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11. 水無瀬玄州
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「ほほほ・・・、順がそのように声を出して笑うとは珍しいこと」
男にしては少し高めの、古風な女性のような口調で水無瀬玄州は穏やかに笑った。
床に入っていた玄州は、礼夏と順の到着を聞き体を起こしていた。白い寝巻の上に丁子色(少し赤みの入った薄黄色)の子持ち縞柄の羽織を一枚肩からかけ、玄州の両脇には男女の使用人が控えており世話をしている。
不調という割には顔色は良く、頬がやや痩けているが眼力はあり、しわの少ない張りのある肌を見る限りでは齢90を越えているとは思えない。
髪こそは真っ白だが、玄州のはっきりとした二重の切れ長の目とそれに見合った鼻筋や唇は、若い時分はさぞかし女性に言い寄られただろうことを想像させる。
「アハハハハ・・・ッ、だって、一族でこんな口を利けるのは後にも先にも礼夏ぐらいのものだよ、ハハハ・・!」
「そんなに笑うなんてひどいわ、順。わたしは素直なだけよ。わたしは例え相手が玄州様でもおべっかなんか言わないって決めてるんだから!わたしは己の信念を貫くわよ!」
「何が信念ですか!礼夏様のは単なる無礼です!無礼を働くことが礼夏様の信念なのですか!」
「これこれ、やめなさい秋葉。礼夏は礼夏なりに一生懸命当主の責務を果たそうとしているのですから。多少のことは大目にみておあげなさい」
「玄州様!玄州様がそのように甘やかすから!」
「おやおや、わたくしのほうに火種が飛んできましたね。良いではありませんか、甘くても。礼夏はまだ14歳なのですから」
「そうよ!礼夏はまだ14なんだから!」
礼夏は右手の人差し指と親指でL字をつくり、頬に向けて振りをつけた。秋葉はキッと礼夏を見た。
「“伊代はまだ16だから”みたいな可愛さアピールは私には効きません!」
「よくわかったわね。さては秋葉は伊代ちゃんの隠れファンね?」
「礼夏がファンなんだろ?振りまで覚えてるなら」
順がクックッと笑いながら言った。
「わたしは明菜ちゃんよ。美しくてカッコイイもの。玄州様は誰が好き?」
「礼夏様!話しを」
「そうですねぇ、わたくしはやはり聖子ちゃんでしょうか」
「玄州様まで簡単にのらないでください!」
声をあげる秋葉に、
「秋葉、前にも言ったけどそんなに興奮すると」
「脳溢血で倒れますよ、秋葉」
礼夏と玄州から余計なお世話的な注意の言葉が返ってきた。
「誰のせいで━━━!」
「何を騒いでるのですか!!」
「あら、章子さん。あなたいたのね。お久しぶり、元気だった?」
礼夏が社交辞令を述べると、『章子』と呼ばれた女は礼夏に冷たい視線を投げかけた。
章子は玄州の娘の一人で、風見順の異母姉にあたる。異母姉といっても順も章子も姉弟として接したことはお互いに一度も無い。父の玄州から霊能力を引き継がなかった章子は、16歳で玄州の秘書のひとりと結婚させられていた。霊能力が無いならせめてたくさんの子を産めとの玄州の命令だった。
「・・・御当主様、『いたのね』ではありませんわ。具合の悪い玄州様の部屋でギャーギャー騒ぐ礼儀の無さは教育係の質が悪かったのかしら?ねえ?秋葉?」
佐山章子は秋葉香に視線を移し睨めつけた。
秋葉香は姿勢を正し、戸口に立っている佐山章子に頭を下げた。
「申し訳ありません。私の指導力不足・・」
「まあ!玄州様は意外と元気そうよ。章子さん、あなたの目は節穴なの?玄州様は顔色もいいし、死にそうな病人扱いのほうが失礼だわ」
礼夏は大げさに驚き章子を諫めた。
立場は礼夏のほうが上なのだ。
