サイオニック・レイヤーズ

来星馬玲

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羅刹の風神、雷神

サイオナニーの実態は……

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 暗くじめじめした一室。石を思わせる素材で覆われた床は冷たく、内装は昔の牢獄のようであった。幾つかの朧げな蛍光灯の明かりだけが内部の情景を視覚化しており、些か時代錯誤な閉鎖的空間は、現代社会から隔離された異質なものと言えた。

「ひぃぃ……ひい、はひ……はうぅぅん!」

 内部に反響する嬌声。それは一つや二つではない。

「あが……がぁ、はぁぁ」

「あん……あんっ……つぅうう」

「ふう、ぅふう、ん、ん」

 全裸に剥かれた女たち。その多くはまだ十代の少女であり、微弱な青白い光に照らされた裸身は、未成熟の梅の果実に似ていた。

 少女たちのヴァギナとアナルには灰色の管が男性器の如く挿入されており、その管は床と繋がっている。無数に横たわる少女たちは冷たい床に直に素肌を接したまま転げ周り、身もだえし続けていた。
 
 やがて、天井からするすると新たな管が降りてくる。それは床から生えているものよりも太く、大口を開けて喘いでいる一人の女の口内に狙いを定めると、彼女の喉奥へと乱暴に入り込んだ。

「んご、おごぅ……」

 所謂、三穴責めである。女の呻き声は、己の肉体が無理やり雌として開発されていくことへの無力感と悲壮感、苦しみに満ちていた。

 カツン、カツン、カツン……と、高い靴音が響く。靴音は一室のすぐ傍で止まった。重量感のある扉がゆっくりと開かれ、それぞれが黒で統一されたハイヒールにランジェリー、Tバックを身につけている成熟した女――ライキが入ってきた。

 ライキは丸めた鞭を握りしめたまま、狂態を晒している少女たちの身体をジロジロとなめ回すように視察している。

「はん……大した養豚場だこと」

 その言葉には、あからさまな侮蔑の響きがこもっていた。

「さあ、今日の収穫は……」

 ライキは鞭を手にしたまま少女たちの合間を歩む。その悠然とした歩みは、まるでファッションショーの如きものであった。

 ふと、ライキが立ち止まる。ライキの足元では、疲弊しきった少女が「はあはあ」と息をついていた。

「……あんたは駄目」

 鞭が一閃する。

「ひん!」

 子馬のような悲鳴が反響する。打たれた少女は、非難めいた目をライキへ向ける。

「反抗的ね」

 鞭が繰り返し振るわれ、少女をめった打ちにした。皮膚が剥がれ、次々と刻まれていく痛々しい傷跡とともに、血風が宙を舞う。痛みに耐え兼ねた少女はひたすら従順になろうと努めたが、成長過程にある敏感な肌を奔る激痛がそれを妨げた。

「ふん、つまらないわ」

 結局、ライキが飽きたことでようやく鞭打ちから解放された少女。だが、安堵の息をつく隙などはなく、ライキの背中越しに、天井から伸びてきた新たな管が少女の口に潜り込み、三穴責めが開始された。

「あんたもダメ」

 もう一人、鞭で打たれる少女。彼女はライキの怒りを買わないようにしようと懸命になって喘ぎ声を張り上げ、目を伏せた。

「まるでイメージできていないって、わかるんだよ。馬鹿ね」

 ライキは更にもう一撃を加えたが、すぐに興味をなくした様子で相手に背を向けた。続けざまに天井から管が垂れ下がり、新たな犠牲者へと接近していく。

「あんたは……」

 ライキから睨みつけられた少女。垂れ下がっている二本の三つ編みは、彼女なりの精いっぱいのオシャレの表れであろうが、それも薄汚れた一室に全裸のまま閉じ込められてからは手入れをすることも許されておらず、ぐしゃぐしゃにほつれ、体液と泥と錆まみれになっていた。

