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羅刹の冥土隊
緑の魔女に誘われて
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意識がはっきりすると、真っ先に視界に飛び込んできたのはクリーム色の天井だった。どうやら夢の中と同様に、仰向けに寝かされていたらしい。
全身にはびっしょりと汗をかいており、重い疲労感がある。でも、少し力を入れれば四肢を動かすのに支障はなかった。
だけど――。
「う……あっ!」
ぼくは何も身に着けていない。生まれたままの姿というやつだ。何処かに備え付けられている換気口から外気が流れ込んでいるらしく、低温の空気の流れが身体中に付着している汗を冷やしているのが感じられた。
そして、夢の時もそうであったように、ぼくの股間のそれは痛いくらいに勃起している。思わず足を折り曲げたところで、固くなった肉棒がメトロノームの様に勢いよく振り上げられた。
「お目ざめね」
女性の声。間違いない……アラベナだ。アラベナは、ぼくが横たわっているすぐ横で回転椅子に腰を下ろしており、白衣から覗かせている艶めかしい太ももを交差させていた。
「アラベナ……さん」
ぼくはそう言いながらも激しい羞恥心を覚え、思わず足を折り曲げて下半身を少しでも隠そうとする。しかし、勃ち上がったペニスはぶるんと八の字を描くように振り回され、余計に恥ずかしい思いをしてしまう。
「どうして、こんな……」
訳も分からず、そう呟いた。
「言ったでしょう、私はあなたの主治医。心配だったから、診てあげていたのよ」
確かに、ぼくが寝かされていたのはアラベナの部屋に備えられている診察台の上だった。ただ、何故、全裸で横たえられていたのだろう。どうしても腑に落ちない。
「そこは至って正常、ね」
アラベナの露骨な視線が、股間に突き刺さる。
「アラベナさん……」
ぼくは気を落ち着かせる。含羞は所詮、個人のもの。ぼくの中ではアラベナに対して問い詰めなければならないことが山積みになっているんだ。
「……サキに何か入れ知恵をしたのは、アラベナさんだよね?」
「ふふっ。そうかしら?」
わざとらしく首をかしげて見せるアラベナ。その余裕そうな態度を見ていると、内心ムッとしてしまう。
サキがアラベナの名を口にしていたのを、ぼくは忘れていない。チカたちがレイヤーズの裏をかくことができたのも、アラベナの関与があったからではないだろうか? それに、カナデがぼくに迫ってきたのだって、アラベナの企みだったはずだ。
「残念だけど、あなたが思っているほど、私の思い通りに進んでいるわけじゃないわ」
アラベナはそう言ったが、納得できる返答なはずもない。
「……サキが私に欲したのは、サイオニックの力の源、羅刹党とサイオニック・レイヤーズの優劣の話。個人が組織の歯車となり、徒党を組む羅刹に対して、個々の創造力を高めることに執念するレイヤーズ。両者を衝突させれば、どちらがボロを出すか」
「じゃあ、やっぱりアラベナさんが扇動したんじゃ……」
「いいえ。私は止めた」
「…………」
あの戦い。ライキを倒すために、単身、敵の拠点にカナデが攻め込んだ。普段の冷静な彼女からは考えられない行動だった。そして、カナデを助けるために、レイヤーズ全体が団結して行動を開始した。
「で、レイヤーズと羅刹党が戦ったらどっちが勝つって言ったの?」
場合によっては、その問いの答えが扇動と同義になり得るかもしれなかったんだ。
「レイヤーズが勝つと言ったわ」
あっさりとした返答。ぼくは憤る。
「そんな……でも、あの時、レイヤーズは……」
「当然、双方が大勢の死者を出す。サイオニックの未来も潰える。だから、そう言って止めた」
