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【先行公開版】第二章 灯火 - Torch -
ヤット - Yat - 3
◯カナン地区・ガザ県・南部・空地(翌朝)
空が白み始める。
固まって寝ている子供たちと、子供たちを囲むように横たわっている女教師たち。その外側を男たちが守るように寝転がっている。
その集団の横で、腰を下ろしたまま眠っていたミロが、目をこする。
差し始めた朝の光で目を覚ました者から一人また一人と起き上がり、水を飲み堅パンをかじる。
全員が起きてから、男たちが今日の分の水と堅パンを配る。
テクラ、子供たちに声を掛ける。
「さあ、あともう一頑張り。ディール・バラフ県まで、あと少しですよ」
◯カナン地区・ディール・バラフ県・北部・サラ・アル・ディン通り(午前中)
日が昇り、人通りが多くなってきた大通りを進む一行。
先頭にカリドとユスフ、子供たちと女教師たちを挟み、後尾にヤットとミロが付いて歩く。
ヤット、列の後方から、前方を歩くライラの表情を窺う。
(今朝は笑顔だ)
ヤット、ライラを小走りで追い、横に並ぶ。
「ライラ」
ライラ、振り向く。長い睫毛に縁取られた瞳がヤットを捉える。
ヤット、その睫毛を濡らした昨夜の涙を思い返す。
「ライラ…その、大丈夫?」
ライラ「えっ…?」
怪訝な顔でヤットを見る。
「あ…、いや…、なんでもない」
ヤット、口元に拳を当て、ごにょごにょと言葉を濁す。
ライラ「ヤットは…いつ、ここに来たの?」
ヤット「5月の始めに」
ライラ「…そう。ここは外と全然違うから、驚いたでしょう?」
ヤット「…戦争中なんだから、仕方ないよ」
ライラ「…そうね」
ライラ、努めて明るい声を出す。
「3年前までは、全然違っていたのよ。
明るくて、綺麗で、暮らしやすい場所だったの。農業も漁業も盛んで、街には活気のある市場があって。休日には、ノストルム海で海水浴をして、ショッピング街で買い物やお茶も楽しんで…。
ベイト・ラヒア市は〝イチゴの里〟と呼ばれるほどイチゴの栽培が盛んで、大粒で甘いイチゴが市場に並んでいたわ。オレンジも有名だったのよ。花の栽培も盛んで、切り花をアッバース国に輸出していたの。
ノストルム海では、春から秋にかけてたくさんの魚が獲れて、色々な種類の魚が市場に並んで…」
ライラ、うつむく。
「…だけど、野菜畑も、花畑も、果樹園も、シオン軍に潰されてしまったわ。
ノストルム海もシオン軍の軍船に占領されて、漁に出られなくなって…」
ヤット、ライラを慰めるように言う。
「…マフムード首長たちが、きっとシオン国を止めてくれるよ」
ライラ、自分に言い聞かせるように、
「…そうよね。
カナン人は勤勉だから、侵攻さえ終われば、きっとすぐに復興できるわ」
ヤット「うん」
ライラ、ヤットに笑顔を向ける。
「カナン地区が復興したら、あなたにもベイト・ラヒア市のイチゴを食べてもらいたいわ。本当においしいのよ」
ヤット、ライラの笑顔にほっとする。
「うん」
子供の一人が、ライラの手を、くいっと引っ張る。
「ねえ、ライラ先生。昨日の詩の続きを教えて」
「いいわよ」
ライラ、子供たちの列の中に入っていく。
◯カナン地区・ディール・バラフ県・デイル・アル=バラフ市(昼)
一行、大通りを離れ、ディール・バラフ県の県都に向かう。
街の中心に近づくにつれ、朗々と響き渡る声が聞こえてくる。
声「神は偉大なり」
数回繰り返し、
声「私は証言する、ディーンの他に神は無しと」
女教師たち、へなへなと膝を付く。
「アザーン(礼拝の呼びかけ)が聞こえる…。ここのモスクは無事なのね…」
カリドとユスフ、笑顔で肩を叩き合う。
「ここに砲撃は来てないようだな」
テクラ、明るい声を出す。
「礼拝を済ませたら、近くの学校へ行ってみましょう」
◯デイル・アル=バラフ市・ハディージャ学校
広い校庭をコの字型に大きな校舎が囲む、大規模な学校を訪ねる。
受付で、校長が一行を出迎える。
「ハディージャ学校の校長、スザンヌです」
テクラ「初めまして。ベイト・ラヒア市のアル・シマー小学校教諭、テクラです。
シオン国の攻撃によって学校が被災し、孤児たちを連れて避難してきました。
こちらでしばらくお世話になれたら嬉しいのですが」
校長、気の毒そうな表情を浮かべる。
「…そうですか。ベイト・ラヒア市から…。
実は、あなた方のように北部から避難してきた方々が大勢いらして、わが校の教室はもう満員なのです」
テクラ「そうですか…」
校長「お力になれず申し訳ありません。他の学校にはまだ空きがあるかもしれませんので、訪ねてみてください」
テクラ「…はい。そうしてみます」
テクラ、カリドたちに首を振り、学校の出口に向かおうとする。
校長、テクラを呼び止める。
「お力になれないのにご迷惑だと思いますが、伺ってもよろしいですか?
