32 / 66
【先行公開版】第一章 壁 - Wall -
首長会合 - Majlis of Sheikhs - 1
しおりを挟む
◯カナン地区・北ガザ県・上空(土曜日・午前)
ジェームズ、バスのような形状の乗り物の屋根に腰掛け、飛行している。
バスの中は造り付けの椅子が30席ほど設けられており、先頭にルイとアヴェスが座っている。
ルイ「ジェームズがディミトリから聞いたところによると、5年前にルーシ帝国で皇帝暗殺事件があったそうだ」
アヴェス「当時、新聞で読んだよ」
ルイ「暗殺グループにシオン教徒が居たことから、ルーシ帝国でシオン教徒に対する大規模なヘイトクライムが起きたそうだ」
アヴェス「それがシオン国建国に関係してるかもしれないってこと?」
ルイ「ディミトリの推測では、そうらしい」
◯北ガザ県・ベイト・ラヒア市・アル・シマー小学校・校庭
ルイの作ったシェルターの横で、ゾットとマフムード首長が待機している。
ジェームズ、バスをそっと地面に降ろす。
ゾットとマフムード首長、ジェームズの指示でバスに乗り込む。
◯カナン地区・西側の地域
ジェームズ、マフムード首長の案内に従ってバスを移動させる。
カナン地区西側の残りの4つの県を巡り、首長を一人一人乗せていく。
北ガザ県の南に位置するガザ県では、多数のテントから成る大規模な難民キャンプが形成されている。
◯カナン地区・東側の地域
ジェームズ、シオン国の上空を迂回して、東側の地域に移動する。
東側の地域は、山地や丘陵が広がり、数多くのオリーブ畑やブドウ畑、耕作地が見られる。
東側の地域は11県あり、その広さは西側の10倍以上に及ぶ。
ジェームズ、新たに乗り込んだ東側の首長の案内に従って各県を巡り、首長たちを乗せていく。
3年振りに顔を合わせた西側と東側の首長たち、互いに握手と抱擁を交わし合い、近況を報告し合っている。
アヴェス、青々としたオリーブ畑で半分近くの木が伐採されていることに気付く。
「オリーブは、実を取るだけじゃなくて、木も何かに利用するのかな?」
ラマッラー・アル・ビーレ県の首長の話を聞いていたゾット、アヴェスに説明する。
「あれは、シオン教徒が切り倒したものらしい。シオン教徒がオリーブ畑を潰して村人を追放し、その土地に入植するそうだ。焼き打ちされた村もあるらしい。
東側の地域では、シオン教徒が武力を伴って入植し、シオン軍が入植地とシオン国を結ぶ道路を作っているそうだ」
◯カナン地区・東側の地域・草地
ジェームズ、カナン地区東側の開けた草地にバスを降ろす。
ルイとジェームズ、バスの外に立って周囲を警戒する。
◯バスの中
アヴェスを司会進行役として、カナン地区の首長会合が始まる。
アヴェス「皆さん、はじめまして。世界連帯構想職員アヴェスと申します。
世界連帯構想は、シオン国の侵攻を止める最善の方法は、カナン地区が世連に加盟することだと考えています。
そこで、今回の会合の場を設けさせていただきました。
皆さんに話し合っていただきたい議題は3つです。
カナン地区の子供たちの避難の可否、世連加盟の可否、そして国家元首となる議長の選出です」
ゾットがフスハー語に通訳する。
首長たちが一斉に侃侃諤諤の議論を始める。
✕ ✕ ✕
ゾット、アヴェスに「俺が聞いている限りでは、首長たちの力関係は拮抗している。議長の選出は時間がかかるかもしれないぞ」
アヴェス「そうですか…。あれから、シオン国からの攻撃は変わらないですか?」
ゾット「変わらない。北ガザ県から住人を追い出すための砲撃と攻撃が続いている。
それに加えて、手足を切断される住民が増えている」
アヴェス「えっ?」
ゾット「小さな金属が入った砲弾が飛んでくるようになった。爆発すると、金属の小さな破片が手足に刺さり、血管や神経を損傷する。そのため、手足を切断せざるを得ない。足が無いから逃げられないまま砲弾の餌食になる者もいるし、切断面に感染が起き、じわじわと死んでいく者もいる。
俺は兵器に詳しくないが、カナン地区は…まるで…、新兵器の実験場のようだと感じる」
アヴェス「…早く…なんとかしないと」
アヴェス、首長たちに声を掛ける。
「結論が出た議題はありますか?」
マフムード首長「世連加盟は全員賛成、子供たちの避難も全員が希望している。
ただ、避難の資金源と、議長の選出が難航している。
前も言ったが、どの首長も自分の地域を守るのに手一杯だ。資金のほうも長引く戦闘で底を突いてしまっている」
アヴェス、手のひらが汗ばんでくる。
(俺は無力だ。
学生だし、財力も無いし、生まれ持った権力も無い。
カナン地区の力になれるものは何も持っていない)
「すっぱり手を引け」
イスマイールの言葉を思い出す。
アヴェス(…でも)
(破壊されたカナン地区を見てしまった。
多くの人が亡くなっていることを知ってしまった。
痩せた子供たちをなんとかしてやりたいと思った)
拳を強く握る。
(何もしないでいることは、できない)
アヴェス、胸が熱くなる。腹に力を入れる。
「カナン地区の世連加盟と、子供たちの避難の資金調達、私に任せてもらえないでしょうか」
首長たち、ざわつく。
アヴェス「カナン地区が世連に加盟するまで、資金調達と国家元首を、私に任せてもらえませんか?」
