おかけになった電話番号は。

由宇ノ木

文字の大きさ
1 / 4

おかけになった電話番号は。/真珠の色は透きとおり。

しおりを挟む
.





彼女にはつきあっている男がいた。

俺には結婚間近の彼女がいた。

俺達が出会ったのは共通の友人の結婚式の二次会だった。

ふいに絡んだ視線を、お互い無視できなかった。




「こうして逢えるのももう終わりだ。だから今日は思いきり君を貪りたい」
「ひどい男ね。結婚前の浮気なんて」
「君だって彼氏がいるじゃないか。プロポーズを受けるんだろ?」
「もちろんよ。だから最後に燃えるような恋がしたかったの」

彼女は無邪気に笑った。
彼女の恋人はおとなしそうな男だった。二次会ではしゃぐ彼女をにこやかにみていた。

「お父さんかお兄ちゃんみたいな感じよ。安心するの。私を絶対裏切らないってわかるの。でも物足りないのよね」
彼女が俺に跨がった。
「たまには肉食獣の喰われたい?」
俺は彼女の乳房を下から眺めて手を伸ばす。
「いいじゃない。あなただって彼女が物足りないから私に手をだしたんでしょ?」
「君に恋しただけさ。だから俺の恋は君で終わり。彼女は結婚相手として理想的だからね。物足りないわけじゃないよ」
「よく言うわ。でも私も恋はこれで終わりよ。あとは穏やかな愛に生きるの」
「意見があったな」
「そうね」
二人でクスクスと笑いあい、彼女は俺の指の動きにかわいい嬌声こえで軽くのけぞった。







裏切るほうはいつも気軽だ。

一瞬の出会いに躊躇なく心を燃やして、傷つく人間のことなど考えない。

必ず待っていてくれると、何故思ったのか。


真夜中、声が聞きたくて・・。


━━━おかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめのうえ・・・


聞こえた無表情な声。


さよならさえも言ってくれなかった。


裏切った俺が言えるセリフでもないけれど。








何もない部屋ね。

すべて捨ててしまった。

二人で使ったもの、
二人が過ごした時間、

春、夏、秋と育んで。

信じたのが愚かね。

ほら、涙の粒が転がっている。

真珠のようね、拾いましょうか。





真珠の粒が

部屋のあちらこちらにころがって、

いっこいっこひろい集める。

雨の日、

晴れの日、

曇りの日、

雪の日だけが来ないまま、

真珠の粒をひろいあげ・・・。





さあ、前を向いて歩いてゆきましょう。

あの人には何も言わずに。

人生が終わったわけじゃないんだもの。

これから迎える冬の季節のその次は、

美しい、花咲く春がやってくるのを知っているから。









※この作品は過去に公開した、
『おかけになった電話番号は。』と
『真珠の色は透きとおり』の詩篇二作品を合わせて新たに書きたした作品です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初恋だったお兄様から好きだと言われ失恋した私の出会いがあるまでの日

クロユキ
恋愛
隣に住む私より一つ年上のお兄さんは、優しくて肩まで伸ばした金色の髪の毛を結ぶその姿は王子様のようで私には初恋の人でもあった。 いつも学園が休みの日には、お茶をしてお喋りをして…勉強を教えてくれるお兄さんから好きだと言われて信じられない私は泣きながら喜んだ…でもその好きは恋人の好きではなかった…… 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新が不定期ですが、よろしくお願いします。

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

貴方の幸せの為ならば

缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。 いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。 後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

わたくし、悪女呼ばわりされているのですが……全力で反省しておりますの。

月白ヤトヒコ
恋愛
本日、なんの集まりかはわかりませんが、王城へ召集されておりますの。 まあ、わたくしこれでも現王太子の婚約者なので、その関連だと思うのですが…… 「父上! 僕は、こんな傲慢で鼻持ちならない冷酷非道な悪女と結婚なんかしたくありません! この女は、こともあろうに権力を使って彼女を脅し、相思相愛な僕と彼女を引き離そうとしたんですよっ!? 王妃になるなら、側妃や愛妾くらいで煩く言うのは間違っているでしょうっ!?」 と、王太子が宣いました。 「どうやら、わたくし悪女にされているようですわね。でも、わたくしも反省しておりますわ」 「ハッ! やっぱりな! お前は僕のことを愛してるからな!」 「ああ、人語を解するからと人並の知性と理性を豚に求めたわたくしが悪かったのです。ごめんなさいね? もっと早く、わたくしが決断を下していれば……豚は豚同士で娶うことができたというのに」 設定はふわっと。

処理中です...