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Hilde

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【先行公開版】第二章 灯火 - Torch -

フレイ - Frey - 1 挿絵



◯アルビオン王国・リヴァプール市・クラウンストリート駅

世界各地に植民地を持ち、アルマダ国に次いで〝太陽の沈まぬ国〟となったアルビオン王国。

クラウンストリート駅の乗降場で線路の先を凝視しているフレイ。
線路の先に現れた黒い点が、みるみる大きくなる。
長い煙突から黒煙をもくもくと吐きながら進む蒸気機関車が見えてくる。

フレイ「凄い! 本当に馬も魔法も無いのに動いてる!」

シュッシュッシュッ規則正しいドラフト音が聞こえる。
乗降場に近付くと、ギーギー耳障りな音をたてて減速し、ガラガラガラと車輪の音を響かせ、侵入してくる。
煙と石炭の刺すような臭いに、フレイむせる。
シューシューシューシュー…白い蒸気が、停止した機関車の上からも車輪の間からも立ち上る。

フレイ、煙に目をしばたたかせながら、
「こんな凄いもの、どうしたら作れるんだろう?」

フレイの背後に立っているガネーシャ、
「石炭や鉄鉱石などの資源、蒸気機関を開発する科学力、大量の労働力、商品をさばく市場、商業の発展を後押しする政治、莫大な資本。これらを、このアルビオン王国が手にしたからだ」

シューシュー休みなく蒸気を吐き出している機関車に連結された客車から、わらわらと乗客たちが降車する。
客車の後ろの貨車から、港に運ばれるであろう大量の積荷が降ろされる。

フレイ「父さん、これに乗れるの?」

ガネーシャ「ああ。これでマンチェスターまで行くぞ」

フレイ「やった!」


 ✕ ✕ ✕


◯アルビオン王国・ロンドン市・ノーラム伯のタウンハウス

ノーラム伯ヘンリー・フィッツロイの壮麗な邸宅の前に立つフレイとガネーシャ。
黒塗りの鉄柵越しに、金色がかったポートランド石のファサード、直線的で均整のとれた、重厚感あふれる建物を見上げる。正面のポルチコが見る者を圧倒する。

ロンドン市で購入したばかりのフロックコートを着てクラバットを結び、トップハットをかぶったフレイ、ガチガチに緊張している。

ガネーシャ「ヘンリーもリュケイオンの卒業生で、俺の同窓だ。そんなに緊張することはないよ」
正門の呼び鈴を鳴らす。


◯ノーラム伯のタウンハウス・応接間

「こちらでしばらくお待ちください」
年配の執事が静かに扉を閉める。

通された応接間は、豪華なシャンデリアと大理石の暖炉、磨き上げられたマホガニーの家具が調和し、重厚な気品を湛えている。

廊下で靴音が響き、扉が開く。

「リュケイオン大学から在校生の面会を依頼されることは珍しくないが、保護者同伴というのは初めてだな」
ノーラム伯ヘンリー・フィッツロイが入室する。

フレイ、ヘンリーの洗練された身のこなしと、高級な生地と完璧な仕立てのフロックコートに目を見張る。

ガネーシャ、ヘンリーに会釈する。
「卒業以来だね。同窓のよしみで同席させてくれてありがとう」

ヘンリー「息子の研修に便乗するとは。見上げた商人根性だな」

ガネーシャ「利用できるものは何でも利用しますよ、閣下。そちらこそ、面会してくれたという事は、私に用があるのでは?」

ヘンリー答えず、フレイに、
「君はフレイ君だね」

フレイ「Yes, my はい、閣下Lord, I am Frey. It is an honor to お目にかかれて光栄ですmeet you.」

ヘンリー「フレイ君はリュケイオン卒業後の進路は決めているのかな?」

フレイ「はい。父のコメルコ商会に入り、事業拡大に貢献したいと考えています。
先日、リヴァプール・アンド・マンチェスター鉄道のロケット号に乗る機会があり、陸上の輸送革命が起きたと感じました。鉄道輸送はコメルコ商会でも積極的に取り入れていくべきだと考えます」

ヘンリー、鷹揚に頷いて豪奢なビロード張りの椅子に座り、軽く手を振って二人に着席を促す。

ガネーシャ、椅子に座りながら、
「リヴァプール・アンド・マンチェスター鉄道には閣下も投資したのでは?」

ヘンリー「ああ。少々」

ガネーシャ「配当は?」

ヘンリー「予想をはるかに上回っている。鉄道事業は今後も伸びるだろう」

ガネーシャ、頷く。

ヘンリー「しかし、コメルコ商会も、バラトール共和国の魔道士協会ギルドを使って航空輸送をしていると聞く。我が国の商人も検討すべきか判断したいので、話を聞かせてほしい」

ガネーシャ「お望みとあらば。その代わり、今波に乗っている事業家を紹介してほしい」

ヘンリー「私の知り合いで良ければ紹介しよう」

ガネーシャ「ありがとうございます、閣下」

ヘンリー、話題を変える。
「ときに、ある筋から、君と面会するなら内密に聞いて欲しいと頼まれたことがあるのだが」

ガネーシャ「なんなりと」

ヘンリー「我が国が世界連帯構想の加盟申請をしているのだが、どうも難航しているらしい。
リートゥス君と懇意にしていた君の助力を仰げば進展するだろうか?」

ガネーシャ、肩をすくめる。
「今日の目的はそれか。俺に聞いても世連の回答と同じだよ。宗主国と従属国を併せた加盟は認めない。世連憲章にも明記されている」

ヘンリー「だが、世連憲章に追加される以前から、世界の帝国領の大部分は我が国の統治下にあった」

ガネーシャ「何を言っても無駄だよ。世連は帝国主義を認めない。これはリートゥ創設者スの遺志だよ」
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