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6話 屋上

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 屋上に来てしまった。ベンチに座って待っていた。一瞬、俺の顔を見てホッとしていたように見えたのは俺だけだろうか?

 っても前髪で目が隠れているからあくまで雰囲気だがな!綺麗に整えられたショートボブのてっぺんから出たアホ毛がゆらゆらしてる……おもろいな……

「来てくれてありがとう。昼ごはんでも食べながら話そう」
「そうですね」

 食べながら話すことになった。早速、購買のパンをかじる。

 いや、クリームパンうめー。いつも通りの味がする。でも、いつもと食う場所が違うと味が違う気がする。

「じゃあ、早速本題に入る」
「はい」
「これ……読んでるの?」
「ん?」

 それは今朝読んでいた本だった。一週間前、新刊として売られていた。とても面白い本である。というか、神作である。ネット上でもかなりの人気があり、即重版になるほどだ。なんで日野さんが?疑問に思ったが押し殺して質問に答えることにする。

「はい、読んでますよ?」
「どうだった?」

 まだ読んでる途中なんだが……途中までの感想でいいのかな?別にいいや。

「途中までですがとても面白いと思いました。早く帰って続きが読みたいです。日野さんも読まれるのですか?」
「うん。読むよ……でも……」

 歯切れが悪いような?少し待とうか。

「ど、読者の声が聞いてみたいなって思って」
「ゑ?」

 な、なんて言った?すごいことを聞いた気がする。読者の声が聞きたい?いやいや作者様がこんなに近くにいるなんてヤバすぎる。

「さ、作者様でございましょうか?」
「そうだけど?」
「こんなに身近にいるんだ……」

 いるとは思ってなかった。ほんとに神様かな?夢じゃないよな。すごく凄い嬉しい。なんつーか会えて嬉しい。

「まぁ、普段はただのヲタクだけどね」
「へぇ~そうなんですね」
「あ、敬語はいいよ。堅苦しいの苦手だから」
「分かり……わかった」
「それで?どうだったかな?思ったまま言ってくれたら嬉しいかな」
「そうだな……最後まで読んでからでいいか?」
「いいよ。断る理由なんてないし。てか、その方が嬉しい。また一緒に食べてくれると嬉しいな」
「いいぞ。昼休憩はいつも優希としかいないからな」
「ありがと。じゃあ、次は木曜日でいいかな?」
「わかった」

 俺は屋上をあとにした。その時にドアの隙間からこちらを見ていた二対四つの目には気づかなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 教室に帰ったら優希が待ち構えていた。そんなことせんでもいいのに。

「何の話だったんだ?」
「ラノベについてだった」
「ほんとか?」
「ほんとだぞ」
「ふーん」

 ほんとだもん!ラノベについて話しただけだもん!やましいことなんてない!ん?誰に対してやましいことはないんだ?まぁ、いいや。考えるだけ無駄さ。

「ほら、もうすぐ五時間目だぞ戻れ戻れしっし」
「はいはい。わかりましたよ」

 そう言って優希は戻っていった。俺は次の授業の準備をせずに寝ることにした。

『あと五分で完全下校時間です。校内にいる生徒は速やかに下校しましょう』
「もうこんな時間か……帰るか……」

 ちょっと寝すぎたようだ。まさか五、六時間目ぶっ続けで寝るとは思わなかった。まぁ、仕方ないと言ったら仕方ないのだが……

「いつまで寝てるんですか……」

 呆れたような声が上から降ってくる。見なくても分かる。紗霧さんだ。

「昨日寝てないから授業中をまともに受けることが出来ないのですよ…….そろそろちゃんと寝た方がいいですよ?」

 心配そうに言う紗霧さん。こいつ、心配そうな顔まで様になってやがる。にしてもこいつが学校で話しかけてくるなんて珍しいな。

「ぼーっとしてないで早く帰りますよ。早く準備してください。準備、手伝いましょうか?」

 え、誰こいつ?こんなに優しい時があるのか。意外すぎる……凄く女神に見える。

「じ~っと見ないでください。なにか顔についてるのですか?」
 
 少し赤くなりながら紗霧さんは俺に聞く。残念ながらその顔には無駄なものなどなく、可愛い、眉毛と目と鼻と口しかついてない。

「早くしてください。あと五分の放送が聞こえなかったのですか?頭に加えて耳も悪くなったのですか?」
「はいはい、さっさと帰りましょ」

 動き始めた俺を見つめて紗霧さんは満足そうにしている。じーっと見られることは思いのほか恥ずかしいことが分かった。

「終わった。帰ろうか」
「はい」

 俺たちは校内からギリギリの時間で外に出た。
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