37 / 66
【先行公開版】第二章 灯火 - Torch -
国家元首 - Head of State - 1
しおりを挟む
◯カナン地区・北ガザ県・上空(土曜日・午前)
ジェームズとルイ、バスのような形状の乗り物の屋根に腰掛け、飛行している。
バスの中には、アヴェス・イスマイール・イスマイールの従者・アッバース国から連れ出されたホラーサーン地方書記官のニザーム・コメルコ商会の商人が座っている。
ニザーム、イスマイールに対して不満を並べ立てている。
「今まで全く音沙汰がなかったのに、突然ホラーサーンにいらしたので驚きましたよ。児童養護施設を増設しろと言ってきたり、突然こんなところに連れ出したり…。一体、どういうおつもりですか?」
イスマイール「お前に見てもらいたくてな」
イスマイール、バスの窓から、がれきだらけの北ガザ県を指差す。
「ここを復興させるのに、いくらかかる?」
ニザーム、窓から破壊された街を見下ろし、顔をゆがめる。
「なんですか、これは…。酷いですね」
◯北ガザ県・ベイト・ラヒア市・アル・シマー小学校・校庭
ルイの作ったシェルターの横で、ゾットとマフムード首長が待機している。
ジェームズ、バスをそっと地面に降ろす。
ゾットとマフムード首長、ジェームズの指示でバスに乗り込む。
マフムード首長、イスマイールが座っていることに気付く。
「こ、皇太子殿下」
ゾット「またお前か」
イスマイール、エスペラント語でゾットに話しかける。
「ゾットとやら、カナン地区の首長はどう決まる? 世襲制か?」
ゾット「そうだ。地元有力部族の世襲だ」
イスマイール「それなら、ここの首長たちは、お前と違って権威に弱そうだな」
ゾット「…?」
◯カナン地区・西側の地域
ジェームズ、マフムード首長の案内に従ってバスを移動させる。
カナン地区西側の残りの4つの県を巡り、首長を一人一人乗せていく。
北ガザ県の南、ガザ県の難民キャンプは先週より多くのテントがひしめき合い、ガザ県の南のディール・バラフ県にも難民キャンプが広がっている。
カナン地区の沿岸部より西に広がるノストルム海だけが、先週と変わらぬ穏やかな青をたたえている。
◯カナン地区・東側の地域
ジェームズ、シオン国の上空を迂回して、東側の地域に移動する。
東側の地域は西側ほど大きな侵攻の跡は見られない。
東の端、アッバース国との国境に川がくねりながら流れ、青とも灰ともつかない不思議な色の塩湖に注ぎ込んでいる。
南部は波打つ丘陵地帯が広がり、オリーブ畑が幾何学模様のように美しく広がっている。
ジェームズ、新たに乗り込んだ東側の首長の案内に従って各県を巡り、首長たちを乗せていく。
バスの中が22人の首長とイスマイールたちでほぼ満員となる。
西側と東側の首長たち、互いに現状を報告し合う。
マフムード首長「ついに物価が3年前の40倍になったぞ」
北ガザ県の南、ガザ県首長「シオン軍の攻撃ラインが南下している。うちでもビラが撒かれ、砲撃が始まった」
ガザ県の南、ディール・バラフ県首長「北から避難してきた住民が増えたために食料が枯渇している。このままだと飢餓に陥るかもしれん」
東側の地域、ナブルス県首長「こちらは、シオン教徒の襲撃に悩まされている。数十人の集団が村を襲って家屋やオリーブの木に放火し、住民を追い出して畑を奪おうとしている」
ラマッラー・アル・ビーレ県首長「うちもだ。銃を持ったシオン教徒たちが、住民に村を出るよう脅してくる」
◯カナン地区・東側の地域・草地
ジェームズ、カナン地区東側の開けた草地にバスを降ろす。
ルイとジェームズ、バスの外に立って周囲を警戒する。
◯バスの中
アヴェスを司会進行役として、カナン地区の首長会合が始まる。
アヴェス「皆さん、お約束通り、経過報告に来ました。
まず、世連への加盟を、30日以内に目指すことにしました。皆さんにはあと30日、カナン地区を守っていただきたい」
ゾットがフスハー語に通訳する。
首長1「30日か…」
首長2「正直きついな」
首長3「でも、終わりが見えるのはありがたい」
アヴェス「続きまして、魔道士協会への支払いも含め世連加盟までに必要な資金についてですが、これはやはり、世連から借り入れをする以外に方法はないと考えています。意見のある方は居ますか?」
首長4が軽く身を前に乗り出す。
「金利と返済期限は?」
アヴェス「ゼロから交渉します。返済猶予は5年から10年、返済期限は無期限から交渉します」
首長5「…30日分ならば」
首長6「…賛成する」
首長7「賛成するしかなかろう」
首長たち、賛意を示す。
アヴェス「では、賛成多数により、可決といたします。
今日は、バラトール共和国のコメルコ商会の方に来ていただいています。
会合終了後に、食料、弾薬、医療物資の注文ができます」
アヴェス、コメルコ商会の担当者に合図をする。
コメルコ商会担当者、前に出て挨拶をする。
「コメルコ商会のマシューと申します。
このたびの戦禍に見舞われたすべての皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。
コメルコ商会のガネーシャ会長は皆様の困難な状況に大変心を痛めており、この度のお取引は食料、武器、医薬品に至るまで、全て原価で提供させて頂くことになりました。
私は首長会合のたびにお伺いいたしますので、ご遠慮なくお申し付けください」
首長たち、嬉しそうにどよめく。
アヴェス、どよめきが収まるまでしばらく待ってから、
「続きまして、カナン地区の世連加盟に向け、国家元首の選出が必要となります。
私は、アッバース国皇太子イスマイール・イブン・ハーリド殿下を推薦します」