 ライキが鞭を振り上げると、彼女は全身を強張らせた。何とかライキの気を惹こうと必死になって嬌声を上げようとする。

「論外」

 鞭はそのまま下げられた。振るわれなかった暴力は、かえってライキの眼前の少女の恐怖心をかきたてる。

「どうしようもないクズね。本当にサイオニックなのかしらね?」

 ライキがパチンと指を鳴らす。その合図で、少女の女陰と肛門を貫いていた管が二本とも離された。ライキはひくひくと蠢く相手の陰唇を覗き込みながら、罵声を浴びせる。

「さあて、どうしてやろうかねえ。お前みたいなカスを生かしておいても、リソースの無駄だし」

 少女は四肢をビクンと震わせた。 

「あ……待って、待ってください。今、今、意識を、集中、させて……」

「あらそう? じゃあ、精々頑張ってみなさい」

 少女は裸体を悶えさせながら、懸命になって自らの女性器を愛撫し始めた。

「お前の思い描く理想の相手を想像しなさい。その相手との行為に没頭したサイオナニーによって、お前自身の内なるサイパワーを実用可能なレベルにまで引き上げるの……はい、減点十」

 一閃。陰核を正確に狙った鞭の一撃で、少女は絶叫した。目頭から大粒の涙が伝う。

「減点五十で止めを刺してあげるわね。ほら、股おっぴろげて、創造を迎え入れな、雌豚。……はい駄目ね、減点十」

 十分に熟していないユスラウメのような乳房の先端に、強い衝撃が走る。乳首が千切れ飛んだと思う程の痛みに、少女は陸に上げられた狂った魚のようにのたうち回り、泣き叫んだ。

「想像しています……想像しています」

 少女の訴え。しかし、ライキにとってはただの見苦しい反抗でしかなかった。 

「減点二十」 

 少女の意識は己を襲っている惨事にかかりきりであった。想像による快楽を追求しようなどという心的余裕など微塵もない。それが、ライキには易々と見抜かれていた。

「減点……」

「ひぃ……死ぬのはいやだ、死ぬのは、いやぁ……」

 鞭が少女の股間の合間の床を打つ。

「おひいぃぃぃぃ!」

 少女の股間からおびただしい量の小水が吹きあがった。黄金色の液体が床を濡らしていき、小さな水たまりを形作る。やがて、少女は両足をビクンビクンと痙攣させたまま伸ばしきると、そのままこと切れたかのように失神した。

「……汚ねぇ、豚未満が」

 ライキはつまらなさそうに、監禁されている他の女たちを眺めた。ふと、ライキは一室に誰かが入ってくる気配を感じ、その場に立ち止まった。

「ライキぃ、あんまりこの子たちを虐めてあげないでねぇ」

 ねちっこい喋り方。ライキは話し手の方へ振り向くと、苛立ちながら吐き捨てる。

「どいつもこいつも半人前。これだけ不作だと、この豚どもを使ってストレス解消しておかなかきゃやってられないわ。……姉さま」

「この子たちは私の部下が頑張って探し出して、スカウトしてきたのよぉ。少しは、労ってくれないと困るわ」

 ライキから姉と呼ばれる人物。バストはライキより二回りも三回りも大きく、Rカップほどはあるかもしれない。その巨大な果実を白で統一されたボンテージスーツで覆っていた。ハイレグ型の部位は股間の茂みを隠すには不十分であり、異様なほどにムチムチした太ももが強調されている。

 新たに現れた女は先ほど失神した少女に歩み寄り、喉元をさすり上げた。

「ん……」

「気がついたわねぇ、子猫ちゃん。……ごめんなさいねぇ、私の妹のせいでこんな目にあわされちゃって」

 口調は優しかったかもしれないが、意識を取り戻した少女の眼はひきつっていた。

「た、助けて……」

「んん~? なんだってぇ?」

 巨大な乳を少女の喉に押し付けながら、尋ねる。

「フウキ様、助けてください……お家に、帰りたい……」

 フウキ、それがライキの姉である女の名前であった。

「それは、無理よぉぉ」

 フウキが告げた。少女の顔が絶望に染まっていく。

「私たちサイオニックはねぇ、進化した選ばれし人類なの。まだまだ中途半端だけどねぇ。だから、選ばれし者同士でないと生きていけないのよ。もう、前の生活になんて戻れはしないの……わかる?」

「わからない……わからない……」

「肉体と精神はね、切っても切り離せない関係なの。生きている限りはねぇ。だから、サイオナニーによって、まずは肉体をサイオニックに相応しいものへと開発していかなきゃいけないの。ふふ、大丈夫、今はわからなくても良いのよぉ」

