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番外「甘毒と我儘」
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夕食を食べる予定だった時間は、薄暗い自室のベッドの上で過ぎた。
腰が砕けた彼女を腕に抱き、飢え感を満たした証として髪を撫でた。
甘えるように胸へ頬を摺り寄せる彼女の肩をひき寄せると、彼女から鈴の音のような笑みがこぼれた。
「無視という行為は、疲れる」
僕が人生で初めて無視をする経験した結果、二度としないと心に決めた。
一日の間という制限を守らなかったのは正しいと思う。
半日の時点で挫けてしまったのだから、やろうとしても理想の無視にはならなかっただろう。
「そう、ですね。
無視されるのも、疲れます」
「疲れたのか」
「はい。今日はなかったですが、返事がほしい用事があると考えたら…あと、少し」
含みがあるような途切れ方をした言葉。
続きが聞きたくて、うながすように頬を撫でる。
「少し?」
「…寂しくて、困りました」
顔を隠すように俯いた彼女が呟いた言葉に驚いた。
寂しい。
知っている理想世界と、自分に置き換えた想像で考える。
突然に相手の態度と対応が変わる戸惑いと、あった会話と温度の消失。
確かに、辛い。
特別な目的と同意のない無視は、互いを痛め合うだけの行為になるだけかもしれない。
「二度としないから、安心して」
「はい」
楽しそうな音のする笑みをこぼした彼女の額にキスをして、腕を解く。
「夕食を食べよう」
いつからか「気が向いたときに」と頻繁に顔を合わせるようになった、いつもの夕食だった。
互いに食べたいものを、同じ場所で食べることが多い。
それでも、なぜか食事の美味しさが変わるのだから不思議だった。
無視と逆の内容を書き綴った内容を忘れたくらい過ぎた後日。
「もっと甘いやつを書いても良い」と遠回しな希望が担当者から来た。
事の始まりは、担当者の気まぐれだった。
明日からは貴重な週末だからと、自室で楽しく過ごすために策をめぐらせていた月夜。
聞きたくない呼び出し音が鳴り、仕方なく出た。
喧嘩をした恋人が仲直りするお題を一方的に言って音声連絡を切ったことが、悪夢の始まり。
まず、よくある望ましい喧嘩の方法と仲直りの展開を調べた。
そして、自分が見聞きした事柄も思い出す。
より正確に知るためには実験がしたかった。
幸いにも相手はいるから、現状でできる方法を選ぶだけだった。
できるだけ大げさではなく、簡単で、怪我をしないような…と、行きついたのは無視。
さらに、無視を自分なりに考えた。
相手を認識した前提で行う、対話を拒絶する行動だと結論を出し、考える。
「自分の主観では、無視をしたことがない。
されたこともない。
初めて行うから、間違いがあれば正してほしい。
時間制限は本日中のみとする」
興味がない全ては、あってもないようなものだ。
道を歩いていても、見えている景色の誰かまでは気にしないから認識しない。
相手が無視されたと思ったとしても、わからない。
相手が無視をしていても、わからない。
約束をした相手なら別だが、偶然に居合わせた場合は気づかないことが多い。
「はい。
一度くらいは無視をしたことも、されたこともあるのでお役に立てると思います」
困った表情でうなずいた彼女を抱きしめて、そっと離す。
このときは、簡単なことだと思っていた。
朝食後。
目が合って、いつものように笑みを返すと彼女に叱られた。
辛い。
彼女から視線を感じても、返すことができない。
いつもなら、目を合わせると花のように微笑む彼女がいるのに。
自分が体験して世に語られてきた理想は、誰の思想の一つであると知ってしまった。
そして、僕自身にも少しは当てはまる事柄があることも、すでに知っている。
自室と居間を行き来ししながら、時にすれ違う彼女の背を見つめた。
いつもなら気づいてくれる彼女の目を見ないようにするのは、とても難しい。
いつものように用事がある合図を出す彼女だが、あえて声をかけないように自室に戻るだけ。
すぐにでも、彼女の声が聞きたい。
気晴らしに執筆を済ませる。
幸いにも没頭すれば現実は忘れられた。
辛い反動で書く理想物語は、どんな景色に見えるだろうか。
腰が砕けた彼女を腕に抱き、飢え感を満たした証として髪を撫でた。
甘えるように胸へ頬を摺り寄せる彼女の肩をひき寄せると、彼女から鈴の音のような笑みがこぼれた。
「無視という行為は、疲れる」
僕が人生で初めて無視をする経験した結果、二度としないと心に決めた。
一日の間という制限を守らなかったのは正しいと思う。
半日の時点で挫けてしまったのだから、やろうとしても理想の無視にはならなかっただろう。
「そう、ですね。
無視されるのも、疲れます」
「疲れたのか」
「はい。今日はなかったですが、返事がほしい用事があると考えたら…あと、少し」
含みがあるような途切れ方をした言葉。
続きが聞きたくて、うながすように頬を撫でる。
「少し?」
「…寂しくて、困りました」
顔を隠すように俯いた彼女が呟いた言葉に驚いた。
寂しい。
知っている理想世界と、自分に置き換えた想像で考える。
突然に相手の態度と対応が変わる戸惑いと、あった会話と温度の消失。
確かに、辛い。
特別な目的と同意のない無視は、互いを痛め合うだけの行為になるだけかもしれない。
「二度としないから、安心して」
「はい」
楽しそうな音のする笑みをこぼした彼女の額にキスをして、腕を解く。
「夕食を食べよう」
いつからか「気が向いたときに」と頻繁に顔を合わせるようになった、いつもの夕食だった。
互いに食べたいものを、同じ場所で食べることが多い。
それでも、なぜか食事の美味しさが変わるのだから不思議だった。
無視と逆の内容を書き綴った内容を忘れたくらい過ぎた後日。
「もっと甘いやつを書いても良い」と遠回しな希望が担当者から来た。
事の始まりは、担当者の気まぐれだった。
明日からは貴重な週末だからと、自室で楽しく過ごすために策をめぐらせていた月夜。
聞きたくない呼び出し音が鳴り、仕方なく出た。
喧嘩をした恋人が仲直りするお題を一方的に言って音声連絡を切ったことが、悪夢の始まり。
まず、よくある望ましい喧嘩の方法と仲直りの展開を調べた。
そして、自分が見聞きした事柄も思い出す。
より正確に知るためには実験がしたかった。
幸いにも相手はいるから、現状でできる方法を選ぶだけだった。
できるだけ大げさではなく、簡単で、怪我をしないような…と、行きついたのは無視。
さらに、無視を自分なりに考えた。
相手を認識した前提で行う、対話を拒絶する行動だと結論を出し、考える。
「自分の主観では、無視をしたことがない。
されたこともない。
初めて行うから、間違いがあれば正してほしい。
時間制限は本日中のみとする」
興味がない全ては、あってもないようなものだ。
道を歩いていても、見えている景色の誰かまでは気にしないから認識しない。
相手が無視されたと思ったとしても、わからない。
相手が無視をしていても、わからない。
約束をした相手なら別だが、偶然に居合わせた場合は気づかないことが多い。
「はい。
一度くらいは無視をしたことも、されたこともあるのでお役に立てると思います」
困った表情でうなずいた彼女を抱きしめて、そっと離す。
このときは、簡単なことだと思っていた。
朝食後。
目が合って、いつものように笑みを返すと彼女に叱られた。
辛い。
彼女から視線を感じても、返すことができない。
いつもなら、目を合わせると花のように微笑む彼女がいるのに。
自分が体験して世に語られてきた理想は、誰の思想の一つであると知ってしまった。
そして、僕自身にも少しは当てはまる事柄があることも、すでに知っている。
自室と居間を行き来ししながら、時にすれ違う彼女の背を見つめた。
いつもなら気づいてくれる彼女の目を見ないようにするのは、とても難しい。
いつものように用事がある合図を出す彼女だが、あえて声をかけないように自室に戻るだけ。
すぐにでも、彼女の声が聞きたい。
気晴らしに執筆を済ませる。
幸いにも没頭すれば現実は忘れられた。
辛い反動で書く理想物語は、どんな景色に見えるだろうか。
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