ニザーム、目を剥く。
ジェームズとルイ、バスのような形状の乗り物の屋根に腰掛け、飛行している。
バスの中には、アヴェス・イスマイール・イスマイールの従者・アッバース国から連れ出されたホラーサーン地方書記官のニザーム・コメルコ商会の商人が座っている。
ニザーム、イスマイールに対して不満を並べ立てている。
「今まで全く音沙汰がなかったのに、突然ホラーサーンにいらしたので驚きましたよ。児童養護施設を増設しろと言ってきたり、突然こんなところに連れ出したり…。一体、どういうおつもりですか?」
イスマイール「お前に見てもらいたくてな」
イスマイール、バスの窓から、がれきだらけの北ガザ県を指差す。
「ここを復興させるのに、いくらかかる?」
ニザーム、窓から破壊された街を見下ろし、顔をゆがめる。
「なんですか、これは…。酷いですね」
◯北ガザ県・ベイト・ラヒア市・アル・シマー小学校・校庭
ルイの作ったシェルターの横で、ゾットとマフムード首長が待機している。
ジェームズ、バスをそっと地面に降ろす。
ゾットとマフムード首長、ジェームズの指示でバスに乗り込む。
マフムード首長、イスマイールが座っていることに気付く。
「こ、皇太子殿下」
ゾット「またお前か」
イスマイール、エスペラント語でゾットに話しかける。
「ゾットとやら、カナン地区の首長はどう決まる? 世襲制か?」
ゾット「そうだ。地元有力部族の世襲だ」
イスマイール「それなら、ここの首長たちは、お前と違って権威に弱そうだな」
ゾット「…?」
◯カナン地区・西側の地域
ジェームズ、マフムード首長の案内に従ってバスを移動させる。
カナン地区西側の残りの4つの県を巡り、首長を一人一人乗せていく。
北ガザ県の南、ガザ県の難民キャンプは先週より多くのテントがひしめき合い、ガザ県の南のディール・バラフ県にも難民キャンプが広がっている。
カナン地区の沿岸部より西に広がるノストルム海だけが、先週と変わらぬ穏やかな青をたたえている。
◯カナン地区・東側の地域
ジェームズ、シオン国の上空を迂回して、東側の地域に移動する。
東側の地域は西側ほど大きな侵攻の跡は見られない。
東の端、アッバース国との国境に川がくねりながら流れ、青とも灰ともつかない不思議な色の塩湖に注ぎ込んでいる。
南部は波打つ丘陵地帯が広がり、オリーブ畑が幾何学模様のように美しく広がっている。
ジェームズ、新たに乗り込んだ東側の首長の案内に従って各県を巡り、首長たちを乗せていく。
バスの中が22人の首長とイスマイールたちでほぼ満員となる。
西側と東側の首長たち、互いに現状を報告し合う。
マフムード首長「ついに物価が3年前の40倍になったぞ」
北ガザ県の南、ガザ県首長「シオン軍の攻撃ラインが南下している。うちでもビラが撒かれ、砲撃が始まった」
ガザ県の南、ディール・バラフ県首長「北から避難してきた住民が増えたために食料が枯渇している。このままだと飢餓に陥るかもしれん」
東側の地域、ナブルス県首長「こちらは、シオン教徒の襲撃に悩まされている。数十人の集団が村を襲って家屋やオリーブの木に放火し、住民を追い出して畑を奪おうとしている」
ラマッラー・アル・ビーレ県首長「うちもだ。銃を持ったシオン教徒たちが、住民に村を出るよう脅してくる」
◯カナン地区・東側の地域・草地
ジェームズ、カナン地区東側の開けた草地にバスを降ろす。
ルイとジェームズ、バスの外に立って周囲を警戒する。
◯バスの中
アヴェスを司会進行役として、カナン地区の首長会合が始まる。
アヴェス「皆さん、お約束通り、経過報告に来ました。
まず、世連への加盟を、30日以内に目指すことにしました。皆さんにはあと30日、カナン地区を守っていただきたい」
ゾットがフスハー語に通訳する。
首長1「30日か…」
首長2「正直きついな」
首長3「でも、終わりが見えるのはありがたい」
アヴェス「続きまして、魔道士協会への支払いも含め世連加盟までに必要な資金についてですが、これはやはり、世連から借り入れをする以外に方法はないと考えています。意見のある方は居ますか?」
首長4が軽く身を前に乗り出す。
「金利と返済期限は?」
アヴェス「ゼロから交渉します。返済猶予は5年から10年、返済期限は無期限から交渉します」
首長5「…30日分ならば」
首長6「…賛成する」
首長7「賛成するしかなかろう」
首長たち、賛意を示す。
アヴェス「では、賛成多数により、可決といたします。
今日は、バラトール共和国のコメルコ商会の方に来ていただいています。
会合終了後に、食料、弾薬、医療物資の注文ができます」
アヴェス、コメルコ商会の担当者に合図をする。
コメルコ商会担当者、前に出て挨拶をする。
「コメルコ商会のマシューと申します。
このたびの戦禍に見舞われたすべての皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。
コメルコ商会のガネーシャ会長は皆様の困難な状況に大変心を痛めており、この度のお取引は食料、武器、医薬品に至るまで、全て原価で提供させて頂くことになりました。
私は首長会合のたびにお伺いいたしますので、ご遠慮なくお申し付けください」
首長たち、嬉しそうにどよめく。
アヴェス、どよめきが収まるまでしばらく待ってから、
「続きまして、カナン地区の世連加盟に向け、国家元首の選出が必要となります。
私は、アッバース国皇太子イスマイール・イブン・ハーリド殿下を推薦します」
ニザーム、目を剥く。
0
あなたにおすすめの小説
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる