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【先行公開版】第二章 灯火 - Torch -

イスマイール - Ismail - 挿絵



◯エンパイア国・アテナイ市・リュケイオン大学・法学研究科の教室(討論の授業)

イスマイールとアヴェス、世界地図を準備している。

イスマイール「リュケイオンは王侯諸侯の子弟が通っている。彼らを巻き込む事によって、カナン地区の問題が彼らの母国に伝わるはずだ」

授業のために教室に入ってきた院生たちが、何事かと二人を眺めている。

 ✕ ✕ ✕

教室に教授が入ってくる。
イスマイール、教授と交渉する。
教授、快く承諾する。

 ✕ ✕ ✕

イスマイール、教壇に立ち、院生たちを見渡す。
「今日の討論の授業だが、カナン地区で起きている問題について話し合いたい。過去の戦争を題材にしたシミュレーションとは違う。現在進行中の侵攻を阻止するため、皆の意見を聞かせてほしい」

イスマイール、隣に立っているアヴェスを指す。
「こいつが発起人だ。6年生のアヴェス。現在、卒業前研修のため世界連帯構想でインターンをしている」

アヴェス「先輩方の知恵を貸してください。よろしくお願いします」

アヴェス、黒板の横に、カナン地区が載っている世界地図を広げる。

イスマイール、地図を指しながら説明する。
「アルテラシア大陸の中東、アッバース国に隣接するカナン地区がシオン教徒の侵攻を受けている。
シオン教徒がカナン地区の聖地周辺を占領してシオン国を建国、その後もカナン地区へ侵攻している。その手法はジェノサイドに近く、世連も問題視している。
カナン地区は8割の領土を失い、シオン国を真ん中に東と西に分断されている。シオン国の戦力は大砲と強力な軍隊。対してカナン地区は貧弱な火器のみ。
アヴェスの目的は、カナン地区を世連に加盟させ、シオン国の侵攻を止める事だ。
この目的を達成するため、課題を解決したい」

イスマイール、黒板に課題点を書き出す。
「世連加盟へのプロセスと課題点だ」

『① 国家承認・世連加盟のために → カナン地区の元首を決定』
イスマイール、続けて『済』と書く。
「これは、俺。次の首長会合で俺が説得する」

『② 世連に加盟するまでの兵站 → 兵員・弾薬・糧食の確保・輸送』

『③ 子供の国外退避 → カナン地区住民が脱出用地下トンネルを確保 済』
「これは今、住民が作業中」
イスマイール、その下に書き加える。
『→ 魔道士協会ギルドが子供を輸送』

『④ 子供の受け入れ先の確保 → バラトール共和国保育所・魔道士協会ギルド、アッバース国養護施設 済』
「俺の管轄地ホラーサーンでも引き受ける。あとは、世連で訴えて各国に協力を依頼する」

『⑤ ②③④の資金 → ?』

イスマイール、書き終わり、体を院生たちに向ける。
「まず、カナン地区の国家承認及び世連の加盟を目指す。それと並行して、カナン地区の防衛支援と子供たちの国外退避及び保護をする」

院生たち、ざわざわとささやき合う。

イスマイール「俺は一番の難関は⑤だと思っているが、どう思う?」

アヴェス、手を挙げる。
「⑤だけど…世連からの借り入れを考えている」

イスマイール「世連か。世連にそれほどの資金があるのか?」

アヴェス「わからない。いくら必要になるかもわからないし」

イスマイール「そうだな。後ほど見積もりを出そう」

院生1、手を挙げる。
「世連加盟国から少額ずつ借りる手もあるかもしれない」

アヴェス「あ、低金利で借りたい。カナン地区の首長たちは返済を心配していた」

イスマイール「人道的配慮を主張して金利ゼロから交渉してみるか」

院生2「担保を要求されたらどうする?」

イスマイール、しばらく黙る。
「何かいい案はあるか?」

院生2「カナン地区の地権しかないだろう?」

院生3「当面の資金はカナン地区を担保にすれば、なんとかなるだろう。
だが、世連加盟後のカナン地区の復興費用は、どうやって調達する? 復興費用のほうが金額がデカいだろう? カナン地区を担保にしても調達できないのでは?」

院生4「世連に復興支援の機能はないのかな?」

アヴェス「世連は攻撃を予防するための機関なので、攻撃された後の支援機能はありません」

院生4「じゃあ、カナン地区は自力で資金を調達するしかないのか…」

イスマイール、頭を傾げ考えている。
「…借入の担保については俺に任せてくれるか? 考えがある」

院生5、手を挙げる。
「借入返済はカナン地区がするのか? 侵攻され疲弊している状態での返済は厳しいだろう。侵攻したシオン国に賠償させる方法はないか?」

院生6「法的にはシオン国に支払う義務はないだろう」

イスマイール「カナン地区は元来肥沃な土地だ。生産性の高い大規模農業をすれば少しずつ返済できると考えている。だが、できればシオン国に支払わせたい。何か良い案はないか?」

院生7「強制力はないが…世連の総会で復興費用をシオン国に負担させる決議をするとか。シオン国が支払いを拒否したら、経済制裁や貿易制限を国際社会がする…とか。または、各国がシオン国と外交交渉する際に、カナン地区の復興支援を条件とする、とか」

イスマイール「協力する国があれば、か…」

院生8、手を挙げる。
「そもそもシオン教徒はなぜ侵攻しているんだ? 元々はカナン地区でカナン人と共存していただろう? 彼らの意図は?」

アヴェス「わかりません。ただ、シオン国を建国したシオン教徒たちは、ルーシ帝国の迫害から逃れた者たちの可能性があります」

院生8「カナン地区側の話だけじゃなくてシオン国の言い分も聞けるといいな。交渉の余地が生まれる」

アヴェス「わかりました」

院生9、声を上げる。
「③の子供達の輸送ってのを大っぴらにやったらどうだ?」

イスマイール「どういうことだ?」

院生9「魔道士って防護壁バリアを作れるんだろう?」

アヴェス「作れます」

院生9「地下トンネルを使わずに、子供たちに戦闘地域を横断させる。子供の移動という名目で魔道士に防護壁バリアを張らせる。子供たちもカナン地区の住人も守られるっていう算段だ」

イスマイール「なるほど…子供たちを盾にするか」

アヴェス口を挟む。
「俺は反対だ。危険だし、子供たちが怖がる。それに魔道士協会ギルドは戦争に加担しないから、その手は使えない」

イスマイール「だが合理的だ。トンネル掘りの人員を防衛に回せるし、屋外のほうが子供たちの移動速度も上がる。シオン国の安息日なら攻撃されることも無いし、ジェノサイドから子供を避難させる人道的介入ならば戦争への加担とは言えないだろう」

院生10、手を振る。
「世連に加盟できる前提で話が進んでいるが、申請したら確実に承認されるのか? シオン商人は各国の財界に顔が利くだろ? シオン商人と繋がりが深い加盟国は反対するんじゃないか?」

アヴェス「それは思い付かなかった…」

イスマイール「調べて対策を検討する」

アヴェス「商人のことは商人に聞けるかな。②の兵站の件も併せて、コメルコ商会を頼ってみるのはどうだろう」
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