「誰が死にそうな病人扱いをしましたか!減らず口は子供の頃とまったく変わらないわね!」
「礼夏はまだ子供よ?14だもん。14の礼夏が子供じゃないなら25のあなたなんかシワ枯れババアじゃない?」
「な・・!」
章子は言い返そうとしたが、
「章子、やめなさい。お前も大人げがないですよ。それに礼夏はわたくしが決めた我が一族の当主。礼夏に対する礼儀をお前もそろそろ覚えたらどうですか?」
玄州の忠告に言い返せない章子は唇をギリッと真一文字に結び、何も言わずにくるりと背を向け立ち去った。
「まったく、しょうのない娘だこと」
玄州は去った章子に軽くため息をついた。
「いい大人のくせに、挨拶もろくにせず立ち去るなんてどちらが礼儀知らずなのかしら」
「礼夏様」
「わかってるわよ。当主という立場に奢らず、どのような相手にも礼儀正しい言葉遣いと敬いをもって接すればいいんでしょ?礼夏は秋葉のためにがんばるわ」
「礼夏様・・」
秋葉のためにがんばると言った礼夏に、秋葉は少し胸を打たれた。
「だから玄州様、わたしに何の用だったの?用があるならサッサと済ませてちょうだい。今夜は暴れん坊将軍の放送があるのよ。遅刻厳禁よ」
秋葉はうなだれた。礼夏には何を言っても無駄かもしれない。わかっていたが。
「ずいぶん会っていませんでしたからね、礼夏の顔を見たかったのですよ」
玄州が目を細め、口元をほころばせた。
「なんだ、それだけ?ならわたしの等身大パネルを作って贈るわ。そしたらわたしの顔はいつでも拝めるわよ?」
「ほほほ・・、おまえは本当に面白い子だこと」
「ねえ、顔見たんだからもう帰っていいでしょ?」
「お待ちなさい。お前達に紹介しておきたい人がいますから。そろそろ帰ってくるころです」
玄州が言うと、使用人から
「玄州様、志乃様がお帰りになりました」
と声がかかった。
礼夏と順は顔を見合わせた。
志乃━━━聞き覚えのない名前だ。
玄州は
「ではすぐにこちらに連れてきなさい」
と言った。
「ほほほ・・・、順がそのように声を出して笑うとは珍しいこと」
男にしては少し高めの、古風な女性のような口調で水無瀬玄州は穏やかに笑った。
床に入っていた玄州は、礼夏と順の到着を聞き体を起こしていた。白い寝巻の上に丁子色(少し赤みの入った薄黄色)の子持ち縞柄の羽織を一枚肩からかけ、玄州の両脇には男女の使用人が控えており世話をしている。
不調という割には顔色は良く、頬がやや痩けているが眼力はあり、しわの少ない張りのある肌を見る限りでは齢90を越えているとは思えない。
髪こそは真っ白だが、玄州のはっきりとした二重の切れ長の目とそれに見合った鼻筋や唇は、若い時分はさぞかし女性に言い寄られただろうことを想像させる。
「アハハハハ・・・ッ、だって、一族でこんな口を利けるのは後にも先にも礼夏ぐらいのものだよ、ハハハ・・!」
「そんなに笑うなんてひどいわ、順。わたしは素直なだけよ。わたしは例え相手が玄州様でもおべっかなんか言わないって決めてるんだから!わたしは己の信念を貫くわよ!」
「何が信念ですか!礼夏様のは単なる無礼です!無礼を働くことが礼夏様の信念なのですか!」
「これこれ、やめなさい秋葉。礼夏は礼夏なりに一生懸命当主の責務を果たそうとしているのですから。多少のことは大目にみておあげなさい」
「玄州様!玄州様がそのように甘やかすから!」
「おやおや、わたくしのほうに火種が飛んできましたね。良いではありませんか、甘くても。礼夏はまだ14歳なのですから」
「そうよ!礼夏はまだ14なんだから!」
礼夏は右手の人差し指と親指でL字をつくり、頬に向けて振りをつけた。秋葉はキッと礼夏を見た。
「“伊代はまだ16だから”みたいな可愛さアピールは私には効きません!」
「よくわかったわね。さては秋葉は伊代ちゃんの隠れファンね?」
