d+d【先行公開版】

Hilde

文字の大きさ
16 / 75
【先行公開版】第一章 壁 - Wall -

検問所 - Border Crossing - 3

◯カナン地区・北ガザ県・ベイト・ハヌーン市・傭兵宿舎(夜)

埃まみれのゾットと息子たち、疲れた足取りで階段を上がる。
突き当たりの部屋のドアの前にうずくまっているエーリンを見て、ぎょっとする。

ゾット「なんでまだ居るんだ?」

エーリン、のろのろと顔を上げて、
「通行証がないと出国させないって」

ゾット「何だそれは」

エーリン「カナン人を出国させないから、カナン人でないことを証明する書類が必要なんですって」

ゾット「俺たちロマにそんなもの無いだろ…」

エーリン「私、ここに泊めてもらえるかしら?」

ゾット「…俺たちから離れるなよ。他の奴らと雑魚寝だから」


◯傭兵宿舎・室内

仕事を終えた傭兵が次々と部屋に入ってくる。

傭兵1「女だ」
傭兵2「誰かが呼んだのか」

ゾット、大声で「俺の妻だ。親戚に不幸があって俺を訪ねてきた。一晩泊めるだけだ」

傭兵たち、不満の声を漏らしながら寝転がる。
部屋の一番隅にエーリン、隣にゾット、その周りを息子たちで固めて就寝する。


◯同(翌朝)

日の出とともに傭兵たちが起き出し、支度を済ませて部屋を出て行く。
ゾットと息子たちも出発の準備をする。

ゾット、エーリンに、
「一緒に来い。雇い主に相談してみる」


◯ベイト・ハヌーン市・路上

傭兵宿舎を出て、西へ向かう。
大きな建物が増えて行き交う住人も多くなると同時に、空気が埃っぽくなる。

ゾット「カナン地区は3つの宗教の聖地がある。それぞれの信者が混在して暮らしていたが、3年前、シオン教の信者が、聖地と異教徒の村を襲撃して占領し、壁を建ててシオン国を建国した。残った地域もシオン国の攻撃を受け続けている。カナン地区も防戦しているが、戦力の差が圧倒的で押されているらしい。
人の出入りも制限されているから、この状況が外に伝わらず、孤立無援の状態らしい」

多くの家族連れが南へ向かって移動している。皆、痩せて疲れた表情をしている。父親に抱えられた子供の細い手足が力なく揺れている。

ゾット、手のひらほどの大きさの紙をポケットから出す。
「昨日、空からこれが降ってきた。南へ行けという意味らしい」

紙には、カナン地区の地図が描かれ、シオン語とフスハー語で文字が書かれている。カナン地区の北部に何カ所も✕が付けられ、南部へ向かう矢印が大きく描かれている。

エーリン「大きな作戦って、このこと…?」

ゾット「恐らくな。お前を出国させるように雇い主に頼んでみるが、出国できなかったら南へ向かえ」

エーリン「ゾットたちは…?」

ゾット「わからん。作戦次第だ」

通り沿いの建物が崩れており、がれきが道路に散乱している。

エーリン「あの建物、壊れているわ」

壊れた壁の隙間から、中で住民が暮らしているのが見える。

ゾット「砲弾がシオン国から飛んでくる。ここから先はあんな建物ばかりだ。がれきが増えて足場が悪くなるから気を付けろ」
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

真実の愛の裏側

藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。 男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――? ※ 他サイトにも投稿しています。

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

悪役令嬢は激怒した

松本雀
恋愛
悪役令嬢は激怒した。 必ず、かの厚顔無恥な簒奪者を排除せねばならぬと決意した。 ローザリンデ・フォン・シュヴァルツェンベルクには、政治のことはわからぬ。流行のドレスにも疎い。けれど悪には人一倍敏感であった。なにせ、自分が悪役令嬢だったからである。 ◇ 悪役令嬢ローザリンデは、王太子に断罪され辺境に追放された。 だが薬草園を耕す日々は存外悪くなく、「悪役令嬢時代より充実してるわ」と満足していた——はずだった。 ある日、社交界に新たな悪役令嬢が君臨し、自分が「先代」呼ばわりされていると知り大激怒。悪役令嬢の座を賭けて王都に殴り込む。 完璧な縦ロール、完璧な高笑い、完璧な紅茶のかけ方。何もかもが洗練された現役悪役令嬢クラリッサを相手に、高笑い対決、ドレスの威圧感対決、嫌味対決と、誰も得をしない真剣勝負が幕を開ける。 力押しの元悪役令嬢と技巧派の現役悪役令嬢。戦いの果てに二人が見つけるものとは……?

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。