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君を失って
しおりを挟む君を失って、全ての友人も失って、両親からも見放された。
幸福に過ごせていたあらゆる場所を失った。
仕事さえも────
気がついたらすでに半年が過ぎていた。
君に対する慰謝料を払うように俺の両親から急かされた。
君の両親からは、連絡は必ず弁護士を通せと言われた。
一度でいい。君に会って謝りたいと弁護士に申し出たが拒否をされた。
慰謝料もいらないと、君が拒否をしたと聞いて、まだ愛が残っている気がした。
どこまで自惚れが強いのかと、偶然会った同僚だった男に言われた。
君は先月結婚したのだと。
見合いをし、そのまま望まれて結婚したのだと。
胸を突き刺された。
君は、ああ、君は・・・!
初めて泣き崩れた夜────
どこかで夢を見ていた。
君とやり直せると。
時間がたてばまたきっと君と。
『ふざけるな。結婚間近にお前がほかの女とホテルで寝てたのを知ったときの、彼女の悲しみ苦しみはそんなもんじゃなかっただろうよ』
鏡に映る、若いくせに死人のようなもう一人の俺が俺をなじる。
いっそ死んでしまえたら────
何度も考え何度も考え直す。
俺が死んでも彼女の迷惑になるだけだ。
新たに小さな会社を起こした。
仕事をした。
必死に働いた。
仕事をとるための土下座も、バカにされることも、どんな屈辱も、君の悲しみと苦しみに比べたら比較にならない。
本当に、本当に。
やがて、父が死に、母が死に、俺には家族と呼べるひとはいなくなった。
独身を貫いた俺には両親だけが家族だった。
両親にも申し訳ないことをした。
俺は両親のささやかな夢も奪ったのだ。
君と賑やかな家庭を築いて、老後は笑って過ごせたはずだったのに。両親と仲の良かった君・・。
必死に働いたおかげで会社は軌道にのり、支社を出す話まで出ている。
個人資産もだいぶ増えた。
鏡を見る。
映るのは年老いた男だ。
若い時分に愛するひとを裏切った、年老いた男だ。
あれから半世紀以上たち、年老いた男は孤独に死を迎えようとしている。
君が亡くなったと聞き、年老いた男ももう生きなくていい。
もしも君に、君達家族に、不幸が降りかかろうものなら、それは俺が追い払おうと思っていた。そのためにも働いて働いて金を稼ぎ地位を築いた。
けれど君は最後まで幸せだったと知った。家族に囲まれ、穏やかに逝ったのだと知った。
貯め込んだ資産の処理を弁護士に頼んだ。
資産はすべて寄付にまわされる。
君が幸せでよかった。
本当に、本当に。
君と一緒に過ごせた時間だけが唯一の宝物だよ。
俺のまわりには誰もいないけど、死は安らかにおとずれてくれるだろう。
end
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