d+d【先行公開版】

Hilde

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【先行公開版】第一章 壁 - Wall -

カナン地区 - Canaan Strip - 1

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◯エンパイア国・アテナイ市・世界連帯構想本部・玄関前(午後)

エーリン・ルイ・シルヴィア・ダイアナ・ディミトリの父であり魔道士のジェームズ、出発の準備が整っている。
ジェームズの横には堅パンの大袋と、水の入った巨大な容器、消毒液や包帯ガーゼ等が入った医療物資の包みがある。
アヴェス、イスマイールと、イスマイールの従者を連れて合流する。

ルイ、イスマイールの金糸をあしらった絹の布地に目を留める。
「アヴェス、そちらは?」

イスマイールの従者、前に出る。
「こちらは、アッバース国の後継者、英知と学問を愛する皇太子、イスマイール・イブン・ハーリド殿下です」

ルイ驚き、右手を胸に当て頭を下げる。
「お目にかかり光栄です、皇太子殿下。バラトール共和国、魔道士協会ギルド導師ルイと申します」

イスマイール「魔道士か。噂には聞いているが実際に会うのは初めてだ。よろしく頼む」

ルイ、咎めるような視線をアヴェスに向ける。
「一国の皇太子に万が一のことがあったら」

イスマイール「心配は無用。自分の身は自分で守れる。従者も居る」

「…では」
ルイ、頭を下げる。

ジェームズ、イスマイールに挨拶する。
「皇太子殿下、お目にかかり誠に光栄です。魔道士協会ギルド導師ジェームズと申します。輸送全般を担当しております。
殿下とお付きの方は、こちらに腰掛けていただくと安定して飛行していただけます」

イスマイールは医療物資の包みに座り、従者は堅パンの包みに座る。

ダイアナがエーリンとシルヴィアの肩を抱え、ルイがアヴェスの肩を抱える。

全員、宙に浮遊フローサドする。

イスマイール、一瞬ぎゅっと包みを掴むが、すぐに瞳を輝かせる。
「…すごいな。これが魔道士の能力か」

一行、カナン地区に向けて飛行する。


◯カナン地区・北ガザ県・上空

一同、眼下に広がる光景に息を呑む。

アヴェス「建物が…無い…」

街の建物が無くなり、がれきだらけの更地になっている。
街の所々に噴煙が上がっている。
大きな道路だけが筋状にはっきり残っている。

元の建物には様々な色があっただろうに、がれきは皆すべて灰色に見える。

「…本当に、灰色の世界だわ…」
シルヴィア、手で口を覆う。

イスマイール「…一体、どのような戦略を取れば、ここまで破壊できるのだ?」

ルイ、全員にキラソをかけ、上空に障壁バンドを張る。


◯北ガザ県・ベイト・ラヒア市・アル・シマー小学校・校庭

かろうじて校舎の形を留めている小学校。
ルイの作ったシェルターの周囲で、痩せた男の子たちがサッカーをして遊んでいる。

アヴェスたち、シェルターの横に降りる。

イスマイール、シェルターを撫でたり叩いたりして硬さを確かめる。
「これを、魔法で作ったのか?」
ルイに尋ねる。

ルイ「はい。魔道士はフォースを固めてこのようなものを作ることが出来ます」

イスマイール「面白い。魔道士というのは他に何ができるのだ?」
熱心にルイに質問をする。

 ✕  ✕  ✕

見慣れぬ一行に、近所の大人たちが集まってくる。
子供たちは警戒するように遠巻きにしている。

リリアン、子供たちの中から飛び出し、エーリンに抱きつく。

「リリアン!」
エーリン、リリアンを抱き締める。
「ゾットは学校に居るかしら? 呼んでくれる?」
リリアン、うなずいて駆け出す。

エーリン、周囲の子供たちに声をかける。
「皆、無事だった? 怪我はない?」
子供たち、うなずく。
「そう、良かったわ」

シルヴィア、親指をしゃぶっている子供が多いことに気付く。
子供たち、一様に痩せている。
生気のない投げやりな表情の子も居る。

リリアン、ゾットの服の裾を掴んで連れてくる。ヤットとミロも後に続く。

ゾット「エーリン!」

「ゾット!」
エーリン、駆け寄る。
「無事で良かった」

ゾット「ああ」
エーリンに笑みを見せる。

ゾット、ルイを見て、
「約束通り来たか」

ルイ「水と食料、医療物資も運んできました。皆に分けてください」

ゾット「助かる」
ヤットとミロに物資の運搬を指示する。

ルイ「今後のお話をしたいのですが、この地域の指導者の方に同席していただくことはできますか?」

ゾット「わかった。案内するから付いてこい」


◯ベイト・ラヒア市・中心部

ゾットを先頭に、埃っぽいがれきの中を進む一行。
ルイ、周囲を警戒しながら歩く。

ゾット「安心しろ。今日は攻撃はない。土曜日はシオン教の安息日だそうだ」

道路脇に積み上げられた灰色のがれきの隙間から色鮮やかなリネンや壊れた家具が覗き、ここで営まれていた生活が破壊されたことが窺える。

ゾット「カナン地区はかつて〝乳と蜜の流れる土地〟と謳われるほど肥沃な大地だったらしい。それがシオン国の侵攻により、この有様だ。経済活動が停滞して失業者も多い。侵攻に対抗する武力も尽きて、俺たちのような傭兵を雇っているのが現状だ」

大勢の白く汚れた人々が、壊れた建物の影から不安そうにこちらを見ている。

二人一組で、細長い袋を重そうに抱えて運んでいる男たちがいる。
小さな袋を一人で運んでいる男もいる。

袋の形状を見たダイアナ「…もしかして、あれは…」

ゾット「…ああ。昨日は日没まで激しい砲撃があった。被害の7割が女性や子供だ。一家全滅どころか、一緒に暮らしていた複数の親族が同時に犠牲になった家も多い。
ああやって掘り出して埋葬されるのはまだ良いほうだ。がれきの下には多くの犠牲者が取り残されている。獣が喰ったり、気温が上がると匂いが…」
ゾット、口をつぐむ。

ダイアナ、真っ青になりシルヴィアにしがみつく。
青ざめた顔のシルヴィア、ダイアナを支える。

ゾット、左右を見回してから、ある民家に入って行く。
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