今朝、このような物が空から降ってきたのですが、何かご存知ですか?」
校長、手のひらほどの大きさの紙をポケットから取り出す。
テクラ「…え?」
紙には、カナン地区の地図が描かれ、シオン語とフスハー語が書かれている。
『この地域にいるすべての人に告ぐ。ここは危険な戦闘地域で、安全ではない。直ちに南へ避難を』
カナン地区の北部から中心部にかけて何カ所も✕が付けられ、南部へ向かう矢印が大きく描かれている。
テクラ、みるみる青ざめる。
「…私たちの学校は、これと同じ紙が撒かれた後に、攻撃されました」
突如、
バァァァン!
ドオオオーン!
学校の周囲から砲撃音が響く。
校長、驚いて辺りを見回す。
男たち身構え、子供たち女教師にしがみつく。
ド、グヮッシャァァッ!!!!!!
ひときわ大きな砲撃音と衝撃で、校舎が震える。
校舎の一角から、生徒たちの泣き叫ぶ声が聞こえる。
校長、悲鳴が聞こえた教室へ駆け出す。
怯えるラマを抱きかかえたカリド、
「…ここもダメか」
空が白み始める。
固まって寝ている子供たちと、子供たちを囲むように横たわっている女教師たち。その外側を男たちが守るように寝転がっている。
その集団の横で、腰を下ろしたまま眠っていたミロが、目をこする。
差し始めた朝の光で目を覚ました者から一人また一人と起き上がり、水を飲み堅パンをかじる。
全員が起きてから、男たちが今日の分の水と堅パンを配る。
テクラ、子供たちに声を掛ける。
「さあ、あともう一頑張り。ディール・バラフ県まで、あと少しですよ」
◯カナン地区・ディール・バラフ県・北部・サラ・アル・ディン通り(午前中)
日が昇り、人通りが多くなってきた大通りを進む一行。
先頭にカリドとユスフ、子供たちと女教師たちを挟み、後尾にヤットとミロが付いて歩く。
ヤット、列の後方から、前方を歩くライラの表情を窺う。
(今朝は笑顔だ)
ヤット、ライラを小走りで追い、横に並ぶ。
「ライラ」
ライラ、振り向く。長い睫毛に縁取られた瞳がヤットを捉える。
ヤット、その睫毛を濡らした昨夜の涙を思い返す。
「ライラ…その、大丈夫?」
ライラ「えっ…?」
怪訝な顔でヤットを見る。
「あ…、いや…、なんでもない」
ヤット、口元に拳を当て、ごにょごにょと言葉を濁す。
ライラ「ヤットは…いつ、ここに来たの?」
ヤット「5月の始めに」
ライラ「…そう。ここは外と全然違うから、驚いたでしょう?」
ヤット「…戦争中なんだから、仕方ないよ」
ライラ「…そうね」
ライラ、努めて明るい声を出す。
「3年前までは、全然違っていたのよ。
明るくて、綺麗で、暮らしやすい場所だったの。農業も漁業も盛んで、街には活気のある市場があって。休日には、ノストルム海で海水浴をして、ショッピング街で買い物やお茶も楽しんで…。
ベイト・ラヒア市は〝イチゴの里〟と呼ばれるほどイチゴの栽培が盛んで、大粒で甘いイチゴが市場に並んでいたわ。オレンジも有名だったのよ。花の栽培も盛んで、切り花をアッバース国に輸出していたの。
ノストルム海では、春から秋にかけてたくさんの魚が獲れて、色々な種類の魚が市場に並んで…」
ライラ、うつむく。
「…だけど、野菜畑も、花畑も、果樹園も、シオン軍に潰されてしまったわ。
ノストルム海もシオン軍の軍船に占領されて、漁に出られなくなって…」
ヤット、ライラを慰めるように言う。
