影に鳴く

秋赤音

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願う乙女は永遠と咲く

出会い

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※BLです。


「リンさんにお願いがあります。
魔法を教えてください」

仕事を始めて、初めての依頼だった。
魔法はそれなりに使えるが、教えたことはない。
判断に困っていると、懇願する目と視線が合った。
瞬間、身体中の魔力が乱れる。
この人がほしいと、思った。

「目的は」

「好きな人が、困っていて…俺が教えようと思います」

まっすぐな瞳が俺を見る。
高揚する感情を抑えながら、考え、思いつく。

「わかった。対価は、あなた自身の時間を30日の間。
俺の好きなようにさせてもらうが、いいのか?」

「はい!お願いします」

嬉しそうにうなずき、用意した契約書に互いの血印を押す。

「では…今日、この後の予定は?」

「空いてます」

「さっそく教えるが、良いか?名前は?
時間が惜しいから、俺の家に泊まれ」

「ランです。
一度、荷物を取りに戻っていいですか?」

荷物を取りに行くため、
一度家に帰ったランさんと仕事場で待ち合わせ、一緒に帰る。
三十日だけの同居生活が始まった。
魔法の腕は良く、感覚も冴えていて、早くも三日で習得したCさん。
せっかくなので、ついでに自分の復習も兼ねて、
知ってる魔法を教えることにした。

同居から七日。
仕事の依頼のために公園を歩いていると、
ランさんを見つけた。
連れがいたので声はかけなかった。
親しそうに話ながら魔法を教えていたので、
おそらく想い人だろう。
夕方、家で顔を合わせると、
まとう雰囲気に影が見えた。

「どうした?」

「あ…いえ。終わったなーって。
明日のお披露目が予定通りにできると、嬉しそうでした」

穏やかな微笑みには、やはり影がある。

「よかったな」

「はい。教えてもらったおかげです。
ありがとうございます」

今にも泣きそうな顔は、何かを殺しているように言った。
その何かが知りたくなり、立場を使って聞き出すことにする。

「何をすると言っていた?悪用されては困る」

「お披露目式の参列者へ、最後に贈り物を出すそうです。
会場にある花を使って、魔法で花束を作ると言っていました。
花嫁らしく、可愛いのを…って。
夫になる人も友人で、二人とも幸せそうでした」

「そうか。よかったな」

俺は、ただ淡々と返す。
ランさんは喉に何かかつまったように、口を開閉させた後、
息を吐くと、無理に作った笑顔を張りつけた。

「はい。あ…お風呂、使っていいですか?」

「どうぞ」

「ありがとうございます」

シャワーの水が落ちる音の中に、
呻きをこらえるような音がかすかに聞こえる。
何も聞かないことにして、軽い夕食の支度をする。
ちょうど出来上がった頃、
赤い目をしたランさんが毛先に水滴を残したまま出てくる。

「ランさん。毛先がまだ濡れている」

「え?あ、あ…そうですね。ありがとうございます」

頼りない足元で戻ろうとする腕を掴むと、長椅子に座らせる。

「リンさん?」

「待ってろ」

魔法乾燥機を持ってきて、おとなしく座っているランさんの髪を乾かす。
よく見ると、ほとんど乾いていない。
調子を崩されても困るので、きっちり仕上げる。

「ありがとうございます」

「ああ。食事ができている」

「はい。ありがとうございます」

向かい合って座り、少し冷めた料理を食べる。
一口食べると、瞳から涙を落としながら飲み込んで、
次々に口へ運んでいる。

「焦って食べなくてもいい」

「はい。今日も、美味しいですね」

そう言って、ランさんは笑った。
俺ならこんな風に泣かせないと。
俺が、ランさんを守りたいと、強く思った。

「当然だ。
俺が、ランさんのためだけに作ったんだからな」

「はい」

何に驚くことがあるのか分からないが、
ランさんは目を大きく開けて、わずかに頬が赤くして惚けている。
そして、笑った。
ランさんの表情の変化に、下肢が熱を持ち疼き始める。

