誰にも触れられたくないトコロ 【完結】

うなきのこ

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03 「ふぐ料理は美味しい」

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日が昇って2時間ほど経った頃、扉の外から聞こえた声にぼんやりと目を開けると総一郎が起こしに来ていた。

「おはよう巽」
「…は…ょ」

総一郎はまだ半分寝ている巽のパジャマを脱がしてワイシャツへと着替えさせる。
その手際の良さはさながら執事の様で幼馴染の世話を焼く、という域を超えていた。一般的な幼馴染みと言う間柄ではそんな事しないのに習慣化している為に誰もその事に気付かない。

「ほら終わったぞ」
「ありがとぅ…」

着替え終わってもまだぼんやりとしていて寝起きの悪さは相変わらずだなと微笑む。

「おはよう巽、総一郎。先に行ってるな」
「「おはよう」」

愁弥は何時もの如くノックもせずに扉を開き簡単に挨拶だけするとヒラヒラと手を振り階下のダイニングキッチンへと一足先に向かった。

愁弥が階下へ移動するとベーコンの香ばしいいい匂いがして唾液腺を刺激する。

「おはようございます半田さん、今日も朝食美味しそうですね^^*」
「おはようございます愁弥くん。今日も美味しいよ^^* 」

半田が調理している後ろから覗き込み肩口越しでなんとはなしに言うが傍から見たら新婚夫婦の様な甘さのあるやり取りだ。

コーヒーを飲みながら暫く雑談していると巽と総一郎がダイニングへとやってくる。
朝食はいつもこの4人(時々+鴻)で食事をしながら会話を楽しみ、昨日は何があって今日は何をするのか情報共有をするのが常だった。

「では今日は3人とも夕食は必要ないんですね、承知しました」

今夜は国外から来たクライアントと会食の予定がある。
「独立した方がいいんじゃないか?」と鴻が社長時代CROWから追い出しその後仕入れ業者として名を馳せた男ノエル・ウォーベン。
父親の慎が生きていた頃にも何度か一緒に食事をして楽しかった記憶があり巽は今夜も楽しみにしている。


出社していつもの様に挨拶が飛び交う中、珍らしく鴻が朝から居て何事かと足を止めると巽達の方へと向かってくる。

「ディナーじゃなくてランチになった」


「それで?ランチでも良いですけど突然ですね?」

社長室に移動して愁弥が鴻に対して遠慮なしに話を切り出す。

「何かトラブルでもありましたか」

「いやいや、ノエルが『前に日本に帰った時に美味しい店が有ったの思い出したから貸切にできるしどう?ただ昼しかやってないんだー』と連絡が来てな」

「鴻さん、それ提案されたのは何時いつでしょう?」

総一郎が冷ややかな目を向けると鴻は視線を逸らした。忘れていたらしい。

「急で悪いな…移動出来るか?」

「はぁ…もちろん出来ますよ」

「じいちゃん、そこ和食?」

「おう、魚料理も豊富だとよ」

魚好きな巽の為にと店を選んでくれたらしい

急遽時間変更したにも関わらず予定されていたクライアントとの会議は別日で良いと快く了承を得た。
総一郎の手腕は見事なものだと巽が感心してる中、鴻が愁弥を部屋の隅へと手招きする。

