d+d【先行公開版】

Hilde

文字の大きさ
23 / 66
【先行公開版】第一章 壁 - Wall -

砲撃 - The Shelling - 2

しおりを挟む
◯アル・シマー小学校・2階・砲弾の落ちた教室

バラバラになってしまった子供たちの身体を集めて遺体を整えるライラとエーリン。
泣いてしゃがみ込んでしまうライラを慰めながら、エーリンも悲しみに押し潰されそうになる。

ゾット、遺体を運搬する布を持った男たち数人とヤットを連れて戻って来る。

「ライラ」
男たちの中の、30歳くらいの男が、ライラに近付く。
「ライラ、メドが昨夜、殉教した」
ライラ、青ざめて立ち上がる。
「夜中の砲撃で…。直撃だった」

ライラ、ふっと気を失い、そのまま後ろに倒れる。
背後にいたヤットが驚いて支える。

「ライラ!」
エーリン、ライラに駆け寄る。

男、ヤットに「悪いが、男はマジディーヤ女性のディーン教徒に触らないでくれ」

ヤット「え? えっと…」
ライラを支えたまま困惑する。

エーリン「私が」
ヤットの代わりにライラを抱える。

男、エーリンに「…彼女の婚約者が、昨夜の砲撃で死んでしまったんです」
エーリン、胸を突かれて男を見る。
「カナンを守るために俺たちと一緒に闘っていました。いいヤツだったのに…」

エーリン、ライラの蒼白な顔を見つめる。

「今住んでいる場所を離れないこと。これがシオン国に抵抗する唯一の方法です」
テクラの言葉を思い出す。

エーリン(きっと、ライラも小学校ここに居ることで闘っていたのね)


◯2階・空き教室

エーリンを連れ出したゾット、誰もいない教室に入る。

ゾット、ロマニ語で「エーリン、逃げろ。今すぐに魔道士を呼べ」

エーリン、青い顔でゾットを見る。

ゾット「シオン軍は、学校だけでなく病院も砲撃した。病院では避難していた住民も含め500人死んでいる。砲撃の後は地上戦だ。小学校ここにもシオン軍がやってくるかもしれない」

教室の窓から市街地を見る。見渡す限りの建物が半分以上壊れている。風が吹くと埃が舞い上がり、血の匂いがする。

エーリン、自分の手が震えていることに気付く。
「ねえ、ゾット…一緒に逃げない?」

「……」
ゾット、目が泳ぐ。

エーリン「ヤットとミロも逃がしてあげよう? 学校の子供たちも、先生たちも、ここに住んでいる人たちも、皆一緒に助けてあげよう? どうしたらいいかしら?」

ゾット「…全員は…無理だろう…。…だが、ヤットとミロはお前と一緒に連れ出してくれないか」

エーリン「ゾットは? ゾットの奥さんも娘さんもゾットの帰りを待っているわよ」

ゾット「……」

エーリン「私…ゾットの奥さんに悲しい思いをして欲しくない」

ゾット「…俺は…」

ゾット、拳をぎゅっと握る。
「俺は、もう…抜けられなくなっている」

エーリン「ゾット…?」

ゾット「…砲撃を受けた現場で、家族を失ったカナン人をたくさん見てきた…。
俺は…カナン地区を見捨てて行けない」

エーリン「ゾット…」


◯アル・シマー小学校・1階・大教室

ボッォォン

バァァン

ドォォン

市内の至る所で激しい砲撃の音がする。

子供1「先生ーっ」
子供2「怖いーっ!」

怯える子供たちを窓から離れた場所に集め、3人の教師とエーリンで囲むようにして身を寄せ合う。

テクラ「大丈夫、大丈夫よ。皆でくっついていれば怖くないでしょう? 皆でナシード宗教歌を歌いましょう」

しかし、砲撃音が聞こえるたびに子供たち悲鳴をあげ、耳を両手で塞ぐ。

エーリン(今ここに砲弾が落ちたら、この子たちは一体どうなってしまうの?)

エーリン、右手首のマクラメに目をやる。
(ヤンシャとルイなら、なんとかしてくれる? だけど、こんな危険な場所に二人を呼び出していいの? もし二人が来た瞬間に砲撃に巻き込まれてしまったら?)

迷うエーリン、自分にしがみついて震える子供たちを見る。

砲撃を受けた教室の凄惨な光景がよみがえる。

必死にしがみついてくるリリアンが、涙を零す。

砲撃に引き裂かれたラシャーの、力なく開いた手が脳裏に浮かぶ。

エーリン、リリアンを強く抱き締める。

(ヤンシャ、ルイ、ごめんなさい。助けて)

エーリン、歯でマクラメを噛み切る。


◯バラトール共和国・ケルト市・魔道士協会ギルド・会議室

警護部門のミーティング中のルイ「!」
マクラメが切られたことを察知する。


◯フランク国・パリシイ市・サンクトルシア大学病院・手術室

妊婦の帝王切開の施術中のヤンシャ「!」
マクラメが切られたことを察知する。
手が離せないヤンシャ(ルイ、お願い)


◯バラトール共和国・ケルト市・魔道士協会ギルド・会議室

ミーティングが終わり、魔道士たちがぞろぞろと会議室を出ていく。

ルイ、警護部門の副部門長を呼び止める。
私用プライベートで緊急の呼び出しが入ってしまった。後を頼めるか?」

副部門長「はい。今日は予定もないですし、大丈夫ですよ」

ルイ「済まない。頼む」

ルイ、エーリンのフォースを目指して高速移動する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...