「…マフムード首長たちが、きっとシオン国を止めてくれるよ」
ライラ、自分に言い聞かせるように、
「…そうよね。
カナン人は勤勉だから、侵攻さえ終われば、きっとすぐに復興できるわ」
ヤット「うん」
ライラ、ヤットに笑顔を向ける。
「カナン地区が復興したら、あなたにもベイト・ラヒア市のイチゴを食べてもらいたいわ。本当においしいのよ」
ヤット、ライラの笑顔にほっとする。
「うん」
子供の一人が、ライラの手を、くいっと引っ張る。
「ねえ、ライラ先生。昨日の詩の続きを教えて」
「いいわよ」
ライラ、子供たちの列の中に入っていく。
◯カナン地区・ディール・バラフ県・デイル・アル=バラフ市(昼)
一行、大通りを離れ、ディール・バラフ県の県都に向かう。
街の中心に近づくにつれ、朗々と響き渡る声が聞こえてくる。
声「神は偉大なり」
数回繰り返し、
声「私は証言する、ディーンの他に神は無しと」
女教師たち、へなへなと膝を付く。
「アザーン(礼拝の呼びかけ)が聞こえる…。ここのモスクは無事なのね…」
カリドとユスフ、笑顔で肩を叩き合う。
「ここに砲撃は来てないようだな」
テクラ、明るい声を出す。
「礼拝を済ませたら、近くの学校へ行ってみましょう」
◯デイル・アル=バラフ市・ハディージャ学校
広い校庭をコの字型に大きな校舎が囲む、大規模な学校を訪ねる。
受付で、校長が一行を出迎える。
「ハディージャ学校の校長、スザンヌです」
テクラ「初めまして。ベイト・ラヒア市のアル・シマー小学校教諭、テクラです。
シオン国の攻撃によって学校が被災し、孤児たちを連れて避難してきました。
こちらでしばらくお世話になれたら嬉しいのですが」
校長、気の毒そうな表情を浮かべる。
「…そうですか。ベイト・ラヒア市から…。
実は、あなた方のように北部から避難してきた方々が大勢いらして、わが校の教室はもう満員なのです」
テクラ「そうですか…」
校長「お力になれず申し訳ありません。他の学校にはまだ空きがあるかもしれませんので、訪ねてみてください」
テクラ「…はい。そうしてみます」
テクラ、カリドたちに首を振り、学校の出口に向かおうとする。
校長、テクラを呼び止める。
「お力になれないのにご迷惑だと思いますが、伺ってもよろしいですか?
今朝、このような物が空から降ってきたのですが、何かご存知ですか?」
校長、手のひらほどの大きさの紙をポケットから取り出す。
テクラ「…え?」
紙には、カナン地区の地図が描かれ、シオン語とフスハー語が書かれている。
『この地域にいるすべての人に告ぐ。ここは危険な戦闘地域で、安全ではない。直ちに南へ避難を』
カナン地区の北部から中心部にかけて何カ所も✕が付けられ、南部へ向かう矢印が大きく描かれている。
テクラ、みるみる青ざめる。
「…私たちの学校は、これと同じ紙が撒かれた後に、攻撃されました」
突如、
バァァァン!
ドオオオーン!
学校の周囲から砲撃音が響く。
校長、驚いて辺りを見回す。
男たち身構え、子供たち女教師にしがみつく。
ド、グヮッシャァァッ!!!!!!
ひときわ大きな砲撃音と衝撃で、校舎が震える。
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怯えるラマを抱きかかえたカリド、
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