「ちょっといいか?」
「はい?」

「ノエルが巽と会わせろって煩いから食事の場を設けたがもし手を出そうとしたら遠慮なく叩き出してくれ」

「…承知しました。でも俺がそうする前に鴻さんが投げ飛ばすでしょう(笑)?」

「そりゃそうだがな。葬儀以降会ってないから顔が見たいって程度だろうが一応な。
巽には気付かれない様にやんわりと頼む」

ノエルには嫁(男)が居るからさほど心配はしていないが一応、と言付ける。

巽のガードが甘いお陰で愁弥は専ら荒事担当の秘書として活躍していた。

年齢も年齢、それに同性婚も認められた現代では結婚していない=恋人がいない  と取られる事が多々あり

その為結婚していない巽へここぞとばかりにモーションを掛けに来る輩が多い。
実は先日の美人達とのデートも牽制だったりする。

それを巽はただの筋肉と美人馬鹿だと認識していた。
可哀想だ。

「手を出そうとする奴なんて潰せばいいのに」

「早々潰せないだろ?デカくなったし。まぁ私のおかげだがな~はっはっ!!だが本気で手を出すようなら遠慮なく潰す。」

一応、と言いながらも物騒な話を重低音でサラッと呟く鴻の本気度が愁弥に伝わりぞわっと鳥肌が立った。

「こっわ…」


鴻と愁弥が話している間に午前中にサインできる書類を片付け始めていた。

「いつも思うけどコレはウチ(CROW)じゃなくても
破損せず運べるよなー
他企業から幸い睨まれることなんて無いけど申し訳なく思うね」

どうなんだろ?と口にする。

「そうですね。確かに他でも良いでしょうが物が物ですし、万が一の事も考えて保証もしっかりしているCROWがいいのでしょうね」

「なんの話?」

鴻との密会を終わらせて机へと戻ってきた愁弥が尋ねる。

「これですよ」

ペラっと1枚の紙をサイン済みの書類から引き抜き愁弥へと見せる。

「あ~コンドームね~確かには大切だからな~は微妙だけど」

「…愁くんが言うとなんか含みがあるように聴こえるね…」

「ん~ナニ想像した~?」

ニヤニヤとした顔を巽へ向けるが総一郎によって阻止される。

バコッ

「~~~ったー!おまえっそんなのさっき持ってなかっただろ!?」

「机にはありましたね」

契約書のコピーを仕舞う為に置いてあったファイル片手に説明する。

「っはーー。せめてもう少し柔らかいので叩いてくれよ…」

「次からはします」

「……する気ないな?」

「さぁ?」

よくある2人の戯れに口元をほころばせ暫くして聴こえてきた激しい音色に耳を傾けて書類へのサインを再開する。

いつも仕事中に音楽を掛けて能率アップを図る巽は気分によって曲を変え、今日は海外ロックバンドのとてもテンポのいい曲を先程選んでおいた。

クラシックからロック、最近ではメジャーデビューしていない素人の曲で気に入ったのがあれば聴くこともある。
巽の音楽の趣味が幅広いのが窺えるがロシアのクラシック作曲家トビンドの曲だけは嫌いだった。
聴くと逆に気が散るからとスピーカーのメモリには1曲も入れていない。


ロックに引っ張られノリノリで書類にサインをしているとあっという間に約束の時間になり待ち合わせ場所へと移動する。

「Long time no see! 鴻!巽!」

かつて日本で暮らしていた事があるノエルはしかし地元での生活の方が根付いており再会するなりハグを求めた。2人はそれに応えるが巽へのハグは少し長めで鴻が窘める。

「おいノエル。巽にベタベタ触るな」

長いと言っても鴻とのハグと大して秒数は変わらないがノエルの肩を掴み引き離す。

「Ah~ごめんね 巽」

「いいえ気にしないで」

そんなやり取りをして店内へ入ると女将の案内で一番広く取ってある座敷ではなくテーブル席へつく。外国人であるノエルへの配慮だ。

「いらっしゃいませ、本日は『割烹  さかつま』へお越しくださりありがとうございます。本日はコースでと伺っておりますので順にお持ち致します。
お飲み物は全ての料理に合う様に厳選されておりますのでお好きなものをお選びください」

料理写真付きのメニュー表を渡され一通り見るとどれも美味しそうで期待値が上がる。

ノエルは今日1日仕事を入れていないので大好きな日本酒を。鴻は芋焼酎、巽は午後も仕事があるので気分だけでもとジンジャーエール。
秘書2人は少し離れた席で日本茶を頼んだ。


「フグのしゃぶしゃぶです」
食事をしながら会話に花を咲かせていると次に運ばれてきたメインの魚料理に巽の目が輝く。

女将がその様子にニコリとして「刺身でも食べれるので良ければどうぞ」と小皿に入った醤油を置いて厨房へ戻る。

大皿で運ばれてきたフグへ箸を滑らせ少量の醤油を付けて口に運ぶ。

「じいちゃん!刺身も美味い!流石フグ!」

目を感動でキラキラさせて鴻にも薦める

「おぉちゃんとした処理がされてて美味いな」

同じく暇があれば釣りに行くほど魚好きな鴻が目を輝かせる。

「巽くんしゃぶしゃぶも美味しいよー」

「!ほんとですね!久々にフグ食して心が満たされていきます^^*」

凡そ27歳とは思えないような可愛らしい笑顔に店員含めたその場にいる全員が「可愛いっ」と声に出した。

「うまーい!」

フグに舌鼓を打つのに夢中な巽の耳には幸い届かなかった。







※「割烹 さかつま」は作者が適当につけたものであり、もし実在するならばそのお店と本作品は一切関係ありません事をご留意ください。
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