誰にも触れられたくないトコロ 【完結】

うなきのこ

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11 「誕生日プレゼント」

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誕生日含めた3日を休みにして居たので出社早々社員によるサプライズの出迎えが派手に行われた。今日出社している社員全員が嫌がる事なくエントランスに集まりぎゅうぎゅうだ。
ただ社長室には社員からのプレゼントは一つも届いていない。
慕ってくれていても給料の一部を削ってまでプレゼントなんて用意されては何のために給料を渡しているのか分からないだろう?と先代が言っていたらしく以来言葉で祝う事となっている。

「今年も盛大に祝われましたね」
「祝ってくれるのは嬉しけど時間とっちゃうのも申し訳ないな。来年からはそれもやめて貰おうかな…」
「みんな自分から申し出ているんだから気にする事ないだろ」



そんな他愛ない話は一旦区切り仕事をしていく。
社長室には秘書の机も2つあって今日は珍しく両方埋まっている。
愁弥は巽の恋人をしているので今は鴻について行って牽制する必要がなく最近は総一郎と共に真面目に秘書の仕事をしている。
秘書としてきちんと働いては居るのだが。
「なんか別人みたいな」
「別人?」
「ん?ごめん声に出てたみたい。気にしないで」
「そう言われると逆に気になるだろ」
手を止めてまで何の事だったのかと続きを話せと聞いてくるので仕方なく答える。
「あんまり愁くんが真面目に仕事してる姿とか見た事なかったから別人みたいだなって」
「確かに愁弥がこうして社長室で仕事することはないからね」
「じいちゃんについていた時はなんか遊んでるって感じだったもんね」
「ひどいな?お前のために動いてたのに
巽の代わりに牽制をしていた俺をもっと労ってくれよ~」
「うんありがとう、でももう俺の恋人でしょ?」
机が離れて居てよかった。
本当に嫉妬している訳では無いことくらい分かっているが。
もし近距離にいたらキスでもしてしまいそうな殺し文句に愁弥は固まる。
「いつまで固まってるんだ、さっさとメール打ち込んでくれ」
「もう終わってるんだなーこれが」
「なら報告しろよ」
「休憩したって良いだろ?目が疲れた」


休憩のためにフリースペースに行くと建前は土産な誕生日プレゼントのお菓子を社員の一人が渡しにきた。
「よければ御三方で分けてください」
「受け取らないようにしてるんだ。君のだけじゃなくてみんな。」
一人受け取ると周りにいる人たちのも受け取らなくてはならなくなるので断りを入れる。
「そうですよね…受け取らないとわかって居たのに。休憩中お時間取らせてしまいすみませんでした。」
「いや、きみのお陰で今年も周りで待機している社員たちが嫌な思いをしなくて済んだんだ。ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ」

バレていたか、と気まずそうに、けれど楽しそうな社員たちを見回して謝る。
「わかっているくせに用意なんてするもんじゃないだろ?勿体無いから分けられるものは各部署でばら撒いてこい」
「「「「はい」」」」
「!」
その場にいた全員がプレゼントを持って居たらしく巽が思って居たより大音量になった返事に一瞬呆気に取られた。


「んーつかれたっ」
社長室に戻るとドカッとソファーに倒れ込んだ。
「巽も俺らへの態度とは全然違うから全くの別人に見えるな」
「こんなだらけた態度の社長を見たら皆二度見どころじゃないね」
社員らがプレゼントを渡しに来ることはわかって居たので一括で断るためにわざわざフリースペースに出向いたのだが外行き用の喋り方は当然気を使うし疲れる。
「ただなぁ…巽のあの発言はちょっとな…」
「え?なんか言っちゃダメなことでも言ってた⁉︎あ、お菓子ばら撒けって命令はパワハラになるよね⁈どうしよう」
「落ち着いて巽。多分そこじゃなくて」
労わりの言葉の破壊力が強かったらしく、巽に恋人が居てもこれでは社員みんなが虜にされかねないと注意を受けた。
巽はただ普通のことを言っただけなのだがやり過ぎたようだ。
「ま、ほとんどは仕事により一層真剣に取り組むようになる程度だから問題ないけどな」