「礼夏がファンなんだろ?振りまで覚えてるなら」
順がクックッと笑いながら言った。
「わたしは明菜ちゃんよ。美しくてカッコイイもの。玄州様は誰が好き?」
「礼夏様!話しを」
「そうですねぇ、わたくしはやはり聖子ちゃんでしょうか」
「玄州様まで簡単にのらないでください!」
声をあげる秋葉に、
「秋葉、前にも言ったけどそんなに興奮すると」
「脳溢血で倒れますよ、秋葉」
礼夏と玄州から余計なお世話的な注意の言葉が返ってきた。
「誰のせいで━━━!」
「何を騒いでるのですか!!」
「あら、章子さん。あなたいたのね。お久しぶり、元気だった?」
礼夏が社交辞令を述べると、『章子』と呼ばれた女は礼夏に冷たい視線を投げかけた。
章子は玄州の娘の一人で、風見順の異母姉にあたる。異母姉といっても順も章子も姉弟として接したことはお互いに一度も無い。父の玄州から霊能力を引き継がなかった章子は、16歳で玄州の秘書のひとりと結婚させられていた。霊能力が無いならせめてたくさんの子を産めとの玄州の命令だった。
「・・・御当主様、『いたのね』ではありませんわ。具合の悪い玄州様の部屋でギャーギャー騒ぐ礼儀の無さは教育係の質が悪かったのかしら?ねえ?秋葉?」
佐山章子は秋葉香に視線を移し睨めつけた。
秋葉香は姿勢を正し、戸口に立っている佐山章子に頭を下げた。
「申し訳ありません。私の指導力不足・・」
「まあ!玄州様は意外と元気そうよ。章子さん、あなたの目は節穴なの?玄州様は顔色もいいし、死にそうな病人扱いのほうが失礼だわ」
礼夏は大げさに驚き章子を諫めた。
立場は礼夏のほうが上なのだ。
「誰が死にそうな病人扱いをしましたか!減らず口は子供の頃とまったく変わらないわね!」
「礼夏はまだ子供よ?14だもん。14の礼夏が子供じゃないなら25のあなたなんかシワ枯れババアじゃない?」
「な・・!」
章子は言い返そうとしたが、
「章子、やめなさい。お前も大人げがないですよ。それに礼夏はわたくしが決めた我が一族の当主。礼夏に対する礼儀をお前もそろそろ覚えたらどうですか?」
玄州の忠告に言い返せない章子は唇をギリッと真一文字に結び、何も言わずにくるりと背を向け立ち去った。
「まったく、しょうのない娘だこと」
玄州は去った章子に軽くため息をついた。
「いい大人のくせに、挨拶もろくにせず立ち去るなんてどちらが礼儀知らずなのかしら」
「礼夏様」
「わかってるわよ。当主という立場に奢らず、どのような相手にも礼儀正しい言葉遣いと敬いをもって接すればいいんでしょ?礼夏は秋葉のためにがんばるわ」
「礼夏様・・」
秋葉のためにがんばると言った礼夏に、秋葉は少し胸を打たれた。
「だから玄州様、わたしに何の用だったの?用があるならサッサと済ませてちょうだい。今夜は暴れん坊将軍の放送があるのよ。遅刻厳禁よ」
秋葉はうなだれた。礼夏には何を言っても無駄かもしれない。わかっていたが。
「ずいぶん会っていませんでしたからね、礼夏の顔を見たかったのですよ」
玄州が目を細め、口元をほころばせた。
「なんだ、それだけ?ならわたしの等身大パネルを作って贈るわ。そしたらわたしの顔はいつでも拝めるわよ?」
「ほほほ・・、おまえは本当に面白い子だこと」
「ねえ、顔見たんだからもう帰っていいでしょ?」
「お待ちなさい。お前達に紹介しておきたい人がいますから。そろそろ帰ってくるころです」
玄州が言うと、使用人から
「玄州様、志乃様がお帰りになりました」
と声がかかった。
礼夏と順は顔を見合わせた。
志乃━━━聞き覚えのない名前だ。
玄州は
「ではすぐにこちらに連れてきなさい」
と言った。
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