「こんなゴミを改良したって大した成果を上げられるとは思えないけど」

 フウキは少女から乳房を離し、悪態をついているライキの方へ振り向いた。巨大なバストがぶるんと揺れる。

「あらあらぁ。ライキちゃん、イライラタイム? 短気でちゅねぇ。反抗期かしらぁ」

 フウキは妹を甘やかすように言う。

「うら若いこの子たちが、ゆくゆくはサイオニックを導いていくのよぉ。そして、やがては私を斃せるほどに成長してくれるかもしれないしぃ」

「私でも姉さまに敵わないのに、そんなのできるわけない……」

 ライキが呆れたように呟いた。

 フウキは新たに目星をつけた別の少女に近づくと、その頭を労わるようにしてさする。

「あなたとか……見どころありそうね。いつか、わたしを殺してねぇ」

 彼女は首を左右に振った。

「……そんな、フウキ様を……恐れ、多いです」

「んーん。死にたいわけじゃあないのよぉ。ずっと生きていたいわぁ。生きて、滅茶苦茶にされて、殺されたいだけぇ」

 フウキという女は、強い生存本能と強烈なマゾヒズムの権化だった。本来なら相反するものであったかもしれないが、殺される快感を味わい続けたいという願望は、想像を実体験として体感できるサイオニックでは稀にみられた。ただ、フウキの場合はそれが強すぎたと言える。

 フウキのサイオニックとしての能力もまた、異常過ぎるほど強い。それ故、自分に歯向かえるほどの実力を持ったサイオニックにも恵まれず、本気で自分を殺しにかかってくるほどの強豪を育てることに執着していた。

「姉さま……でしょ? 部下の戦闘員に余計なことを吹き込んだのは」

 ライキが言うと、フウキは不思議そうな面持ちで、わざとらしく首をかしげて見せた。

「あらあ、何のことかしら?」

「しらばっくれないでよ。今朝、私の部下が私に何の断りもなく、あの被験者の寝込みを襲ったわ。私は前々からあれの目星をつけて、あとちょっとのところで居場所を特定できそうだった。その寸前にあいつらが被験者を見つけるなんて、いくら何でも出来過ぎているわ」

「ええ、そうよぉ」

 フウキは全く悪びれた様子もなく、言った。

「騒動を起こしてやれば、レイヤーズが先に被検体を回収するのはわかっていたもの。被検体はね、レイヤーズの元に渡った方が何かと都合が良いの」

「……また、敵を強くするため、とか言うつもりじゃないでしょうね?」

「あーら、わかっているじゃない」

 くすくすと笑いだす、フウキ。そう、フウキにとって、僅かでも自分に立ち向かえる可能性のある敵の登場の可能性は願ってもない話なのだ――ライキは頭が痛くなった。

「羅刹とレイヤーズ。最終的にどっちが勝ってどっちが負けるとか、私にとってはどうでもいいのよぉ。実力を高め合った者同士の闘争そのものに意味があるんだから」

「理解できないわ……姉さまの戯言」

「うふふ。私よりも強くなって、全力でぶつかってくれるのはあなたでも構わないのよぉ。ライキ」

(それができたらとっくの昔にそうしている……)

 ライキのサイオニックとしての実力は羅刹党の中でもかなり高く、次期最高幹部候補とも目されている。それでも、立場上は同じ階級である姉のフウキと比較したら赤子のようなレベルであり、それがライキのコンプレックスだった。

 フウキはその性格上の問題で、サイパワーの強さは党内でトップクラスでありながら昇進には恵まれていなかった。フウキは全く気にしていないが、ライキにとっては猶更気に喰わない話であり、そういった苛立ちと他のサイオニックたちの不甲斐なさが、ライキ自身のサディズムを加速させる要因にもなっている。

「……この豚どもの中に、私の株を上げるための生贄になってくれそうな奴がいてくれればね」

 羅刹党の新しい女戦闘員として調教されているサイオニックたち。既に、天井からは全員分の責め苦が垂れ下がっており、皆が三穴責めによってよがり狂っていた。幾人かの例外はあったが……。

「こんな機械に頼らないとまともなサイオナニーもできず……機械に頼った行為すらも不完全なサイオニックたちばかりじゃあ、夢のまた夢だわ」

 うるさい姉の目の届かない所で、今度はどの娘をいたぶってあげようか――ライキの関心はそちらに移り変わっていた。



 自分とアユミを引き離さないこと、それと、アユミと行動を共にしていた羅刹党の戦闘員たち――サキとアンジュの身の安全の保証。この二つが、ぼくがサイオニック・レイヤーズの本部に同行する代わりに要求した条件だった。

 後者に関してはアユミからのたっての願いだ。恐怖に駆られていたとはいえ、二人を見捨てて逃げてしまったので、アユミは自責の念を覚えていたらしい。

 正直な所、ナギとカナデが要求を呑んでくれる自信は無かった。一瞬にして過去が崩壊したぼくには、拒否権などないというのが何となくわかっていたから。でも、二人ははっきりと承諾し、約束は守ると念を押してくれた。

 それを聞いたアユミが、今朝まで敵だった相手に対して深々と頭を下げ、礼を言った。ぼくもつられてお辞儀をしてしまう。実際、この二人は信用しても良い――漠然とだけど、そんな気がした。
 
「ゴキちゃんがこうもあっさり状況を理解してくれたのは驚きだよ。むしろ、こっちが感謝したいくらいだね」

 ナギはそう言うと、にこっと笑って見せた。相変わらずのゴキちゃん呼びが気にかかったが、今更指摘しても仕方がない気がしたので、黙っていた。

「被検体G、あなたの境遇は本部に戻ってから改めて説明しますね。まずは、ついて来てください」

 カナデが妙に改まった口調で言う。ぼくは「はい」と答えて頷き、傍らのアユミも了解した。

 今回の一件はまだわからないことだらけだけど、ぼく自身、このまま自分が何者であるのかも理解できずにいるわけにはいかなかった。

 ぼくは傍らのアユミを見やる。アユミもぼくを見つめ返して、そっと腕を握ってくれた。心地よい体温。今のぼくにとって、彼女の存在だけが自分を繋ぎとめてくれる。だから……アユミのためにも、ぼくはぼくという存在を理解しないといけないんだ。

 アユミは、ぼくの部屋にあった男者の服を着ていた。もう羅刹とは縁を切りたいと言って、あの行為の際に脱いだ戦闘員の服を着るのを嫌がったのだ。

 こんな魅力的な女の子が無骨なぼくの服を身にまとっていて……しかも、それを上手に着こなしている。そう思うと、彼女に対する愛おしさがこみ上げてきた。

 ナギたちの前でなかったら、ぼくは感情の高ぶりのままにアユミを抱きしめていただろう。ぼくの独りよがりなのかもしれないけど、アユミもそうされるのを望んでいる気がした。

 ぼくとアユミを興味深げに見比べていたナギが、カナデの方を見やった。カナデが目配せをする。それが何を意味しているのか、ぼくにはわからなかった。

「それじゃ、ついて来て。勝手に離れて迷子になったりしないようにねー」

 まるで子ども扱い。でも、実際に前も後ろもわからない今のぼくが相手では仕方がないし、悪戯っぽく笑うナギに対して、悪い気はしなかった。

 羅刹党の工作員は街中にも潜んでいるとの話だけど、ナギやカナデといった熟練のサイオニックがいれば敵側もおいそれとは手を出してこないだろうというのが、彼女たちの見立てだった。

「でも……今朝のライキ? という人が出てきても大丈夫なの?」

 ぼくがその名前を出した時、一瞬、アユミがびくっと肩を震わせた。嫌なことを思い出させちゃったな――ぼくは後悔していた。

「ライキの実力はまだ不明の部分も多いけど、今は周囲でサイオニック・レイヤーズの仲間も睨みを利かせているから……敵も迂闊なことはしてこないでしょうね。もっとも、警戒は怠らないようにしないと」

 カナデの自信ありげな答え。彼女がそう言うのなら、取りあえずは安心しても良さそうだ。

「アユミちゃんの話が本当なら、羅刹党の内部事情にも問題がありそうだしねー。ま、出てきたら出てきたでヤバい奴は他にもいるんだけど……」

 ナギの言葉は不安を煽った。

「ナギ」

 カナデの若干咎めるような口調。

「まあ、なるようになるでしょー」

 少し茶目っ気な雰囲気はあるけど、はつらつとした態度を崩さないナギには何となく好感が持てた。

 そして、ぼくたちは冬華荘をあとにする。ぼくが長年住み慣れたアパート……そう思っていたけど、昨日の記憶も消えてしまったことを思えば、そんな場所ではなかったのかもしれない。ぼくは一抹の寂しさを覚えていた。
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