「ランさん」

「はい」

「食事の後。手伝ってほしいことが、ある」

「わかりました」

柔らかな笑みでうなずいたランさんに、
ますます体が熱を持つ。
欲望を抑えながら食事を終え、
片付けを後回しにして寝室へ誘った。

「リン、さん。あの…」

ベッドへ座らせると、
ランさんは我慢の限界手前の自身に視線が向いている。

「これも、対価だ。
下だけ脱いでうつ伏せになれ」

「はい」

戸惑いながらも俺に従い、
目の前に傷一つない肌が晒されている。

「一応、聞くが。経験は」

「まだ、ないです。
そういうの、許してもらえなかったので」

「わかった。足を閉じろ」

「はい…っ、ぁ、ぅん、ん、なに…っ」

萎えているランさんのものに触れ、
ゆっくりと反複して擦りながら、情欲を煽る。
しだいに、握っている指先に水気を帯びる昂りを快楽へと導く。

「ん…っ、ぁっ…あ、…リン、さん。どうして…ひっ、ぁ…!」

「我慢、できなくなった」

「え?ぁ…っ、なに、を…っ、俺の、に当たっ…っ」

後ろからランさんの腰をつかむ。
足の内側に自身が触れた瞬間、ランさんの体が跳ねた。
そのまま、ゆっくりと、足の隙間から張りつめている自身をいれる。

「ひ、ゃ…ぁっ、擦れて…る、…ぁっ、あ!リンさんの、熱い…っ」

「は…っ、ぅ…っ、リンさ、んのも熱い、な」

擦れるたびに増すのは交わる水音。
絡まる魔力が心地よい。
ランさんは気持ちよさそうに吐息をこぼしながら、
激しく腰を揺らして高みへとのぼっていく。

「リン、さ…俺、イく…ぅっ、あっ!
あ、んぁ、も…、む、り…ぃあ、ああっ!」

「俺も…っ、……!…っ、…は…っ、ぁ…っ」

無理をかけると思い、
まだ熱をもつ自身を抜こうとすると、
ランさんが引き留めるように足をさらに強く閉じた。

「ぁ…リンさ、ん。俺、まだ…ど、したら、いい…ですか?」

情欲に染まる瞳は惚けていて、少し掠れた声には艶のある。

「もう一度、するか?」

ゆっくりと合わさったままの自身でランさんのを擦ると、
体が大きく跳ねた。
どうやら達したらしい。
そして、誘うように腰を動かして自身を擦り合わせている。

「う、ん…ぁっ!する…っ、して、くださ…ぁ、あ!
きもち、い…リンさ、お、れ、リンさんが、好き、です…んぁあっ!」

「一緒に、イくか」

好きな人がいるはずのランさんの言動に戸惑うが、
自分へ向けられる態度に高揚するのを止めることはできない。

「ん、んっ!一緒、イく…ぅんっ…ぁ、ああ!リンさ、んっ、あぁあっ!!」

同時に出した熱がベッドの布にシミを作る。
ランさんは、
滴り落ちる俺の熱を自身に馴染ませるように緩く擦っている。
ゆっくりと抜くと、名残惜しそうに俺をみた。

「そんなに、いいか」

「はい。とても…っ、また、して、ください」

そう言うと、体から力が抜けた。
倒れないように支えた後、ベッドへ寝かせる。
風呂で湯を汲み、ランさんの体をふいて毛布をかけた。
その後、シャワーを浴びて、隣で眠る。

翌日。
初めて二人の休みが重なった休日。
久しぶりによく眠れたと思いながら目を開けると、
ランさんが俺を眺めていた。
目が合うと顔を真っ赤に染め上げて、目をそらす。
そのままベッドのふちに腰掛けるが、ランさんの状態をみると、
さらに赤くなる顔。
生理現象で大きくなっている昂りに触れる。
すでに硬く、水気をおびて滴り落ちている。

「リンさん、見ないで…っ、俺、は…ぁっ、んっ、リンさ、ん…っ」

辛そうなので手伝おうと手を添えると、
ランさんは俺の手ごと握り、擦り始める。

「イけよ」

「あっ、あんっぁ…っ、イ、く…ぅん…ぁ、ああっ!」

熱い白濁でぬれた手を離すと、ベッドから出る。
扉を閉める直前、
再び聞こえ始めた水音に脈を打つ自身を抑え、
朝食を作る。
作り終えると、寝室へ呼びに行く。
落ち着いている様子のランさんは、色っぽい笑みで返事をして、
俺の後を追うように歩いてきた。
食事は全てを綺麗に食べ、片付けまで手伝ってくれた。

友人との約束の時間が近づいてきて、ふと、思いつく。
人生で初めて、個人的に出かける先へ同行するか誘った。
なんとなく、ランさんなら趣味が合う気がしたから。
予想通り、むしろ予想外なくらい嬉しそうにしていた。
出かける支度をしているランさんは、
純朴な少年のように眩しい笑顔を浮かべていた。

「美味しいですね。景色もいいですし」

目の前に広がる広大な大地を眺めながら、
ランさんは言った。
安らいでいるような柔らかい表情に安堵する。

「だろう」

友人が管理している山にある牧場へ魔法で転移すると、
友人は飛び込んできそうな勢いで走ってきた。
ランさんを抱えて左にずれる。
抱えたランさんをすぐにおろして、背を向ける。
避けたと思ったら、友人が急停止して舞う埃と、
高速で伸びてくる腕と拳。
それを素手で受けとめると、ニッと口角をあげて笑った。
そして驚いているランさんを見て、友人も驚いた。
驚かせたお詫びに…と、ランさんに渡したのはアイスクリーム。
俺は代金を払って買った。

