…」
いつもの協力的な態度とどこか違って、いまいちイヤというか乗り気じゃない、そんな感じがします。
「えっと…マレットさん、もしかして光を取り出してもらうというのは、迷惑なのでしょうか?」
「いえ、そーいう訳ではないんですの……えぇ、分かりましたの。ではキールさんが来る日の付近にはこちらに戻る事にしますの」
少女がどこか自分に言いきかせる様な動きをして、こちらをまっすぐ見てくれました。
「ホーガンさんの方に戻ってくる日程を伝えていただけたら、わたくし達にも伝わりますの。よろしくですの」
「はい、分かりました。いつもご協力ありがとうございます」
私が姿勢を正して頭を下げると、少女もおなじく頭を下げてくれます。
そして少女は席を立ち、そのまま入り口の兵士達に挨拶をしながら外へと歩いて行きました。
建物の外にはいつもの様に楽器を奏でながら、のんびり待つ黒衣の青年が待っています。
そして少女と黒衣の青年は並んで、この村のまとめ役のホーガンさんの家の方へと歩いて行きました。
それから10日ほど経ったでしょうか?。
5日後の昼頃にはこちらに着くという内容の手紙が、本国より届きました。
司祭長が数日に渡り国を離れる、そんな大事を決めて行動を起こすにしては異様に早いスケジュールです。
今回のこれが、司祭長様にとってどれだけ興味深い研究なのかがひしひしと伝わってきます。
研究をしている私からしては、これがどこまで可能性があるのかイマイチ実感しにくいというのが本音なのですが。
でも、真理の追求という意味では、未知のものに触れられるこの機会、研究者の血が騒ぐというものです。
私は兵士さんにこの手紙に書いてあった司祭長様の来訪予定を、ホーガンさんへと伝えてもらう様に頼みます。
さて、司祭長様が来られた時に備えて、お迎えする菓子やお茶などを準備しましょうか。
幸い村に小さいながらも商店が出来たので、日持ちをするものならすぐ手に入る様になりました。
更に店に伝えておけば、数日の一度の馬車で一緒に、街から注文の品も届けてもらえます。
いやいや、こんな小さな村にこんなしっかりした商店を作るとは、このアドル商会というのは中々の手腕だと感心しますね。
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