願いと欲望

秋赤音

文字の大きさ
上 下
1 / 68

0.探求の末に

しおりを挟む
人間世界の裏側に広がる場所。
魔界と呼ばれている暗闇は、大きく波立っていた。
白い光をまとう影は、人間世界を魔界を頻繁に行き来している。

「人間は綻んだ封印に気づいていないようだな」

「はい。完全に封印できていると考えているようです」

「我らを天使と呼ぶ者もいるようです」

天井の高い部屋に三つの小さな笑いが響く。

「面白いよな。
我ら淫魔の餌になっているだけとは思わないらしい」

「いいえ。
成人しても天使を見れば、悪魔付きと呼ぶそうです」

「子供にしか見えない清らかな導き、だそうです」

「…そうか、そうか。あははは…あーあ、お腹痛い」

「エンリ様、笑いすぎです」

美しい白銀と白金の長い髪が小さく揺れている。

「そういうリーリアも笑っています」

「そうは言いますが、リーシャだって同じです」

「あーあ…はは、はぁ…そろそろ、我らも魂を食らうか?」

笑うことをやめた白銀は、揶揄うような声で告げた。

「いいですね。より強い個体が生まれそうです」

「楽しそうですね。民によって個体の強さは向上していますし」

同じように揶揄うような声で応えた白金たちは賛同する。

「ついでに人間の一番を目指してみようか」

「一番…王宮ですか?」

「そうだ」

穏やかに微笑みを浮かべる白銀は、玉座から二人の配下に視線を向ける。

「でしたら、姫と王子が良いかもしれません。
僕、偵察に行きます」

「リーシャ、甘いですね。
いきなり近づけるわけないです。
まずは、巫女や聖女がよろしいかと私は考えます」

「そうさな。まずは巫女と聖女をいただこうか。
二人が好きな方を食らっていいが、必ず我がものにせよ」

「「はい」」

三つの赤い瞳は視線を交わし、白金は場から消えた。

「さて、どうする。人間よ」

誰かに向かって呟いた白銀は小さく笑った。
しおりを挟む

処理中です...