「ランさん。この人は友人だ。
今日は前から、約束していてな」

「そうそう。
牧場ができたから遊びに来いーってな!
リン、一緒に石拾いしてくれたりしてさ」

楽しそうに話す友人に、昔話が始まる気配がする。
それを断つため、あえて話を変えることにした。

「経営者がここにいていいのか?」

「特別なお客様は、俺が直々に案内しようと思ってさ。
まさか、お連れ様がいるとは思わなかったけど」

ランさんを見たあと、からかうような目で俺を見る。
知らせずに来たのが、
気に障ったのかもしれない。
まあ、当然だろう。

「今朝、決まったんだ。悪かった。次は知らせる」

「いや、飛び入り参加は大歓迎だ!
次がくる日を楽しみにしている。
ところで、ランさん。馬に乗ったことはある?」

「いいえ」

「リン、教えてやれよ。上手いだろ」

「経営者が直々に案内すると言っただろ。
お前も乗馬と武術は上手い。
それに、今日の俺は客だ」

「えー。先生は、上手い方がいいと思うがな。
ね、ランさん?」

「え?あ、そう…ですね。
リンさんは、教えるのが上手いので、覚えやすいです」

ランさんがそういうと、友人がランさんに一歩近づく。
そして、俺から隠すように目の前に立った。

「え?何か教わってるの?」

「はい。魔法を教えてもらってます。
お願いが終わった後も、腕が良いからと色々…とても楽しいです」

「リンが魔法を教えて…って、お願い?
しかも、聞いてもらったのか?」

「はい。条件つきですけど。とても助かりました」

背中越しに会話を聞いていると、
友人がやっとランさんを解放する。
ランさんの姿が見えると安心した。
すると、俺を見て驚いている。
その様子に首をかしげるランさん。

「リン…頭打ったか?
誰が言っても、
親友の俺が何をするって言っても教えてくれなかったのに」

「あのときは…無理だった」

「って、ことは…今ならいいんだな?な?先生」

友人の表情はニヤニヤとした笑みに変わり、
完全にやる気になっている。
こうなると止められないと知っているので、
俺は抗うことを諦めた。

「わーかった。分かったから。
ランさんのついでだ。
あと、俺に武術を教えろ。対価だ」

「やった!武術でいいなら任せろ!
ランさん、ありがとう。おかげで長年の夢が叶う!」

俺は、ランさんに飛びつく勢いで近づこうとする友人の前に立つ。

「まだ教えてないだろ」

「そうだった。まずは、乗馬だな。
ランさん、やっぱり先生はリンに頼むよ。
書類がたまってるの思い出した。ってことで、リン」

「ああ。案内したら仕事に戻れ」

案内された先は友人のデスクが近く、
山のようにある書類が窓ごしに見えた。
友人は部屋に入ると、
俺たちの様子を見ながら書類の山に埋もれていた。
そろそろ止めようと思い、
友人に声をかけようとすると紙の山から脱してこちらを見る穏やかな目と合った。

「お疲れ様ー。楽しかったか?」

「まあ」

俺の反応を見て、友人は満足そうに笑う。

「そうか。俺も楽しかった。良いものが見れたしな。
ランさん、ぜひ、またリンと一緒に。
同じ生徒としても仲良くしてくれ」

「はい。ありがとうございます。
あの…よかったら、リンさんと一緒に俺も武術を習いたいです」

期待に満ちた目で様子を伺うようにランさんは、
友人を見ている。
そして、友人は俺をじっと見る。

「リン…これは、確かに」

「だろう」

何のことか分かっていないランさんは、
俺たちをみて目を瞬かせている。

「俺でよければ、相手になろう!
最後の弟子になりそうだ。
対価は…そうだな。これからもリンを頼む」

「ありがとうございます!
お願いします。
リンさんにはお世話になってばかりですが、
俺にできることならやります」

俺の隣で目を輝かせるランさんは、
友人と気が合ったらしい。
本人の意思に関係なく、すでにその気になっている。

「ランさんは、ただ傍にいてくれるだけでいい。
リンは、一緒にいて飽きないだろう。
良い友人だ」

「友人…なりたいです。
俺、リンさんの友人になりたい。
先生と生徒で、友人になります」

「なれる。俺が保証しよう」

「ありがとうございます」

友人と交わされる言葉に、くすぐったさを覚えた。
俺がランさんを捕らえるはずが、
見えない何かが俺に絡みついている気がした。
家に帰ると、ランさんが俺を風呂へ誘う。
同性同士、見られて恥ずかしいことはないので誘いにのった。

「リンさん。
俺、教えてほしい魔法があります」

「なんだ」

改まった口調に身構える。
視線で言葉の続きを促す。

「避妊魔法です。誰も、教えてくれなくて。
恋人も友人も、全部親が決めた人ばかりで。
俺、一応、跡継ぎの最後の予備だから…かもですけど。
初めて…触れたいと、触れてほしいと思ったリンさんに、教えてほしいです。
俺を、抱いてください」

熱を宿して懇願する瞳をじっと見る。
はっきりと求められたことに、抱いている疑問は気にしないことにした。
好きな人がいようと遠慮はしない。

「わかった」

「リンさん…ありがとうございます」

ランさんは頬を赤く染めた。
期待で水を滴らせる下肢の自身に気づくと、羞恥からか、
ますます赤くなる。
昂るそれに触れると、
ランさんは微かに短く声を吐いた。
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