おかけになった電話番号は。

由宇ノ木

文字の大きさ
3 / 4

君を失って

しおりを挟む



君を失って、全ての友人も失って、両親からも見放された。
幸福に過ごせていたあらゆる場所を失った。
仕事さえも────
気がついたらすでに半年が過ぎていた。
君に対する慰謝料を払うように俺の両親から急かされた。
君の両親からは、連絡は必ず弁護士を通せと言われた。
一度でいい。君に会って謝りたいと弁護士に申し出たが拒否をされた。

慰謝料もいらないと、君が拒否をしたと聞いて、まだ愛が残っている気がした。

どこまで自惚れが強いのかと、偶然会った同僚だった男に言われた。

君は先月結婚したのだと。

見合いをし、そのまま望まれて結婚したのだと。

胸を突き刺された。

君は、ああ、君は・・・!

初めて泣き崩れた夜────

どこかで夢を見ていた。
君とやり直せると。
時間がたてばまたきっと君と。

『ふざけるな。結婚間近にお前がほかの女とホテルで寝てたのを知ったときの、彼女の悲しみ苦しみはそんなもんじゃなかっただろうよ』

鏡に映る、若いくせに死人のようなもう一人の俺が俺をなじる。

いっそ死んでしまえたら────

何度も考え何度も考え直す。

俺が死んでも彼女の迷惑になるだけだ。




新たに小さな会社を起こした。
仕事をした。
必死に働いた。
仕事をとるための土下座も、バカにされることも、どんな屈辱も、君の悲しみと苦しみに比べたら比較にならない。

本当に、本当に。




やがて、父が死に、母が死に、俺には家族と呼べるひとはいなくなった。

独身を貫いた俺には両親だけが家族だった。
両親にも申し訳ないことをした。
俺は両親のささやかな夢も奪ったのだ。
君と賑やかな家庭を築いて、老後は笑って過ごせたはずだったのに。両親と仲の良かった君・・。


必死に働いたおかげで会社は軌道にのり、支社を出す話まで出ている。
個人資産もだいぶ増えた。

鏡を見る。

映るのは年老いた男だ。

若い時分に愛するひとを裏切った、年老いた男だ。

あれから半世紀以上たち、年老いた男は孤独に死を迎えようとしている。

君が亡くなったと聞き、年老いた男ももう生きなくていい。

もしも君に、君達家族に、不幸が降りかかろうものなら、それは俺が追い払おうと思っていた。そのためにも働いて働いて金を稼ぎ地位を築いた。

けれど君は最後まで幸せだったと知った。家族に囲まれ、穏やかに逝ったのだと知った。

貯め込んだ資産の処理を弁護士に頼んだ。
資産はすべて寄付にまわされる。

君が幸せでよかった。

本当に、本当に。

君と一緒に過ごせた時間だけが唯一の宝物だよ。


俺のまわりには誰もいないけど、死は安らかにおとずれてくれるだろう。







end

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

退屈扱いされた私が、公爵様の教えで社交界を塗り替えるまで

有賀冬馬
恋愛
「お前は僕の隣に立つには足りない」――そう言い放たれた夜から、私の世界は壊れた。 辺境で侍女として働き始めた私は、公爵の教えで身だしなみも心も整えていく。 公爵は決して甘やかさない。だが、その公正さが私を変える力になった。 元婚約者の偽りは次々に暴かれ、私はもう泣かない。最後に私が選んだのは、自分を守ってくれた静かな人。

2月31日 ~少しずれている世界~

希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった 4年に一度やってくる2月29日の誕生日。 日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。 でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。 私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。 翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。

偽りの愛に囚われた私と、彼が隠した秘密の財産〜最低義母が全てを失う日

紅葉山参
恋愛
裕福なキョーヘーと結婚し、誰もが羨む生活を手に入れたはずのユリネ。しかし、待っていたのはキョーヘーの母親、アイコからの陰湿なイジメでした。 「お前はあの家にふさわしくない」毎日浴びせられる罵倒と理不尽な要求。愛する旦那様の助けもなく、ユリネの心は少しずつ摩耗していきます。 しかし、ある日、ユリネは見てしまうのです。義母アイコが夫キョーヘーの大切な財産に、人知れず手をつけている決定的な証拠を。 それは、キョーヘーが将来ユリネのためにと秘密にしていた、ある会社の株券でした。 最低なアイコの裏切りを知った時、ユリネとキョーヘーの関係、そしてこの偽りの家族の運命は一変します。 全てを失うアイコへの痛快な復讐劇が、今、幕を開けるのです。

処理中です...