「ところで今年も各国から誕生日プレゼントが届いている様ですがどうしますか?」
総一郎がリストを机に広げて見せる。
「例年通り施設に回しておいて」
各地取引先、一度も取引をしたことのない企業など様々な所から発送されたプレゼントは国内外問わず寄贈することにしてある。
それは起業した初代の時から変わらない扱いで、皆納得してそれでもせめて、と送ってくるのだ。
ただ一応サイトにも明記しており断りをいれてある。
「では倉庫の方で確認をお願いします」
基本的には梱包された全ての物は社長が検める。せっかく用意してくれたのに一度も目を通さないというのは失礼だろうとこれも初代が決めた事だった。


「巽と愁弥はここで確認頼む 俺は別室でこれらの確認に行って来るから」
中には書き忘れなのか住所や名前のない物もあり、そう言った怪しいものは総一郎が確認する。
憂鬱そうに倉庫を出ていく総一郎を哀れみの目で見送った

「毎年すごい量だよね…」
総一郎が事前に全ての段ボールのテープを剥がしておいたお陰で量はあれどスムーズに確認が進んでいく。
「扱いに困るやつ差し出す奴いるよな~  お、見てみろ巽!」
「あはは木彫りの技術はすごいのに。」
流石に施設に流せられる代物ではないと判断して、胡乱な目で受け取ったその木彫りに警告サインの赤ラベルを貼った。
これは材料が木なので写真に収められてから薪へ生まれ変わる事だろう。


順調に安全物に目を通す巽たちとは逆に、総一郎の確認するものはいろんな意味で危険物が入っていたりする。
勿論社内に持ち込む前に発火物などの凶器になりうるものは取り除かれて居るのだが。
「これは同じ奴の物か。気持ち悪いな。クソが。」
悪態をつきながら一人荷物の確認をする総一郎は、手紙と共に瓶に詰められた白い液体を(本当は)焼却(したい)ボックスに投げ入れる。
手紙には巽へのラブコールが延々と綴られている。瓶の中身は精子だった。

本当にうっかりミスで住所などが書かれていない物の中に混じっているのですごく面倒なのだ。しかも何箱もある。
「はぁ…」

巽が当主になってすぐに定期的に匿名のラブレターが届くようになった。
そして誕生日には過去2回とも同じように精子の入った瓶が届いた。

初めて届いた時に瓶の内容物を調べたところ精子だとわかったが、これらは巽の耳には入れず、しかし当然鴻と愁弥には報告していた。
鴻の信頼のおける刑事にだけ知らせて指示を仰ぐと、この送り付けられた物は万が一接触のあった場合に備えて証拠の一部となる、とのことで捨てれないでいる。
その刑事が秘密裏に捜査してくれているらしいが目星い情報は上がってこない。

本当なら今すぐにでもこれらを焼却し送りつけてきた犯人のちんこをもぎ取ってやりたい。と顔も知らない犯人を頭の中で滅多刺しにしてこの処理への鬱憤を晴らした。



「巽~何も聞かず俺を労って~」
選別作業から帰還した総一郎は柄にもなく先に社長室に戻っていた巽の懐へ飛び込むと猫撫で声でそう言った。
「お疲れ様、頑張ったね~よしよし~甘えたさんに飴をあげよう!口あけて?」
すっと取り出したのは半田がプレゼントした個包装の飴で、京都にある老舗旅館が宿泊者にだけしか用意しないと言われる飴だった。
本来宿泊客にしか振舞われることの無い代物なのだが、鴻同様得体の知れない半田が頼んだだけで用意されたらしい。
そんな物を受け取れないと口を閉じる
「ほら、あーーん」
食べさせてくれるのなら断る理由も無いだろう。
素直に口を開くと飴を放り込まれる。
存在は知っていただけの飴を初めて食べたが飴なのに複雑な味がして美味いの一言しか感想が出なかった。



今日一日来客にも祝われぐったりした巽が動けないと甘えてきたので担いで、心労が半端ないから動きたくないと宣った総一郎も支えて帰宅したら出迎えた半田に医者呼びますか⁉︎と本気で心配されたのだった。


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