操り人形は幸せを見つける

秋赤音

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【第一章】祈り

39.天使たちの戯れと、神の思惑

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魔法試験が終わり、学園での学習が順調に進んで、
季節は若い葉の青さが深まり爽やかな風が吹いている。
そんな休日のある日。
エルナたちは、神殿の水鏡から企み顔の神も見守る中、庭に集まりとある準備をしていた。

「お約束通り、今日はお人形遊びですわ」
「はい。お人形遊びです」

四人で分担して道具を決めた位置に置きながら談笑する。
魔力の消費量を考えて用意された三つの一級品が、作られた空間の中に置かれた。
魔法試験で使われた鉢よりも凝った細工のある鉢と花栽培用に選りすぐられた土。
そして、今回だけ特別に用意された三つの宝石。
鮮やかな赤色のルビーと薄紅色のローズクォーツと紫色のアメジストが、
三日月の紋が削り描かれている黒曜石の箱に入っている。

「エル、私もご一緒してよろしいのですか?」
「ラウは特別です。一花もいいと言いました。
休日をふぃ…フィアンセ、と過ごすだけかしら」

フレイは、関係性の名前が幼馴染から婚約者に変わってそろそろ一年がくる二人をみた。
ラウスとエルナの胸元には、婚約の証に作った揃いのペンダントがあった。
薄紅と薄茶が混じる石を、白金の金属の雫が縁どっている。
自分もいつか、と思うこともあったけれど。
立場を考えると叶わないのは明白だから、身勝手な思いに蓋をした。
家や立場を思えば、親が決めた相手には逆らえないので覚悟している。
だから、偶然にも目が届く場所に姿がある、今という儚い時間を楽しむことにしている。

「エルナ様、顔真っ赤です」
「フレイ!」
「失礼しました。一花様、遊ぶ前にティータイムです。
よければ、あのお約束を今からしますか?」
「はい」

初めて見た姿から想像したより綺麗になった一花様が、
憂いな目でエルナ様たちを見ていた。
名前を呼ばれて俺を見た一花様は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
そのあと、それが気のせいだと思うくらい普段通りに返事をしている。

「一花、どこに行くの?」
「あ…あの、フレイ様に、紅茶の入れ方を教えていただいてよろしいでしょうか?
入れ方が知りたいと相談したら、フレイ様が、俺でよければって」
「そうでしたの。楽しみにしています」

一花様はエルナ様に声をかけられ、不安そうに従者の主人に許可をとるようなことをしている。
考えれば、本来行う王女の護衛を離れるのだから当然のことだし、俺から言ってもよかったと思う。
生徒会に一花様が入ってからは、彼女といる時間の方が長いので、失念していた。
文化交流もかねて真剣に学ぶ彼女は、住んでいる者が当たり前だと思う小さなことにも関心をよせている。
修学のため休日に彼女が一人で外出しているとき、賊が危害を加えようとしていた一件があった。
エルナ様の指示で姿を消し護衛をしていたので傷の一つなく済んだが、
その後は正式に俺が護衛することになり、今に至る。

「ありがとうございます」
『フレイ!紅茶の入れ方くらい私でも知っています』
『申し訳ありません。せっかく会えるラウスと、ゆっくり話ができると思いまして』
『…ありがとう』

一花様に花が綻ぶような笑顔を向けながら、思念では機会を奪った俺に文句を言うエルナ様。
自分の気持ちをもう一つの心からの言葉で隠した。
そして、すべてを分かったような声が耳に届く。

「では。一花様、いきますよー」
「はい」

エルナ様の近くにあるウォルの気配を確認して、一花様とその場を離れた。

二人が去った後。
エルナたちは、二人きりの談笑を楽しんでいたら、王妃が従者を連れて現れた。
王妃専属の従者のルシェ・フェリルは、国王専属の従者の姉と共に国の防衛に関わっている。
男性はもちろん同性からは憧れと尊敬の眼差しを集める人だが、
エルナにとってはただの良き友人。
陶器肌の純白の腰まで伸びるクセのない髪と琥珀色の目をした眼鏡美人の細く長い指が、
上質な紐で留められた筒になっている紙を持っている。

「エルナ王女、多忙な国王の代理で、ご神託を伝えにきました。
ここにフレイと飛鳥一花様はいらっしゃる?」
「もうすぐ戻ると思います。あ、おかえりなさい」

転移魔法で戻った二人は、王妃から、
ご神託という拒否権のない婚約を言い渡され呆然としていた。
王妃は、棒立ちしている本人たちに苦笑いしながら、従者に紙を見せるよう指示する。
従者が紐を解くと、筒が走るように回り、紙の面に書かれた文字が人の目に映される。

「『異国の紅乙女と赤紫の騎士が結ばれし時、悠久の光が訪れる』
ご神託があったのは二週間ほど前です。
それから赤紫の騎士を探しましたが、該当者はフレイだけでした。
すでにフレイのご両親とアスカ国の王族は了承しています。
婚約の儀を近日中に行い、成婚の儀は学園を卒業して行います。
要件は以上です。失礼します」

王妃は突然の婚約話のいきさつを淡々と説明し、綺麗な礼をして従者と消えた。

「突然でしたわね。まずは、お二人で話す時間が必要だと思います」
「そうさせていただきます。話が終わったら、一花様を部屋まで送ります」
「一花、何かあれば頼ってね。少しは力になれると思うから」
「ありがとう」

困惑するフレイと一花を見送ったエルナとラウスは、目を合わせて同時に言葉を発する。

「「お祝いの品を作りましょう」」
「材料ならそこにあるわ」
「そうですね。どんなものにしますか?」

庭に用意された品々を眺め、夕食の時間に呼ばれるまで作業は続いた。
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