天は地に夢をみる

秋赤音

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孤独の温かさ

1.何も信じられない

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私は、幸か不幸か、人並み以上の魔力を持っている。
物心つく頃にはすでに巫女になるための勉強をしていた。

「これで我が家も安泰ね」
「そうだな。澪には頑張ってもらわないと」
「ご先祖様にも良い報告がしたいもんだな」

両親や祖父母は、良いことがあれば気味が悪い程に私を褒めた。
少しでも悪いところがあれば、家族が納得いくまで練習と悪態が続く。
”できて当たり前”。
それは、雪代 澪が生きていくために必要な最低限の条件。



私はいつも、誰もいない静かな神殿で一人、魔法の訓練をしている。
ヴァルド家が経営する魔法学校はあったが、両親は通うことを許さなかった。
よそ者の作ったところは信用できない、という理由だった。
それも仕方のないことだと知っていたので、黙って自己流の訓練をしている。

しかし、ある日変化が起きた。
いつも一人のはずの、その場所に、一人の男性がいた。
明らかにアスカの者とは思えない外見のその人も、
魔法の練習をしている様子。
そして、思わず、声をかけてしまった。

「あの…失礼ですが、どちら様ですか?」
「…あ、すみません。すぐに移動しますから。
私は、アレンと言います」

目の色が薄い灰色で、白髪に光の具合で色が変わって見える不思議な色。
穏やかな声で話すその人を、綺麗で背が高い人だな、と思った。

「いえ。あの、ですね。よろしければ、一緒に練習しませんか?」
「…私で、よければ、ぜひご一緒させてください」

それからは、特別時間を言い合うことはないが、会うことが増えていく。
しだいに、二人で練習するのが当たり前のようになっていた。
両親は、巫女候補にあがっている身で異性と会うことに難色を示していた。
しかし、魔法の扱い方が格段に上達していると判断したらしい。
何か思惑を思わせる愛想のいい顔で、敷居から見送るようになった。
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