42 / 75
【先行公開版】第二章 灯火 - Torch -
シオン国 - State of Sion - 3
◯シオン国・エルサレム市・首相官邸・応接室
シオン国首相イツハク・ベンダビッド、立ち上がる。
「皇太子殿下、シオン国建国の必然性を説明させてください」
首相、ややくぐもった低い声で語り始める。
「皇太子殿下、シオン教徒は、世界で最も悲惨な歴史を歩んできた民です。
我々はカナンの地から強制的に追放されたのち、逃れた先の西側諸国で差別と憎悪の対象となり、過酷な時代を生きてきました。
土地の所有を禁じられ、職業組合を追放され、指定された区域に隔離され、移動の自由を奪われ、幾度となく迫害を受けました。
我々の罪はただ一つ、シオン教徒であることでした。
繰り返される組織的な襲撃、略奪、虐殺──改宗を拒めば虐殺、流言飛語によって虐殺、政情が乱れれば虐殺。
さらに、シオン教徒識別標の着用義務、遺産と財産の没収、異端審問、強制改宗、追放令…。
我々は幾度も国を移り、安息の地を求めました。しかし、庇護を約束されたはずのルーシ帝国でも同じ運命が待っていました。同化を望み、友好を求め、努力を重ねた我々を、共生していた隣人たちが襲撃したのです。その時も、助けの手を差し伸べる者は誰一人としていませんでした」
首相、ぐっと拳を握る。
「迫害の歴史の中で、我々は国を持たぬ者がどのように扱われるかを身をもって学びました。
そして、生命と信仰、尊厳、自由、生活の権利を守るためには、シオン国家の建設しか道はない──その結論に至ったのです」
首相、真っ直ぐイスマイールを見据える。
「以上が、シオン国建国の必然性です」
イスマイールが静かに頷くと、首相、さらに言葉を続ける。
「建国以来、我々は離散したシオン教徒に呼びかけています。
移民と建国の仕事のためにシオン国に結集し、何世代にもわたる夢の実現──すなわち、神の贖いを成し遂げる偉大なる闘争に共に立ち上がるように、と」
軍主席祭司エイラム・カリマン、大きく頷きながら聞いている。
首相「我々は平和と善き隣人であるために近隣諸国の政府と国民に手を差し伸べています。祖国に入植した主権を持つシオン教徒と協力および相互扶助の絆を樹立するよう呼びかけております。
そして、アルビオン王国をはじめとする西側諸国も次々にシオン国を承認しました。彼らは、我々が移民を呼び寄せる際には協力を惜しまないと約束しています」
イスマイール「…そうであったか」
深く頷きながら額に手をやる。
(──西側諸国は体のいい厄介払いをしたな)
イスマイールの後方で、従者、ニザームと並んで控えていたアヴェス、声を上げる。
「ベンダビッド首相、あなたがたの苦難の歴史に深く同情し、その建国の志も理解いたしました。しかし、カナンの地には古くからカナン人が住んでいます。彼らを武力で追放して国を建てたことを、あなたはどのようにお考えでしょうか?」
首相、少し驚いたようにアヴェスに目を向ける。
「移住したカナンの人々は、自発的に移住したのです。
シオン国は、宗教、人種、性別に関わらず全ての住民の完全に平等な社会的、政治的権利を保証し、全ての宗教の聖地を保護しています。ですから、シオン国にはカナン人も大勢住んでいます。
悲しいことに、一部のカナン人は我々に敵意を抱き、シオン国が独立を宣言した翌日から、テロ攻撃を仕掛けてきました。移住したカナンの人々は、テロリストが自由に行き来できるよう、自発的に住居や村を明け渡したのです」
隣に立っているニザームがアヴェスの足を靴の上から強く踏んで思い留まらせようとするが、アヴェス、反論する。
「自発的ではありません。武力攻撃を伴う強制的な移住です。一つの街を破壊するほどの無差別攻撃で大勢の住民が死傷しています。被害者のうち7割が女性と子供です」
シオン国家治安相レオニード・カプランが立ち上がり、口をはさむ。
「殺された子供はテロリストだったのだ。カナン地区に民間人はいない。全員がテロリストなのだ。我々の防衛行動を悪の侵略と決めつけないでいただきたい」
「な…っ」
アヴェス、気色ばむ。
シオン国防相エフラム・ハザノフが、その場を収めようとして発言する。
「我々は報復攻撃の前に必ずビラを撒いています。その上で戦闘地域に留まりシオン国防軍に敵対する者は、テロリストとその支援者とみなされても仕方がありません」
アヴェス、再び口を開きかけるが、イスマイールが鋭く制する。
「控えよ」
イスマイール、シオン国の閣僚たちに向かって頭を下げる。
「最近召し抱えたばかりの者でな。私の監督不行き届き、誠に面目ない。不愉快な思いをさせたこと、深くお詫び申し上げる」
シオン国首相イツハク・ベンダビッド、立ち上がる。
「皇太子殿下、シオン国建国の必然性を説明させてください」
首相、ややくぐもった低い声で語り始める。
「皇太子殿下、シオン教徒は、世界で最も悲惨な歴史を歩んできた民です。
我々はカナンの地から強制的に追放されたのち、逃れた先の西側諸国で差別と憎悪の対象となり、過酷な時代を生きてきました。
土地の所有を禁じられ、職業組合を追放され、指定された区域に隔離され、移動の自由を奪われ、幾度となく迫害を受けました。
我々の罪はただ一つ、シオン教徒であることでした。
繰り返される組織的な襲撃、略奪、虐殺──改宗を拒めば虐殺、流言飛語によって虐殺、政情が乱れれば虐殺。
さらに、シオン教徒識別標の着用義務、遺産と財産の没収、異端審問、強制改宗、追放令…。
我々は幾度も国を移り、安息の地を求めました。しかし、庇護を約束されたはずのルーシ帝国でも同じ運命が待っていました。同化を望み、友好を求め、努力を重ねた我々を、共生していた隣人たちが襲撃したのです。その時も、助けの手を差し伸べる者は誰一人としていませんでした」
首相、ぐっと拳を握る。
「迫害の歴史の中で、我々は国を持たぬ者がどのように扱われるかを身をもって学びました。
そして、生命と信仰、尊厳、自由、生活の権利を守るためには、シオン国家の建設しか道はない──その結論に至ったのです」
首相、真っ直ぐイスマイールを見据える。
「以上が、シオン国建国の必然性です」
イスマイールが静かに頷くと、首相、さらに言葉を続ける。
「建国以来、我々は離散したシオン教徒に呼びかけています。
