澄み透る渡りの世で

秋赤音

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愛欲の果てに

4.離

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できた子供を生んで孤児院へ渡すのは当たり前、の売り人の世界。
何人もの女と遊び、時には孕ませたこともあるが、代わりに契約金をそれなりの金額にしている。
ある日、薬売りの友人は言った。
「面白い条件で身を売る女がいる」と。
契約条件は、「挿入は許すがキスはしない。必ず避妊する」こと。
淫乱乙女と評判の売り人に会いに行ったのは、好奇心。
一度きりの遊びだと、思っていた。


アンナに自分が管理する宿を与え、閉じこめるように守っている。
組み敷く裸のアンナは、成人しているのに少女らしい無垢な笑みを浮かべている。
しかし、手からこぼれそうになる胸を指先でなぞれば変わる。
この少女から女に移り変わる瞬間が、たまらない。
そうさせているのが自分だというのも、楽しみの一つだ。
自分しかアンナを抱けないように周囲を牽制して叶った一人占め。

「ゼア。今日も、たくさん癒されてくださいね」

「アンナ。自分のために、可憐に淫らに啼いて咲いてくれ」

「はい…っ」

私にとってアンナは、最高の愛玩人形だった。
暮らすための身売りと、快楽を得たい自分は利害が合っていた。
シミ一つない白い肌に赤い痕を散らし、だいたいの男が好む平凡な体を自分の欲望で濡らす。
最高だった。
しかし、夢の日々は形を変え始めた。
エリザ。
初めて出会う売り方の女性だった。
キスで男を虜にすると評判の、売り人では珍しい処女。
体つきは、噂通りに男が描く理想の砂時計だった。
美しい凹凸の曲線の体で一時の快楽を売る淫乱処女。
フィーネに保護されてからは、売り場から姿を消した噂の人。
名前しか知らなかったが、アンナよりも熟れた体と評判が気になり誘いにのった。
始めは女に身を任せてみたが、評判は本当だった。
アンナとキスをしない行為に慣れていた自分は、未知だった快楽を知った。
唇の触れ合いが温かく熱いものだと分かると、さらにほしくなった。
早漏と馬鹿にされてもよかった。
欲望を射精し垂れ流しながら、エリザと夢中でキスをした。
「精がもったいない」と手からこぼれる胸に包まれると、新たな快楽が自分を支配した。
アンナとはしたことがない触れ合い方だったが、大きく柔い胸の感触は素晴らしい。
最高の体験をくれたエリザには、自分が知る限りの全てを尽くして快楽のある初体験を贈った。
狭い女のナカは、繋がるほど己の欲望に合うよう育って新鮮だった。

それからは、アンナとの交わりが物足りない行為になっていった。
どれだけ射精しても、求める温もりが足りない。
帰る途中でエリザを見つけると、心が躍った。
迷わず声をかけ、高い額で一夜を買う。
しだいに、アンナを抱いた後でエリザを探して抱き潰すのが習慣になっていった。
ついにアンナとの行為に魅力を感じなくなり、場所は与え守ったままだが会うことは無くなった。

もう、エリザの温もりが無いと生きていけない。
自分の傍にだけいるようにしたい。
だから、買った。
一夜ではなく、エリザを。
嫌がるフィーネを説き伏せたのは、フィーネの夫だった。

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