そんなの、責任転嫁ではないだろうか? そもそも、何を根拠に片方が勝つなんて断言するのか。
「止められなかったじゃないか……」
ぼくの脳裡に、あの惨劇の光景がよみがえる。
「……そうね。もうカナデが出ていった後だったから……所詮、私一人が止めようとしても、狂ったように回り出した歯車は手に負える代物ではない……」
あの時……羅刹の構成員が大勢死に、レイヤーズの方もカナデ、チカ、サヨリも命を落とした。そして、後から聞いた話では、あちこちでレイヤーズと羅刹の衝突が相次ぎ、その何れもの戦闘で……死人が出た。戦いとはそういうものだと語ったナギの言葉が過るが、そんな理屈だけで納得できるものでもない。
「レイヤーズもまた、サイオニックの在り方を見つめ直す時が来てしまった……キリエや、他の上層部の者も、ようやく事態を重く見ている頃合いね」
アラベナの態度は相変わらずだった。いつも不気味なほど冷静なんだ。
「縮んじゃったわね」
一瞬、その言葉の意味が理解できなかった。萎えているぼくの男性器を指しているのだとわかると、ぼくはまた羞恥を覚えた。
「それだけで、大勢のサイオニックが得るべきものを得られず、残念がるでしょうね」
「……ふざけないでよ」
「まじめよ、私は」
ドキリとさせられるほど、心に刺す冷たい響きだった。
「前にも言ったけど、あなたは自分のしたいようにすれば良い。枷をはめても事態は好転なんてしないものね。そして、自己の存在を見つめ直さなければ……」
アラベナの瞳が碧緑の輝きを宿す。直視していたぼくの網膜に、緑の痕が刻まれたような気がしてしまう。
「あの戦いがもたらした結果の、一番の責任が誰にあるのか……自分でよく考えてみることね」
アラベナはそう言うと、回転椅子から立ち上がる。その時、またあの緑の匂いが鼻孔をくすぐるのを実感した。やはり、あの緑色の髪からは何らかの植物の芳香が漂っているのだろうか?
アラベナはそのままの足取りで一室の隅にある棚の方へ向かう。そこで何やら分厚いファイルを取り出し、書類をぱらぱらとめくっていた。
アラベナの態度には不穏なものがあったけど、ぼくはいい加減に服を着たかった。思えば、大事な話をするのにこんなみっともない姿のままというのは不条理だろう。
「そこに着替えがあるわよ」
アラベナが指さした先。銭湯にでもありそうな籠の中に、ぼくにあてがわれた衣類が畳んであった。
ぼくは慌てて下着を取り出し、己の恥部を隠すために下半身の方から身に着けていく。
換気口から入ってくる微風を受け、汗はすっかり乾いていた。下着は清潔で通気性も良好な状態であり、皮膚を覆う布の感触は悪くない。ようやく、ひと息つけることが出来た。
しかし――。
(……どう、切り出せばよいのだろう)
アラベナとの会話で、何らかの進展があったという実感はない。そして、ぼくはレイヤーズと羅刹の悲惨な戦闘が繰り返されるのが嫌だった。せめて、未だに何らかの関与をしていたとしか思えないアラベナに対して、ぼくは何かをすべきなのかもしれないが……それも、すぐには思いつきそうもない。
「さて、と」
アラベナがファイルを閉じると、棚の中にしまった。何か、書類に記入していたようだけど、具体的なことは何も分からない。
「ちょっと、一緒に外へ出てみようかしらね」
アラベナがぼくに向かって微笑みかけてくる。
「外? でも……」
先の戦いが終わってから、ぼくは半ば連行される形でレイヤーズの地下施設へ連れ戻され、軟禁状態になっていた。あれから二週間ほどが過ぎており、ぼくはずっと陽の光を浴びていない。
「植物には光が必要。それも、天からもたらされた恒星の熱と輝きがね。人やサイオニックも同様よ」
「また、羅刹党との戦いが始まるかもしれないって、キリエさんたちも言っていたよ」
そんな状況で外出するのは危険すぎるのではないだろうか?
「許可はとってあるわよ。あなたに必要な見聞があるからって、ね」
「ぼくに必要……」
アラベナがレイヤーズの上層部の許可を得ているのなら、外出を止めるものはいないだろう。でも、このままアラベナに従っていて良いのだろうか? 彼女はぼくの問いをはぐらかしてばかりで、何一つ確かな答えを提示していない。
「嫌なら地下に閉じこもっていても良いけど……」
困惑するぼくの方にアラベナが迫って来て、こちらの顔を覗き込む。アラベナの官能的な息遣いがぼくの鼻腔をくすぐった。
「答えが欲しいのでしょう? それも、サイオニック同士の無益な争いを一刻も早く終わらせられる、とても為になる」
何故だか分からないけど、ぼくはアラベナの妖艶なささやきを前にして、逆らうことが出来なかったんだ。
全身にはびっしょりと汗をかいており、重い疲労感がある。でも、少し力を入れれば四肢を動かすのに支障はなかった。
だけど――。
「う……あっ!」
ぼくは何も身に着けていない。生まれたままの姿というやつだ。何処かに備え付けられている換気口から外気が流れ込んでいるらしく、低温の空気の流れが身体中に付着している汗を冷やしているのが感じられた。
そして、夢の時もそうであったように、ぼくの股間のそれは痛いくらいに勃起している。思わず足を折り曲げたところで、固くなった肉棒がメトロノームの様に勢いよく振り上げられた。
「お目ざめね」
女性の声。間違いない……アラベナだ。アラベナは、ぼくが横たわっているすぐ横で回転椅子に腰を下ろしており、白衣から覗かせている艶めかしい太ももを交差させていた。
「アラベナ……さん」
ぼくはそう言いながらも激しい羞恥心を覚え、思わず足を折り曲げて下半身を少しでも隠そうとする。しかし、勃ち上がったペニスはぶるんと八の字を描くように振り回され、余計に恥ずかしい思いをしてしまう。
「どうして、こんな……」
訳も分からず、そう呟いた。
「言ったでしょう、私はあなたの主治医。心配だったから、診てあげていたのよ」
確かに、ぼくが寝かされていたのはアラベナの部屋に備えられている診察台の上だった。ただ、何故、全裸で横たえられていたのだろう。どうしても腑に落ちない。
「そこは至って正常、ね」
アラベナの露骨な視線が、股間に突き刺さる。
「アラベナさん……」
ぼくは気を落ち着かせる。含羞は所詮、個人のもの。ぼくの中ではアラベナに対して問い詰めなければならないことが山積みになっているんだ。
「……サキに何か入れ知恵をしたのは、アラベナさんだよね?」
「ふふっ。そうかしら?」
わざとらしく首をかしげて見せるアラベナ。その余裕そうな態度を見ていると、内心ムッとしてしまう。
サキがアラベナの名を口にしていたのを、ぼくは忘れていない。チカたちがレイヤーズの裏をかくことができたのも、アラベナの関与があったからではないだろうか? それに、カナデがぼくに迫ってきたのだって、アラベナの企みだったはずだ。
「残念だけど、あなたが思っているほど、私の思い通りに進んでいるわけじゃないわ」
アラベナはそう言ったが、納得できる返答なはずもない。
「……サキが私に欲したのは、サイオニックの力の源、羅刹党とサイオニック・レイヤーズの優劣の話。個人が組織の歯車となり、徒党を組む羅刹に対して、個々の創造力を高めることに執念するレイヤーズ。両者を衝突させれば、どちらがボロを出すか」
「じゃあ、やっぱりアラベナさんが扇動したんじゃ……」
「いいえ。私は止めた」
「…………」
あの戦い。ライキを倒すために、単身、敵の拠点にカナデが攻め込んだ。普段の冷静な彼女からは考えられない行動だった。そして、カナデを助けるために、レイヤーズ全体が団結して行動を開始した。
「で、レイヤーズと羅刹党が戦ったらどっちが勝つって言ったの?」
場合によっては、その問いの答えが扇動と同義になり得るかもしれなかったんだ。
「レイヤーズが勝つと言ったわ」
あっさりとした返答。ぼくは憤る。
「そんな……でも、あの時、レイヤーズは……」
「当然、双方が大勢の死者を出す。サイオニックの未来も潰える。だから、そう言って止めた」
そんなの、責任転嫁ではないだろうか? そもそも、何を根拠に片方が勝つなんて断言するのか。
「止められなかったじゃないか……」
ぼくの脳裡に、あの惨劇の光景がよみがえる。
「……そうね。もうカナデが出ていった後だったから……所詮、私一人が止めようとしても、狂ったように回り出した歯車は手に負える代物ではない……」
あの時……羅刹の構成員が大勢死に、レイヤーズの方もカナデ、チカ、サヨリも命を落とした。そして、後から聞いた話では、あちこちでレイヤーズと羅刹の衝突が相次ぎ、その何れもの戦闘で……死人が出た。戦いとはそういうものだと語ったナギの言葉が過るが、そんな理屈だけで納得できるものでもない。
「レイヤーズもまた、サイオニックの在り方を見つめ直す時が来てしまった……キリエや、他の上層部の者も、ようやく事態を重く見ている頃合いね」
アラベナの態度は相変わらずだった。いつも不気味なほど冷静なんだ。
「縮んじゃったわね」
一瞬、その言葉の意味が理解できなかった。萎えているぼくの男性器を指しているのだとわかると、ぼくはまた羞恥を覚えた。
「それだけで、大勢のサイオニックが得るべきものを得られず、残念がるでしょうね」
「……ふざけないでよ」
「まじめよ、私は」
ドキリとさせられるほど、心に刺す冷たい響きだった。
「前にも言ったけど、あなたは自分のしたいようにすれば良い。枷をはめても事態は好転なんてしないものね。そして、自己の存在を見つめ直さなければ……」
アラベナの瞳が碧緑の輝きを宿す。直視していたぼくの網膜に、緑の痕が刻まれたような気がしてしまう。
「あの戦いがもたらした結果の、一番の責任が誰にあるのか……自分でよく考えてみることね」
アラベナはそう言うと、回転椅子から立ち上がる。その時、またあの緑の匂いが鼻孔をくすぐるのを実感した。やはり、あの緑色の髪からは何らかの植物の芳香が漂っているのだろうか?
アラベナはそのままの足取りで一室の隅にある棚の方へ向かう。そこで何やら分厚いファイルを取り出し、書類をぱらぱらとめくっていた。
アラベナの態度には不穏なものがあったけど、ぼくはいい加減に服を着たかった。思えば、大事な話をするのにこんなみっともない姿のままというのは不条理だろう。
「そこに着替えがあるわよ」
アラベナが指さした先。銭湯にでもありそうな籠の中に、ぼくにあてがわれた衣類が畳んであった。
ぼくは慌てて下着を取り出し、己の恥部を隠すために下半身の方から身に着けていく。
換気口から入ってくる微風を受け、汗はすっかり乾いていた。下着は清潔で通気性も良好な状態であり、皮膚を覆う布の感触は悪くない。ようやく、ひと息つけることが出来た。
しかし――。
(……どう、切り出せばよいのだろう)
アラベナとの会話で、何らかの進展があったという実感はない。そして、ぼくはレイヤーズと羅刹の悲惨な戦闘が繰り返されるのが嫌だった。せめて、未だに何らかの関与をしていたとしか思えないアラベナに対して、ぼくは何かをすべきなのかもしれないが……それも、すぐには思いつきそうもない。
「さて、と」
アラベナがファイルを閉じると、棚の中にしまった。何か、書類に記入していたようだけど、具体的なことは何も分からない。
「ちょっと、一緒に外へ出てみようかしらね」
アラベナがぼくに向かって微笑みかけてくる。
「外? でも……」
先の戦いが終わってから、ぼくは半ば連行される形でレイヤーズの地下施設へ連れ戻され、軟禁状態になっていた。あれから二週間ほどが過ぎており、ぼくはずっと陽の光を浴びていない。
「植物には光が必要。それも、天からもたらされた恒星の熱と輝きがね。人やサイオニックも同様よ」
「また、羅刹党との戦いが始まるかもしれないって、キリエさんたちも言っていたよ」
そんな状況で外出するのは危険すぎるのではないだろうか?
「許可はとってあるわよ。あなたに必要な見聞があるからって、ね」
「ぼくに必要……」
アラベナがレイヤーズの上層部の許可を得ているのなら、外出を止めるものはいないだろう。でも、このままアラベナに従っていて良いのだろうか? 彼女はぼくの問いをはぐらかしてばかりで、何一つ確かな答えを提示していない。
「嫌なら地下に閉じこもっていても良いけど……」
困惑するぼくの方にアラベナが迫って来て、こちらの顔を覗き込む。アラベナの官能的な息遣いがぼくの鼻腔をくすぐった。
「答えが欲しいのでしょう? それも、サイオニック同士の無益な争いを一刻も早く終わらせられる、とても為になる」
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