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Hilde

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【先行公開版】第二章 灯火 - Torch -

国家元首 - Head of State - 2

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◯カナン地区・東側の地域・草地・バスの中

イスマイール、首長たちの前に進み出て、フスハー語で語りかける。
「皆に等しく平安あれ。
我はアッバース国皇太子、イスマイール・イブン・ハーリド・アル・シャリーフ。大地に正義を行き渡らせる太陽とたたえられし第5代カリフ、ハーリドの息子。知識と正義を重んじディーンの民を導く者なり。
ここカナンの地は、元はアッバースの領土だったが、世連加盟にあたり我が父ハーリドが解放した。同じ聖地を持つ3つの宗教の信徒たちへの温情だった。その温情が仇となり、シオン教徒に付け入る隙を与えたことを、誠に遺憾に思う。
父が為した事の結果を収拾するのは、子である我の務め。この地が世連に加盟するまでの間、元首を引き受けたい。
神は言われた。『互いに助け合い、義と敬虔において協力し、信仰を深めよ』と。(クルアーン第5章2節)
共に祈り、共に抗い、共に勝利を手にしよう。
異論がある者は申し出よ」

ニザーム、第一声「殿下! ホラーサーンはどうなさるおつもりですか!?」

イスマイール「しばらくサフル顧問とお前に預ける」

ニザーム「こちらだって問題を抱えているのに…サフル顧問に何とお伝えすれば」

イスマイール「その件については、近いうちに出向く。待っていろ」

ニザーム、しぶしぶ引き下がる。

首長1、軽く身を前に乗り出して発言する。
「アッバース国ということは…カナン地区を吸収するおつもりか?」

イスマイール「それも、考えなくもない」

首長1「なんと!」

イスマイール「かつてアッバースの領土だったこの地を、アッバースが再び併合してシオン教徒を追い出すのは容易いだろう。
だが、シオン教徒は狡知に長けたシオン商人でもある。アッバースの地方官の買収方法を心得ているシオン商人が、カナン地区の行政を牛耳るのは目に見えている。
よって、俺はカナン地区が独立した国家になることが、お前たちの自治を守る最善の方法だと思う」

首長2「では、アッバース国はどのような立場になりますか?」

イスマイール「アッバース国はカナン地区に一切関与しない。俺がアッバース国の野心のために動くことはない」

首長3「では、アッバース国から援軍や援助は無いのですか?」

イスマイール「アッバース国はこの件に関与しないし、させない。よって、援助は一切ない」

複数の首長、難しい顔で囁きあっている。

イスマイール「その上で、独立国家となる道を選択するためには、大きな決断をせねばならない」

イスマイール、表情を改めて首長たちを見回す。
「国家として承認されるためには、領域が明確に定義されていなければならぬ。つまり、国境を定める必要がある。
お前たちには、シオン国に占領された領土を取り返すか、放棄するかを選んでもらう」

首長たち、大きくどよめく。

イスマイール「お前たちがシオン国に奪われた領土を放棄するなら、30日以内に世連への加盟が叶い自治が確立されることを、俺は約束する。
だが、奪われた領土を取り返すために抗戦を続けるつもりなら、世連加盟はもちろん民の安全は保証できん。それゆえ、俺は国家元首の役は降りさせてもらう。
シオン国のシオン教徒はルーシ帝国の迫害から逃れた者たちだそうだ。帰る国がない。シオン教徒をカナン地区から追い出そうとすれば、激しい抵抗が予想される。カナン地区の戦力では、領土奪還まで途方もない時間と犠牲を払うことになるだろう。俺はそれに付き合う気はない。
この場にはシオン国に領土を奪われた首長も居ると聞いている。皆でよく話し合ってカナン地区の行く末を決めよ」

首長たち、ざわざわと近くの首長と相談し始める。

 ✕ ✕ ✕

首長4、慎重に身を前に乗り出し、イスマイールに問いかける。
「…皇太子殿下、我々が選ぶべき道を判断するため、ひとつ確認させていただきたい」

イスマイール「話せ」

首長4「先ほど殿下は、この地が世連に加盟するまでの間、国家元首を引き受けるとおっしゃった。
仮に、殿下を元首として戴きカナン地区が世連に加盟したとして、その後は、どのようになさるおつもりか?」

イスマイール「お前たちの誰かに、元首を引き継ぐことになるだろう」

首長4「世連加盟という大業を成し遂げれば、元首に留まることは造作もないはず。それを我々に譲るとは理解し難い。一体、殿下にいかなる利がありましょうか?」

イスマイール、う~んと首をひねる。
「…そうだな…」

呟くように言う。
「…まあ…、定命カダルなのだろう」

首長4「は…」

イスマイール「俺は、アッバース国第5代カリフ・ハーリドの息子だ。そして、学生だ。たまたまカナン地区のために動く時間がある。そして、カナン地区の惨状は許しがたい。そして、手を貸して欲しいと頼まれた。そして、断る理由がない。以上だ」

首に鍵を下げた年老いた首長が口を開く。
「…儂は、反対だ」

年老いた首長、鍵を握りしめる。
「そのようないい加減な理由では、カナンの地と民の生命いのちを任せられない。王族の遊びではないのだ」

何人かの首長がうなずく。

首長5、声を上げる。
「そうだ! 我々だけでシオン国に奪われた土地を取り戻そう!」

首長6「川から海まで、全て取り戻そうじゃないか!」

首長7「土地を全て取り戻してから、我々の手で世連に加盟すればいいのだ!」

首に鍵を下げている首長たちが、次々と同意する。

イスマイール「…ああ、まだあった。俺が適任だという理由が」
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