天は地に夢をみる

秋赤音

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神、人里へ

5.家族

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「少し時間が空きそうだから、また入り浸るかもしれない」

突然現れた自分を、いつものように迎えたニコルは、暗くなった空をみた。

「わかった。今日はどうする?」

アスカ国の神殿を思い出す。
今戻れば、水鏡には、どす黒い魂の王子に呼ばれている巫女の澪がいる。
頑張る澪を見て少し前向きにはなったが、
相変わらず僕の前で苦しそうに笑う”お父様”。
何もできない僕は、ただ見ていることしかできないのが辛かった。

「今日、は…泊っていい?」
「もちろん、いいよ。ここは、リアンの家でもあるのだから」
「家?」

不思議だった。人間の言う家は、安らぎの場だと知っている。
しかし、自分は「神」の人形。
ニコルに話していないだけで、自分にとっての家とは、神の神殿。
ただし、あれは快適な牢獄のような気分だった。
無力な自分を知れば知るほど、神聖な場所は広い檻でしかない。
呆然とする自分をみながら、ニコルは言葉を続ける。

「私が仲間契約してるのリアンだけだし、もう家族みたいな感じだと思ってる」
「家族…うん、ありがとう」

その言葉は、温かい響きをもっていた。
照れくさそうに、でも、まっすぐに自分を見ながら言うニコル。
初めて向けられる感情に戸惑う。
頭を撫でられたとき、水が頬を流れていることに気がつく。
無理やり水を止めて、いつものようにニコルを鍛錬に誘う。

「久しぶりだな」
「会わない間も一人で続けていたからね」

さらに上達しているニコルを楽しみにしながら、
再び落ちかける水を隠すために先に庭へ駆ける。

それから一年程は、「神」は再び本来の仕事と「分身」を操る日々。
「リアン」は、ニコルと過ごす毎日が濃い日々を過ごす。


しかし、それも長くは続かなかった。
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