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Hilde

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【先行公開版】第二章 灯火 - Torch -

緊急特別総会 - Emergency Special Session - 1

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◯カナン地区・ラファフ県・ラファフ市・南の検問所近くの難民キャンプ(夜明け前・月曜日)

夜明け前の湿った空気の中、ハーン・ユーニス県の難民キャンプに隠されていた5隊の騎馬隊が、音を立てぬよう集結している。

馬上の男たちは、揃いの白と黒の格子柄のクーフィーヤを深く被り、腰に剣をき、背には新型銃を負っている。
ヤッファ県出身の若い兄弟も、興奮と緊張に満ちた面持ちで、同郷の年長者たちに交じって馬を進める。

 × × ×

南の検問所近くの難民キャンプに密かに確保された広場に、次々と騎馬隊が並ぶ。

ハイファ県の騎馬隊の先頭に立つハイファ県首長が、アッコ県首長に、4色に染められた旗を渡す。
「これを、槍の穂先の辺りに結ぶといい」

右に突き出す赤い三角形と、その横に黒・白・緑の3つの横帯が染め抜かれた旗。

ハイファ県首長「赤は勇気、黒は現在の苦難、白はその先の安らぎ、緑はディーン教を表している。
家の者が、首長たちに持たせたいと縫い上げた」

アッコ県首長、微笑む。
「良い意匠だ。使わせてもらおう」

そこへ、首に鍵を下げた年老いた首長が歩み寄る。
「アッコとハイファの」

「エルサレム県首長」
二人が挨拶する。

老首長、胸に手を当てる。
「神の御手みてが、お前たちの上にあらんことを」

老首長、胸に手を当てたまま、二人を見上げる。
「儂はこの年ゆえ、もう馬を駆ることはできん。
どうか、儂の代わりにエルサレムを頼まれてくれ」

アッコ県首長「任せてください」

ハイファ県首長「神の御前に恥じぬ働きを」


◯ラファフ市・南の検問所前(同)

難民キャンプに騎馬隊が集結している頃──

検問所前では、薄闇の中、新型銃を携えた先遣隊の男たちが、音をたてぬよう襲撃の準備を始めている。

夜のうちに設置された、がれきの山に擬装されたバリケードが、南の検問所を巧妙に取り囲んでいる。

先遣隊、バリケードで身を隠しながら、次々と配置に着き、身体を伏せて銃を構える。

検問所の死角に立ったアッバース国ホラーサーン軍大尉アリーが、攻撃開始のタイミングを計りながら東の空をじっと見据えている。


◯ラファフ市・南の検問所前(夜明け)

東の空が白み始める。

南の検問所に徐々に薄明かりが差す。
検問所を巡回する警備兵の黒い影が次第に判別できるようになる。

太陽が地平を割り、光が一気に検問所を照らす──

アリーが、手を振り下ろす。

先遣隊の銃口が、一斉に火を吹く。


◯カナン地区・ハーン・ユーニス県・ハーンユーニス市・破壊の跡の残るアパート・1DK・外壁の壊れた部屋

朝の光が、石造りの部屋の、外壁の代わりに張られた帆布を照らし始める。

パン、パン、パン、パン、パン──

遠くから聞こえる銃声に、ヤット、ハッと身を起こす。

カリド・ユスフ・ミロも同時に体を起こし、顔を見合わせる。

パン、パンパン、パン

パン、パン──

ハサンとカースィムも、肘をついて身を起こす。

ハサン「…ラファフ県で、…銃声か…?」

カリド「…砲撃も無く、銃撃だけなのは珍しいですね」

銃撃音、途切れず続いている。

ユスフ、眉をひそめる。
「…おかしい。今まで、こんな攻撃あったか?」

カリド、不安そうに、
「…いや…」

ハサン、ゴクリと唾を飲み込む。
「…ラファフ県で、…何かが起きてるぞ…」


○カナン地区・ラファフ県・ラファフ市・南の検問所前

検問所の防壁を挟み、警備兵と先遣隊の男たちとの間で、激しい銃撃戦が続いている。

警備兵が装填のために身を引いた一瞬を逃さず、先遣隊が速射で射抜き、壁面の銃眼を制圧していく。

硝煙の匂いが濃く立ち込める中、銃を構えた先遣隊がバリケードを伝い、検問所へ突入する。

──やがて

ギギギィィ……ッ

先遣隊の男たちが、検問所正面の両開きの門を、ゆっくりと左右に開く。

アリー、高く腕を上げて、声を張り上げる。
「──出撃せよ!!」

待ち構えていた首長たち「出撃ーーッ!!」

隊列を組んだ5隊の騎馬隊が、蹄の音を轟かせて検問所のゲートを駆け抜ける。


◯アッバース国・北シナイ県・ラファフ市・検問所側

騎馬隊の先頭を走るベエルシェバ県首長、検問所を抜けた先に展開しているアッバース国の国境警備隊に、一瞬、ひるむ。

だが、警備隊長以下、全員が腕を背に回し、直立不動の姿勢を保っている。

ベエルシェバ県首長、右手を胸に当て頭を下げ、警備隊の前を通り抜ける。


◯北シナイ県・アブ・アウェイギラ市・エル・オウジャ検問所

アッバース国とシオン国の間に設けられた、物資輸送専門の検問所。

土煙を上げて接近するカナンの騎馬隊を迎え入れるように、検問所のゲートの門が広く開け放たれる。

騎馬隊の先頭を走るベエルシェバ県首長、走り抜けざまに警備隊へ一礼し、ゲートを通過していく。


◯シオン国・ラマト・ネゲブ市・検問所側

突然の騎馬の襲来に慌てふためくシオン国の警備兵を、ゲートを通り抜けたベエルシェバ県首長、勢いに任せて蹴散らす。

ベエルシェバ県首長「押し通れー!!」

後続の騎馬隊も、速度を緩めることなく、次々と駆け抜ける。

 × × ×

5隊の騎馬隊、砂塵を巻き上げながらシオン国南部の平原へと躍り出る。
懐かしい故郷の風が、頬をなでる。
騎馬隊の先頭に立つ首長たち、互いにうなずき合い、5方向に分かれる。

 × × ×

南は、ベエルシェバ県首長。広大な高原地帯へ。

南東は、ハイファ県首長。東側地域のオリーブ畑へ。

東は、アッコ県首長。聖地エルサレムへ。

北東は、ナザレ県首長。東側地域の山岳地帯へ。

北は、ヤッファ県首長。ノストルム海沿いの港町へ。

 × × ×

──昇る朝日に照らされながら、5隊の騎馬隊が、それぞれの地平線へと吸い込まれていく。
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