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番外編 恋心
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青木みふゆが仙道京司朗への恋心に蓋をしたのは、彼が『義兄』になるからという理由がひとつにあった。
惣領貴之と養子縁組をして貴之の娘になったみふゆの新たな家族・兄になるのだ。
仙道京司朗のほうが貴之と養子縁組することが早くから決まっていたのに、みふゆの養子縁組が先に行われた形だった。
みふゆは当時、惣領貴之が実の父親とは知らずに、自分が貴之と京司朗の間に横入りしたのだと、わずかであるが罪悪感を感じていた。
貴之の後継者として九歳から育てられてきた京司朗だ。すでに惣領家の全てを把握しており、貴之からも部下からも絶大な信頼を得ている。
京司朗の邪魔にはなりたくない。せっかく誤解と疑いが解けたのだから、拗れた関係になりたくない。
異性として意識する相手であるよりも、『兄』という家族の方がこの先もずっとずっと仲の良い関係を保てるはずだ。
もともと、みふゆは養子縁組の話しには消極的だった。
あとから嫌われたり、失ってしまうくらいなら、親しくなりたくないし最初から要らない。
母親から引き継いだ特殊な能力が原因で起きてしまった小学生時代のトラブルは、みふゆを人間不信に追い込んだ。
二度とあんな状況をつくりだしたくない。
一人なら誰にも傷つけられない。誰の未来にも干渉しなくてすむ。
他者と関わらなければ、まやかしでも普通でいられる。特殊な能力はなくならないけれど平凡に過ごせるはずだ。社会の片隅でひっそりと暮らせたらそれでいい。
けれど惣領貴之の愛情はみふゆの想像を越えた深さと広さがあった。みふゆの能力も含めて愛してくれている。
みふゆはもう一度だけ、家族のなかで生きてみたいと希望が湧いた。
家族を次から次と失ってきた辛さを忘れてはいないけど、もう一度だけ━━━━
みふゆは貴之との養子縁組を決めた。
みんなで仲良く笑いあって、支えあいたい。
だからこそ京司朗に対しても不安定な恋心より、家族という確かな安心できる枠組みをみふゆは選んだ。
芽吹いたばかりの京司朗への小さな想いは自ら摘み取ってしまった。家族としての愛情にすり替えた。
みふゆは自分に言い聞かせた。
惣領家の当主となり、いつか素敵な女性を選ぶだろう男性だ。その時も自分は邪魔にならぬように、京司朗に興味を持つのはやめるのだ。
そうしてみふゆは養父となる惣領貴之からの愛情だけを受け取ることにした。
「では・・彼女は俺に恋心を抱いていたのだと・・・?」
京司朗は自室に現れたみふゆの母親・礼夏に訊ねた。
艶やかな朱色に金糸銀糸の刺繍が施された十二単をまとっている礼夏。
死人であるにもかかわらず、まるで生きているような存在感がある。
京司朗に問われ、礼夏は頷いた。
────そうだ。娘は・・、みふゆは・・あなたを男として愛するよりも『兄』として愛そうと考えたのだ。あの子は小学生時代の出来事から、他人を信じることをやめてしまった。感情の揺さぶりは、あの子の能力の発動源となる。それゆえに、あなたへの想いを摘み取ってしまった。
「━━━━俺は彼女を愛している。彼女の人生のすべてが欲しい」
京司朗は礼夏をみつめた。自分の気持ちに偽りはない。
礼夏はわずかに微笑んだ。京司朗には母親としての笑みに見えた。
────あなたのその愛を、みふゆに教えてあげてほしい
礼夏は京司朗に鈴を差し出した。
────左手を・・
京司朗は言われた通りに左手を出した。
礼夏が掌に鈴を乗せると、鈴はスッと京司朗の左手に吸い込まれていった。消える瞬間一度だけリーンと鳴った。
────娘をどうかよろしくお願いします
礼夏はゆっくりと頭を下げると、そのまま姿を消した。
一方通行かもしれない愛が、実は互いに想いあっていたのか。
今すぐにでも病院にかけつけ抱きしめたい。
みふゆが自分の気持ちを摘み取ってしまったなら、その気持ちを新たに芽吹かせたい。
京司朗はもどかしさと同時に、愛する女に実は愛されていたのだと、幸せな気持ちに満たされていた。
