【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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160. 短命の一族 (2) 降霊 ②

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祭壇の揺らめく蝋燭の炎に礼夏れいかが現れた。

「水無瀬の姫よ。久しいの」
惣領一心が礼夏に呼びかけた。
礼夏は視線を下げ黙礼した。

───住職、礼を言う。あなたが度々わたしを気遣い呼びかけてくれていたのは知っていた。応えられずに申し訳なかった。

「結界に閉じ込められていたなら仕方あるまい。貴之に話しがあるのだろう?」

───そうだ。娘の・・・、みふゆの足のことだ。

礼夏は貴之に視線を移した。
礼夏の瞳は、生きていたときの『邪眼』と呼ばれた強力な眼力はなく穏やかな瞳だ。

「治す方法があるのか・・?」

───みふゆに何があったのかを全てを話してあげてほしい。

「夢のことか」

───そうだ。夢を通じてあの男を助けたのだと。

「みふゆはそれのせいで高熱を出して歩けなくなったんだ。京司朗を助けられなかったと気に病んで・・・」

───何があったかを理解すれば、歩けるようになる。強い力を使えば肉体に負担がかかるのだ。

「熱を出して寝込むことがあると自分でも言っていた。・・、みふゆは俺や屋敷の連中の憑きものを落としてくれていた。憑きもの落としのせいで体に負担がかかったのか」

───憑きもの落としは惣領家の力だ。惣領家の力が体に負担をかけることはない。みふゆは大きな危険を避けたりするために、今はまだ水無瀬の力を使っている。水無瀬の力は体に負担がかかる。

「惣領と水無瀬を使い分けているのか」

───みふゆ自身は気づいていない。

「京司朗の怪我を教えても本当に大丈夫なのか」

───あの男が襲われる場面を思い出せば、恐怖を体験するが、みふゆは何が起きたかを自分で理解しなければいけない。

「俺はみふゆに辛い思いも恐い思いもさせたくねえ。方法が他にあるなら」

───他に方法は無い。・・・順が目覚める。戻らなくては・・

「風見は今どうしてるんだ」

───眠らせている。順は浄化のために大半は眠っている。貴之、どうか、順を許してやってほしい。順はあなたに嫉妬したのだ。

「あいつからお前を奪ったからか」

───そうではない。みふゆがあなたを『お父さん』と呼んだからだ。順はみふゆの記憶にはいないと・・・

「どういう意味だ?なぜ奴が?!」

礼夏の姿がゆらゆらとゆらぎ、炎に溶け出した。

───ああ、貴之、許して・・・。あなたにみふゆを早く返さなければならないとわかっていたのに・・・。

礼夏の瞳から涙が溢れ落ちる。

「礼夏・・・。違う、違うんだ!謝るのは俺のほうだ!俺が悪かったんだ!礼夏・・!諦めずにお前を探していれば・・・!すまなかった・・!礼夏!」

礼夏の唇が言葉を象ったが、声は貴之に届かず、炎に消えてしまった。

貴之の耳に聞こえたのは、住職の鳴らす鐘と、圭一・早紀子が鳴らす鈴の音だけだった。




寺の門前に停められた三台の黒い高級車。
貴之は真ん中のレクサスに乗った。
去っていく貴之を、兄・一心と姉・早紀子が見送っている。

貴之の車が完全に見えなくなり、一心が本堂に戻ろうと背を向けた。早紀子は貴之が去った方向をみつめたまま、
「礼夏はおかしな言い方をしませんでしたか?」
と、一心に話しかけた。
一心は足を止め、「ふむ」と振り向いた。

「貴之にみふゆを返さなければならないとわかっていたのにと、礼夏は言いました」
早紀子が一心の隣に並ぶと、一心は腕を組み、川原巧の話をした。
「松田の寺に巧に会いに行ったとき、巧はバラの選定に訪れていたみふゆという娘と偶然会ったと言った。弥生だと思ったそうだ。そして、弥生と同じ言葉で若頭から自分を庇ってくれたとな」

「・・・礼夏が自分の胎内はらに連れてきたのでしょうか」
「かもしれんな。貴之はどんな形でもいいから弥生を返してくれと願っていた。・・・まこと、生きていたときから人の輪から外れた女よ。人の力を超えたゆえに、人としての幸せは全うできなかった。哀れと言えば哀れであるが」
一心は小さくため息をつき、空を見あげた。




寺を後にし、病院へ向かう車中、貴之は礼夏の言った風見順の嫉妬の意味を考えていた。

───順はあなたに嫉妬したのだ。みふゆがあなたを『お父さん』と呼んだから───



━━━なぜ風見がみふゆのことで俺を嫉妬する?







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