暗幕の向こう側

秋赤音

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遠回りの幸せ

2.戸惑い

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生真面目だと思う程の看病に心が揺れた。
放置されて自称友人と食事へ行くと思っていたのに。
毎日傍にいてくれて、心配するみたいに声をかけてくるから。
恋人の気をひきたい爽詩を手伝っていたのが馬鹿みたいに思えてくる。
勘違いをあえて放置してまで雅斗の気をひこうとしていたのが、
本当に馬鹿馬鹿しい。
爽詩に連絡しようとすれば、
『しばらく会えない』と同じ文字が送られていた。
自分から沸き起こる感情だけで
こんな幸せを噛みしめられると思わなかった。
今だけは、私だけを見ていてくれている気がして。
少しだけ不調に感謝した。

「おはよう。香煉」

「お、はよう。雅斗」

聞きなれた声に目を開けると、
起き上がる間もなく覆いかぶさってくる雅斗。
その視線に気怠い体は昨夜の名残を感じて疼く。
久しぶりの行為は、今までで最高だと思うくらい気持ちよかった。
私だけを見ていると思うと、嬉しくて、どうしようもなく泣きたくなる。
複数の恋人を許し合い過ごしている矛盾も、甘い笑顔で答えてくれた。

「朝ごはん、は…っ?」

「あとで」

私を見つめて笑みを浮かべる雅斗の指先は、
すでに横腹をなぞっている。
意識するほどに伝わる感覚が理性を焼いた。
早く、ほしい。

「雅斗…」

その首筋に腕を巻きつけ、唇を奪う。
柔く応えた雅斗は、
私をそっとベッドへ押しつけて貪るような口づけをくれた。
舌と唇の愛撫で何度かお腹の奥の熱が弾ける。
病み上がりのせいで敏感なのか、
以前を考えるとおかしいくらいイっている。
まだ受け入れてもいないのに、
昨晩以上の快楽にこれ以上が怖くなる。

「香煉。もう、おねだりはしてくれなのか?」

「雅斗、なにを言って?」

「ほら。
何度もナカで出してほしいと、ねだっていただろう?」

その言葉に、不調になる前を思い出す。
しかし、同じようにねだるなんて無理だ。
あの時は最中は私だけを見てくれるから嬉しくて、
埋まらない寂しさからいくらでも受け入れられた。
今は、違う。
行動ごと私だけの恋人でいる雅斗に満たされている今は。

「もう、無理…あんなにたくさん…っっぁっ!!…んんっ!」

考えただけでイってしまった。
とまらない。
とめられない。
早く、ナカを雅斗で満たされたい。

「潮を吹くくらい期待してるんだな。
今日もたくさん出すから、受け止めろよ」

「んっ、雅斗、や、ぁ、っ、今、イって…ん、んぁああ!」

貫かれた瞬間、意識が飛んだ。
浅くまで抜かれた感覚で戻るが、
奥を突かれるたびに散る理性。
熱を追いかければ聞こえる激しい水音。

「は…っ、我慢、してんのに。全部、もっていく、つもりか?」

「雅斗、まさ、と…っ、私、に全部ちょうだい…っ」

「…っ!香煉」

名を呼ばれ、ナカに熱いものが注がれた。
心地よい親しみのある感覚に身を預けた。


目が覚めると、雅斗が隣で眠っていた。
動こうとするが、下肢から聞こえた水音で状態を理解した。
擦れたところから新たな熱が生まれる。

「んん…っ、ぁ…っ、あ…っ!」

気づけば腰を振り、イっていた。
恥ずかしくなり起きていないことを願って雅斗を見るが、
願いは叶わず。

「今さら、恥ずかしがることか?」

「雅斗…っ」

ぬきながら離れた雅斗。
ぬかれた瞬間に、またイった。
あいたナカからは、とろりと水が伝う。

「風呂からあがったら出かけるから、支度しろ」

ベッドから出る前に頬へ口づけ出ていった雅斗。
まるで愛し合う恋人同士のようだ。
言われた通りに支度をすると、連れられたのは映画館。
一緒に見る作品を選び、楽しんだ。
遅い昼食を終えると、手をつなぎながら買い物をする。
ベッドで過ごすことが多かったので、よくあるデートが新鮮だ。
今さらなことに戸惑うが、
目が合うと向けられる優しい視線で質問する意欲は消える。
このまま時間が過ぎればいい、と強く願った。

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