青木みふゆが仙道京司朗への恋心に蓋をしたのは、彼が『義兄』になるからという理由がひとつにあった。
惣領貴之と養子縁組をして貴之の娘になったみふゆの新たな家族・兄になるのだ。
仙道京司朗のほうが貴之と養子縁組することが早くから決まっていたのに、みふゆの養子縁組が先に行われた形だった。
みふゆは当時、惣領貴之が実の父親とは知らずに、自分が貴之と京司朗の間に横入りしたのだと、わずかであるが罪悪感を感じていた。
貴之の後継者として九歳から育てられてきた京司朗だ。すでに惣領家の全てを把握しており、貴之からも部下からも絶大な信頼を得ている。
京司朗の邪魔にはなりたくない。せっかく誤解と疑いが解けたのだから、拗れた関係になりたくない。
異性として意識する相手であるよりも、『兄』という家族の方がこの先もずっとずっと仲の良い関係を保てるはずだ。
もともと、みふゆは養子縁組の話しには消極的だった。
あとから嫌われたり、失ってしまうくらいなら、親しくなりたくないし最初から要らない。
母親から引き継いだ特殊な能力が原因で起きてしまった小学生時代のトラブルは、みふゆを人間不信に追い込んだ。
二度とあんな状況をつくりだしたくない。
一人なら誰にも傷つけられない。誰の未来にも干渉しなくてすむ。
他者と関わらなければ、まやかしでも普通でいられる。特殊な能力はなくならないけれど平凡に過ごせるはずだ。社会の片隅でひっそりと暮らせたらそれでいい。
けれど惣領貴之の愛情はみふゆの想像を越えた深さと広さがあった。みふゆの能力も含めて愛してくれている。
みふゆはもう一度だけ、家族のなかで生きてみたいと希望が湧いた。
家族を次から次と失ってきた辛さを忘れてはいないけど、もう一度だけ━━━━
みふゆは貴之との養子縁組を決めた。
みんなで仲良く笑いあって、支えあいたい。
だからこそ京司朗に対しても不安定な恋心より、家族という確かな安心できる枠組みをみふゆは選んだ。
芽吹いたばかりの京司朗への小さな想いは自ら摘み取ってしまった。家族としての愛情にすり替えた。
みふゆは自分に言い聞かせた。
惣領家の当主となり、いつか素敵な女性を選ぶだろう男性だ。その時も自分は邪魔にならぬように、京司朗に興味を持つのはやめるのだ。
そうしてみふゆは養父となる惣領貴之からの愛情だけを受け取ることにした。
「では・・彼女は俺に恋心を抱いていたのだと・・・?」
京司朗は自室に現れたみふゆの母親・礼夏に訊ねた。
艶やかな朱色に金糸銀糸の刺繍が施された十二単をまとっている礼夏。
死人であるにもかかわらず、まるで生きているような存在感がある。
京司朗に問われ、礼夏は頷いた。
────そうだ。娘は・・、みふゆは・・あなたを男として愛するよりも『兄』として愛そうと考えたのだ。あの子は小学生時代の出来事から、他人を信じることをやめてしまった。感情の揺さぶりは、あの子の能力の発動源となる。それゆえに、あなたへの想いを摘み取ってしまった。
「━━━━俺は彼女を愛している。彼女の人生のすべてが欲しい」
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礼夏はわずかに微笑んだ。京司朗には母親としての笑みに見えた。
────あなたのその愛を、みふゆに教えてあげてほしい
礼夏は京司朗に鈴を差し出した。
────左手を・・
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礼夏が掌に鈴を乗せると、鈴はスッと京司朗の左手に吸い込まれていった。消える瞬間一度だけリーンと鳴った。
────娘をどうかよろしくお願いします
礼夏はゆっくりと頭を下げると、そのまま姿を消した。
一方通行かもしれない愛が、実は互いに想いあっていたのか。
今すぐにでも病院にかけつけ抱きしめたい。
みふゆが自分の気持ちを摘み取ってしまったなら、その気持ちを新たに芽吹かせたい。
京司朗はもどかしさと同時に、愛する女に実は愛されていたのだと、幸せな気持ちに満たされていた。
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