移民と建国の仕事のためにシオン国に結集し、何世代にもわたる夢の実現──すなわち、神の贖いを成し遂げる偉大なる闘争に共に立ち上がるように、と」
軍主席祭司エイラム・カリマン、大きく頷きながら聞いている。
首相「我々は平和と善き隣人であるために近隣諸国の政府と国民に手を差し伸べています。祖国に入植した主権を持つシオン教徒と協力および相互扶助の絆を樹立するよう呼びかけております。
そして、アルビオン王国をはじめとする西側諸国も次々にシオン国を承認しました。彼らは、我々が移民を呼び寄せる際には協力を惜しまないと約束しています」
イスマイール「…そうであったか」
深く頷きながら額に手をやる。
(──西側諸国は体のいい厄介払いをしたな)
イスマイールの後方で、従者、ニザームと並んで控えていたアヴェス、声を上げる。
「ベンダビッド首相、あなたがたの苦難の歴史に深く同情し、その建国の志も理解いたしました。しかし、カナンの地には古くからカナン人が住んでいます。彼らを武力で追放して国を建てたことを、あなたはどのようにお考えでしょうか?」
首相、少し驚いたようにアヴェスに目を向ける。
「移住したカナンの人々は、自発的に移住したのです。
シオン国は、宗教、人種、性別に関わらず全ての住民の完全に平等な社会的、政治的権利を保証し、全ての宗教の聖地を保護しています。ですから、シオン国にはカナン人も大勢住んでいます。
悲しいことに、一部のカナン人は我々に敵意を抱き、シオン国が独立を宣言した翌日から、テロ攻撃を仕掛けてきました。移住したカナンの人々は、テロリストが自由に行き来できるよう、自発的に住居や村を明け渡したのです」
隣に立っているニザームがアヴェスの足を靴の上から強く踏んで思い留まらせようとするが、アヴェス、反論する。
「自発的ではありません。武力攻撃を伴う強制的な移住です。一つの街を破壊するほどの無差別攻撃で大勢の住民が死傷しています。被害者のうち7割が女性と子供です」
シオン国家治安相レオニード・カプランが立ち上がり、口をはさむ。
「殺された子供はテロリストだったのだ。カナン地区に民間人はいない。全員がテロリストなのだ。我々の防衛行動を悪の侵略と決めつけないでいただきたい」
「な…っ」
アヴェス、気色ばむ。
シオン国防相エフラム・ハザノフが、その場を収めようとして発言する。
「我々は報復攻撃の前に必ずビラを撒いています。その上で戦闘地域に留まりシオン国防軍に敵対する者は、テロリストとその支援者とみなされても仕方がありません」
アヴェス、再び口を開きかけるが、イスマイールが鋭く制する。
「控えよ」
イスマイール、シオン国の閣僚たちに向かって頭を下げる。
「最近召し抱えたばかりの者でな。私の監督不行き届き、誠に面目ない。不愉快な思いをさせたこと、深くお詫び申し上げる」
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます
青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。
藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。
溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。
その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。
目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。
前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。
リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。
アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。
当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。
そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。
ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。
彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。
やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。
これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
真実の愛の裏側
藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。
男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――?
※ 他サイトにも投稿しています。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
悪役令嬢は激怒した
松本雀
恋愛
悪役令嬢は激怒した。
必ず、かの厚顔無恥な簒奪者を排除せねばならぬと決意した。
ローザリンデ・フォン・シュヴァルツェンベルクには、政治のことはわからぬ。流行のドレスにも疎い。けれど悪には人一倍敏感であった。なにせ、自分が悪役令嬢だったからである。
◇
悪役令嬢ローザリンデは、王太子に断罪され辺境に追放された。
だが薬草園を耕す日々は存外悪くなく、「悪役令嬢時代より充実してるわ」と満足していた——はずだった。
ある日、社交界に新たな悪役令嬢が君臨し、自分が「先代」呼ばわりされていると知り大激怒。悪役令嬢の座を賭けて王都に殴り込む。
完璧な縦ロール、完璧な高笑い、完璧な紅茶のかけ方。何もかもが洗練された現役悪役令嬢クラリッサを相手に、高笑い対決、ドレスの威圧感対決、嫌味対決と、誰も得をしない真剣勝負が幕を開ける。
力押しの元悪役令嬢と技巧派の現役悪役令嬢。戦いの果てに二人が見つけるものとは……?
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。