ジェームズ、バスのような形状の乗り物の屋根に腰掛け、飛行している。
バスの中は造り付けの椅子が30席ほど設けられており、先頭にルイとアヴェスが座っている。
ルイ「ジェームズがディミトリから聞いたところによると、5年前にルーシ帝国で皇帝暗殺事件があったそうだ」
アヴェス「当時、新聞で読んだよ」
ルイ「暗殺グループにシオン教徒が居たことから、ルーシ帝国でシオン教徒に対する大規模なヘイトクライムが起きたそうだ」
アヴェス「それがシオン国建国に関係してるかもしれないってこと?」
ルイ「ディミトリの推測では、そうらしい」
◯北ガザ県・ベイト・ラヒア市・アル・シマー小学校・校庭
ルイの作ったシェルターの横で、ゾットとマフムード首長が待機している。
ジェームズ、バスをそっと地面に降ろす。
ゾットとマフムード首長、ジェームズの指示でバスに乗り込む。
◯カナン地区・西側の地域
ジェームズ、マフムード首長の案内に従ってバスを移動させる。
カナン地区西側の残りの4つの県を巡り、首長を一人一人乗せていく。
北ガザ県の南に位置するガザ県では、多数のテントから成る大規模な難民キャンプが形成されている。
◯カナン地区・東側の地域
ジェームズ、シオン国の上空を迂回して、東側の地域に移動する。
東側の地域は、山地や丘陵が広がり、数多くのオリーブ畑やブドウ畑、耕作地が見られる。
東側の地域は11県あり、その広さは西側の10倍以上に及ぶ。
ジェームズ、新たに乗り込んだ東側の首長の案内に従って各県を巡り、首長たちを乗せていく。
3年振りに顔を合わせた西側と東側の首長たち、互いに握手と抱擁を交わし合い、近況を報告し合っている。
アヴェス、青々としたオリーブ畑で半分近くの木が伐採されていることに気付く。
「オリーブは、実を取るだけじゃなくて、木も何かに利用するのかな?」
ラマッラー・アル・ビーレ県の首長の話を聞いていたゾット、アヴェスに説明する。
「あれは、シオン教徒が切り倒したものらしい。シオン教徒がオリーブ畑を潰して村人を追放し、その土地に入植するそうだ。焼き打ちされた村もあるらしい。
東側の地域では、シオン教徒が武力を伴って入植し、シオン軍が入植地とシオン国を結ぶ道路を作っているそうだ」
◯カナン地区・東側の地域・草地
ジェームズ、カナン地区東側の開けた草地にバスを降ろす。
ルイとジェームズ、バスの外に立って周囲を警戒する。
◯バスの中
アヴェスを司会進行役として、カナン地区の首長会合が始まる。
アヴェス「皆さん、はじめまして。世界連帯構想職員アヴェスと申します。
世界連帯構想は、シオン国の侵攻を止める最善の方法は、カナン地区が世連に加盟することだと考えています。
そこで、今回の会合の場を設けさせていただきました。
皆さんに話し合っていただきたい議題は3つです。
カナン地区の子供たちの避難の可否、世連加盟の可否、そして国家元首となる議長の選出です」
ゾットがフスハー語に通訳する。
首長たちが一斉に侃侃諤諤の議論を始める。
✕ ✕ ✕
ゾット、アヴェスに「俺が聞いている限りでは、首長たちの力関係は拮抗している。議長の選出は時間がかかるかもしれないぞ」
アヴェス「そうですか…。あれから、シオン国からの攻撃は変わらないですか?」
ゾット「変わらない。北ガザ県から住人を追い出すための砲撃と攻撃が続いている。
それに加えて、手足を切断される住民が増えている」
アヴェス「えっ?」
ゾット「小さな金属が入った砲弾が飛んでくるようになった。爆発すると、金属の小さな破片が手足に刺さり、血管や神経を損傷する。そのため、手足を切断せざるを得ない。足が無いから逃げられないまま砲弾の餌食になる者もいるし、切断面に感染が起き、じわじわと死んでいく者もいる。
俺は兵器に詳しくないが、カナン地区は…まるで…、新兵器の実験場のようだと感じる」
アヴェス「…早く…なんとかしないと」
アヴェス、首長たちに声を掛ける。
「結論が出た議題はありますか?」
マフムード首長「世連加盟は全員賛成、子供たちの避難も全員が希望している。
ただ、避難の資金源と、議長の選出が難航している。
前も言ったが、どの首長も自分の地域を守るのに手一杯だ。資金のほうも長引く戦闘で底を突いてしまっている」
アヴェス、手のひらが汗ばんでくる。
(俺は無力だ。
学生だし、財力も無いし、生まれ持った権力も無い。
カナン地区の力になれるものは何も持っていない)
「すっぱり手を引け」
イスマイールの言葉を思い出す。
アヴェス(…でも)
(破壊されたカナン地区を見てしまった。
多くの人が亡くなっていることを知ってしまった。
痩せた子供たちをなんとかしてやりたいと思った)
拳を強く握る。
(何もしないでいることは、できない)
アヴェス、胸が熱くなる。腹に力を入れる。
「カナン地区の世連加盟と、子供たちの避難の資金調達、私に任せてもらえないでしょうか」
首長たち、ざわつく。
アヴェス「カナン地区が世連に加盟するまで、資金調達と国家元首を、私に任せてもらえませんか?」
0
あなたにおすすめの小説
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる