9 / 41
第9話 ライアスの行方について
しおりを挟む
「どうにか今日は無事に終わったな……」
肩をとんとんと叩いて息を吐く。体力については、放っておくと辛いので『回復石(小)』を使って治しているのだが、何度も疲労したせいで、精神的疲労れが溜まっている。
「こればかりは慣れないといけないな」
この先もこの戦闘スタイルを続けるつもりなら、落差に慣れておくしかない。
「でも、そのお蔭でこれだけ手に入った」
あの後戦闘したのはリザードウォーリア2匹、レッドベア1匹、ゴブリンスカウト3匹だった。
リザードウォーリアは剣とプロテクターを落とし、レッドベアは何も落とさない。ゴブリンスカウトは短剣を落とした。
「今日使った回復石(小)が8個。一応リザードウォーリアのドロップだけでも黒字だな……」
俺はモノリスの『買い取り』に触れると、ドロップアイテムを箱に放り込んだ。
『残高3710ptです。継続してお売りいただけますか?』
「よしっ!」
ゴブリンスカウトの短剣も300ptで売れるらしい。本日の狩りは完全に黒字となった。
「明日以降もこの調子でいけば、いずれは武器とか防具も揃えられるに違いない」
ようやく見えてきた明るい兆しに、俺は安心するとそのまま眠りに落ちた。
★
ライアスが転移してしまってから二週間程経過したころ、事件は大々的に取り扱われ、問題は国中に広がっていた。
それというのも、ライアスが消えたのはモノリスを利用している時間帯で、多くの目撃者がいたからだ。
この二週間、問題が起こったモノリスの使用は制限され、国が厳重な警備を敷いている。
そんな中、国の宮廷魔道士たちは文献をひっくり返し、今回の事件の調査を行っていた。
「それでは、今回の事件について、我々の考えを述べたいと思います」
城の会議室には、事件を調べていた宮廷魔道士、当日の警備の兵士、他にはトーリとキャロとメアリー。ライアスの仲間が呼ばれていた。
「まず、今回事件が起こった経緯ですが、失踪したライアスはCランク探索者で、モノリスを利用したのは『成長限界』に達し、クラスチェンジをおこなうためでした」
「そうです、俺たちパーティーであいつだけ半年遅れで『成長限界』に達したんです。元々『成長限界』が遅い人間は希少ジョブを得る可能性があった。そのジョブのせいであいつはあの場から消えたんじゃないですか?」
トーリは自分たちが出した結論を宮廷魔道士に伝える。
「おそらく、それはないかと。我々、宮廷魔道士も希少ジョブが扱えるスキルや魔法について調べ尽くしました。中には『仲間の下に合流する魔法』なんてものもあり、それを使ったのではないかと推測が立ちますが、ジョブを得たばかりの人間がすぐに扱える魔法でもなければ、仲間であるあなた方は後方に待機していた」
つまり、この魔法で消えたというのは否定される。
「だったら、どうしてっ! 私たちはずっとライアス君を見ていましたっ! 本当に瞬きするほどの間に消えてしまったんです! それまでの間、彼は呪文の詠唱はおろか、スキルを使う動きもしていません! ただ、モノリスに触れていただけですっ!」
メアリーが当時の状況を繰り返し伝える。
「我が国では今回が初めてになりますが、他国に確認したところ、この1000年で似たような失踪が3回記録されていました」
「それって……ライアス以外にも犠牲者がいたってこと?」
キャロの問いかけに宮廷魔道士は頷く。
「いずれも目撃者がおりましたが、今回と同じようにモノリスでクラスチェンジをしていた際に消えてしまったということです」
「つまり……クラスチェンジの際に得られるジョブの中に、本人を強制的に連れ去ってしまうものがある?」
トーリの答えはこの場の全員にとっておそろしいものだった。
これまで、世界中の人間がモノリスを利用し、便利に使ってきたのだが、そのような話が広まると、誰も安心してモノリスを使えなくなる。
「言うまでもありませんが、モノリスはかつて反映した文明が残したもので、国や生活を支えています。使わないようにするという選択肢はあり得ません」
「ライアスがいなくなったんですよ? 他に犠牲が出るのを待つつもりですか?」
国としても苦渋の選択になる。これまで数人の失踪がありながら、その情報が民衆に広まっていないのは、時間が経つにつてれ風化したというのもあるが、それだけモノリスが便利だからだ。
「それじゃあ、ライアス君がどこに行ってしまったのか、結局わからないということですか?」
メアリーは胸元で両手を組むとギュッと拳を握る。
「その件についてですが、他国にはない情報が一つあります」
皆がその情報に注目する。
「実は、今から100年前、我が国の王族の一人が、公式行事でクラスチェンジをおこなうためモノリスに立ったことがございます。知っての通り、王族がクラスチェンジをおこなう際、見物人は離れて行ないますが、後世に記録を残すため少数の人間が立ち会い、一緒に確認することになっています」
王族は『成長限界』をむかえると一人前と認められ、そのクラスチェンジは国を上げての祭りとなる。
「実はその100年前のクラスチェンジの時、異変が起きていたのです」
「それは……どんな?」
ゴクリと喉を鳴らす。
「普段出るはずのメッセージとはまったく異なるメッセージが出たのですよ」
「モノリスにでたそのメッセージとは?」
皆が黙り込み、宮廷魔道士の言葉に注目する。
「その記録にはこうあります『『成長限界』の確認をしました。ユグドラシルへの転移を行いますがよろしいですか?』と……」
その場の全員が息を呑むのだった。
肩をとんとんと叩いて息を吐く。体力については、放っておくと辛いので『回復石(小)』を使って治しているのだが、何度も疲労したせいで、精神的疲労れが溜まっている。
「こればかりは慣れないといけないな」
この先もこの戦闘スタイルを続けるつもりなら、落差に慣れておくしかない。
「でも、そのお蔭でこれだけ手に入った」
あの後戦闘したのはリザードウォーリア2匹、レッドベア1匹、ゴブリンスカウト3匹だった。
リザードウォーリアは剣とプロテクターを落とし、レッドベアは何も落とさない。ゴブリンスカウトは短剣を落とした。
「今日使った回復石(小)が8個。一応リザードウォーリアのドロップだけでも黒字だな……」
俺はモノリスの『買い取り』に触れると、ドロップアイテムを箱に放り込んだ。
『残高3710ptです。継続してお売りいただけますか?』
「よしっ!」
ゴブリンスカウトの短剣も300ptで売れるらしい。本日の狩りは完全に黒字となった。
「明日以降もこの調子でいけば、いずれは武器とか防具も揃えられるに違いない」
ようやく見えてきた明るい兆しに、俺は安心するとそのまま眠りに落ちた。
★
ライアスが転移してしまってから二週間程経過したころ、事件は大々的に取り扱われ、問題は国中に広がっていた。
それというのも、ライアスが消えたのはモノリスを利用している時間帯で、多くの目撃者がいたからだ。
この二週間、問題が起こったモノリスの使用は制限され、国が厳重な警備を敷いている。
そんな中、国の宮廷魔道士たちは文献をひっくり返し、今回の事件の調査を行っていた。
「それでは、今回の事件について、我々の考えを述べたいと思います」
城の会議室には、事件を調べていた宮廷魔道士、当日の警備の兵士、他にはトーリとキャロとメアリー。ライアスの仲間が呼ばれていた。
「まず、今回事件が起こった経緯ですが、失踪したライアスはCランク探索者で、モノリスを利用したのは『成長限界』に達し、クラスチェンジをおこなうためでした」
「そうです、俺たちパーティーであいつだけ半年遅れで『成長限界』に達したんです。元々『成長限界』が遅い人間は希少ジョブを得る可能性があった。そのジョブのせいであいつはあの場から消えたんじゃないですか?」
トーリは自分たちが出した結論を宮廷魔道士に伝える。
「おそらく、それはないかと。我々、宮廷魔道士も希少ジョブが扱えるスキルや魔法について調べ尽くしました。中には『仲間の下に合流する魔法』なんてものもあり、それを使ったのではないかと推測が立ちますが、ジョブを得たばかりの人間がすぐに扱える魔法でもなければ、仲間であるあなた方は後方に待機していた」
つまり、この魔法で消えたというのは否定される。
「だったら、どうしてっ! 私たちはずっとライアス君を見ていましたっ! 本当に瞬きするほどの間に消えてしまったんです! それまでの間、彼は呪文の詠唱はおろか、スキルを使う動きもしていません! ただ、モノリスに触れていただけですっ!」
メアリーが当時の状況を繰り返し伝える。
「我が国では今回が初めてになりますが、他国に確認したところ、この1000年で似たような失踪が3回記録されていました」
「それって……ライアス以外にも犠牲者がいたってこと?」
キャロの問いかけに宮廷魔道士は頷く。
「いずれも目撃者がおりましたが、今回と同じようにモノリスでクラスチェンジをしていた際に消えてしまったということです」
「つまり……クラスチェンジの際に得られるジョブの中に、本人を強制的に連れ去ってしまうものがある?」
トーリの答えはこの場の全員にとっておそろしいものだった。
これまで、世界中の人間がモノリスを利用し、便利に使ってきたのだが、そのような話が広まると、誰も安心してモノリスを使えなくなる。
「言うまでもありませんが、モノリスはかつて反映した文明が残したもので、国や生活を支えています。使わないようにするという選択肢はあり得ません」
「ライアスがいなくなったんですよ? 他に犠牲が出るのを待つつもりですか?」
国としても苦渋の選択になる。これまで数人の失踪がありながら、その情報が民衆に広まっていないのは、時間が経つにつてれ風化したというのもあるが、それだけモノリスが便利だからだ。
「それじゃあ、ライアス君がどこに行ってしまったのか、結局わからないということですか?」
メアリーは胸元で両手を組むとギュッと拳を握る。
「その件についてですが、他国にはない情報が一つあります」
皆がその情報に注目する。
「実は、今から100年前、我が国の王族の一人が、公式行事でクラスチェンジをおこなうためモノリスに立ったことがございます。知っての通り、王族がクラスチェンジをおこなう際、見物人は離れて行ないますが、後世に記録を残すため少数の人間が立ち会い、一緒に確認することになっています」
王族は『成長限界』をむかえると一人前と認められ、そのクラスチェンジは国を上げての祭りとなる。
「実はその100年前のクラスチェンジの時、異変が起きていたのです」
「それは……どんな?」
ゴクリと喉を鳴らす。
「普段出るはずのメッセージとはまったく異なるメッセージが出たのですよ」
「モノリスにでたそのメッセージとは?」
皆が黙り込み、宮廷魔道士の言葉に注目する。
「その記録にはこうあります『『成長限界』の確認をしました。ユグドラシルへの転移を行いますがよろしいですか?』と……」
その場の全員が息を呑むのだった。
4
あなたにおすすめの小説
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる