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結
第二十話 忘れえぬ日々 Ⅷ
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オーリィードには、師匠と呼べる者が五人居る。
その内の一人である、異国出身の女性騎士グローリア=ヘンリーと最後に会ったのは、オーリィードが宮廷騎士に昇格する少し前。
当時王城勤めの騎士団に所属していたオーリィードが、休日を利用して、サーラへの手紙に使うレターセットを購入する為に王都へ下りた時だった。
オーリィードから宮廷騎士になれるかも知れないと聞いたグローリアは、ならば宮殿へ上がる前に剣術の仕上がり具合を確認してみようと手合わせをして、オーリィードを軽々と打ちのめした後、こう言った。
『相変わらず、君の剣は素直だね。学んだ良し悪しすべてを吸収して活かす身体と技術は驚嘆に値するよ。でも、精神面ではその素直さが命取りだ』
「素直さが命取り、ですか」
「師匠は、素直だからこそ周りの人間に影響され、振り回されやすくなっているんだと仰っていた」
「素直ねえ。周りの人間に合わせて機嫌を取ろうとしてるだけじゃねえの」
艶々しい質感で高級感を演出する、白く長い木製のテーブルを囲み。
おすすめのメニューを集めた日替わりプレートから、山菜のバター炒めをフォークに乗せて口へ運ぶアーシュマー。
彼の正面で単品メニューの特製キノコクリームパスタをフォークで掬い、とろみが付いたソースをたっぷり絡めて食べるオーリィード。
そんなオーリィードの右隣に座って、アーシュマーとオーリィードに目を向けながら、イノシシ肉のソーセージにかぶりつくアラン。
三人はそれぞれ、無言でしっかり咀嚼してから飲み下し、口の中を空けて会話を再開する。
「……ああ、『周りの人間に影響を受けやすい』には納得です。現に影響を受けていますからね。まさに今、ここで」
「これでもできる限り抑えてはいるんだ。悪いと思ってるけど、これ以上は手の打ちようがない」
「何が手の打ちようがない、だ。自分の在り方に対して、周りの人間がああだからこうだからとか、原因を外側に求めてんじゃねえよ。自意識過剰女」
正午になり昼食時を迎えた、王城内にある食堂。
宮廷騎士のみならず、王城の敷地内で働く者全員が一度は必ず足を運ぶ、低価格・高品質・安定安全・高速回転で評判を呼んでいる、連日大盛況な、食の殿堂で。
はめ殺しの大きな窓の近く、南側角の席に座っている三人の周りだけが、立入禁止の縄を張り巡らせたかのように、大きな空間を開いていた。
遠巻きで三人をチラチラと覗き見る者達は、例外なく真っ青な顔をして、小刻みに震えながら冷や汗を掻いている。
中には、食堂に足を踏み入れた瞬間、糸を切られた操り人形の如くパタッと倒れて動かなくなる者も居た。
ここのところ、これが食堂での日常風景だ。
幸い、死傷者は一人も出ていないが、被害のほどは地味に拡大の一途。
それが、ちょっとした隙を目敏く見つけてはしつこく付きまとうアランの敵意を受けて殺気立っているオーリィードのせいなのだと。
つまり、自分がオーリィードにちょっかいを掛けているせいで、無関係な人間達が恐慌状態に陥ったり、気絶したりするのだと。
アラン自身は、そんな因果関係をまったく理解していなかった。
食堂の経営者から見れば営業妨害も甚だしい、傍迷惑な二人である。
「貴女は吸収力が高い代わりに、選別する力がほとんどありませんからね。今みたいに、不機嫌な人間の傍に居ると、とことん不機嫌になってしまう。ごちそうさまでした」
「脊髄反射の域に踏み込んでいるとまで言われたからな。抑えるには相当な集中力と忍耐力が必要だって言われてる。ごちそうさまでした」
「自分の機嫌も自分で取れないとか、お子様かよ。そんなんでよくも隊長に抜擢されたな。ああ、だから団長達に媚を売ったのか。良いよなあ、女は。着てるモンを一枚か二枚脱げば何でも手に入るんだから。マジでうぜえわ。ごちそうさん」
三人同時に昼食を平らげ、三人同時に席を立ち。
勝手に避けていく人波と、パタパタと倒れていく気配に鋭敏な犠牲者達を背に、三人一緒にカウンターへ食器を返して、三人一緒に食堂を出て。
「それでずっと無表情になっていたんですね。もしかして、感情を抑制する為に、思考も遮断しているのですか?」
「まあ、な。何も考えてない状態に近いと言えば近い。引っ掛かりがあると持っていかれやすくなるからって、師匠が教えてくれた手段なんだ」
「遮断なんて上等なモンじゃなくて、普段から何も考えてないんだろ。何も考えてなくたって、身体が一つあれば何でも思い通りにできるんだからな」
すれ違う人達ことごとくに怯えた目で見られながら三人で横一列に並び、同じ歩幅で、宮殿への上り坂を歩いていく。
途中、三人の前方から馬車を引いて歩いてきた馬二頭が唐突にいななき、御者の操縦を振り切って、デタラメな方向へと走り出した。
背後から聴こえる御者の悲鳴や派手な衝突音に振り返ったオーリィードとアランが、御者に手を貸そうとそちらへ駆け寄って余計に馬達を怯えさせる前に、アーシュマーが素早く動いて馬達をなだめ、御者の手助けをした後、再び三人並んで歩き始める。
「平常心を保つ精神修行ですか。控え室に居るシュバイツァー隊の皆さんやアラン殿がずっとこんな様子では、どこへ行っても大変そうですね」
「あいつらは、私を居ないものとして扱っている。だから、私もあいつらを必要以上に構わないと決めたんだ。実技試験まで三週間を切ってるからな。次に問題を起こしたら、団長達はもちろん、手伝いに行ってるティアンまで過労死してしまう」
「そう思うんなら、潔く騎士を辞めたらどうだ。事務はできるみたいだし、あんたなら優秀なメイドや女官にはなれるだろ。団長達に迷惑を掛けてまで騎士の名誉に拘る理由が解んねえな」
宮殿の正門脇にある使用人専用の出入り口を通って、宮殿の正面玄関へ。
壮麗な装飾が施されている巨大な玄関扉を潜れば、そこから見渡せる範囲すべて、シュバイツァー隊が警護を担当するホールだ。
「私は中層階の巡回を終えてから控え室に戻るので、これで失礼しますが、……思うところがあるにせよ、あまりオーリィードを刺激しないほうが良いですよ、アラン殿。加減を間違えると取り返しがつかなくなりますからね」
「行くんならさっさと行け、アーシュマー。そもそも毎日私と一緒に食事を取る必要はないんだからな」
「とか言って、本当なら俺が居なければ隊長同士で仲良くヤれるのに、とか思ってんだろ。良いんだぜ、俺のことは気にせず誘惑なりなんなりしても。その挙動は全部まとめて俺が団長達に証言してやるからな」
「オーリィードに誘惑してもらえるなら、諸手を挙げて大歓迎しますが?」
「アホか。いいから、とっとと失せろ!」
「はい。ではまた、後ほど」
ガルルと犬歯を剥き出しにするオーリィードに見送られ、アーシュマーは笑顔で手を振り、二階に繋がる階段へと歩いていく。
「イイ子ちゃんぶるのも大変だなあ、たいちょー殿?」
今回も収穫無しかと舌打ちするアランをその場に残し、オーリィードも、食事休憩の余り時間を使ってホール周辺と中庭周辺の巡回を始めるが。
食事休憩を口実に持ち場を離れてきたアランも、先日の一件以降徹底的に無視を決め込んでいるオーリィードの後ろから、無断で付いて来る。
「団長も副団長もクソ兄貴も忙しくてたいちょー殿には構ってられねえし、アーシュマー隊長殿も俺に張り付かれてっから手を出せないしで、いろいろ溜まってんだろ? 我慢すんなよ」
「…………」
「それともあれか? 毎晩宿舎で誰かとよろしくヤってるとか?」
「…………」
「そりゃねえぜ、たいちょー殿。おんなじ宿舎の中でも、あんたは女性棟、こっちは男のねぐらだ。抜け出すとか誘い込むとかされても、監視しようがねえじゃん。ズリいなあ」
「…………」
背後でわざとらしくまくし立てるアランには目もくれず。
オーリィードはシュバイツァー隊が警護するいつも通りの静かなホールを抜け、中庭のほうへ足を運ぶ。
「ま、そんくらいズルくなきゃ、権力者に取り入るなんて真似はできんか」
「…………」
宮殿の中庭は、真四角な敷地の中央に噴水を据え、そこから四方に伸びる石畳の遊歩道で四つに区切られた、低木主体の植物園になっている。
手の込んだトピアリーや季節ごとに植え替えられる花々を楽しめるよう、噴水の周りや遊歩道の所々には外灯やベンチが設置され。
食事時や、昼勤と夜勤が入れ代わる時間帯になると、癒しを求めて集まる官人やメイドや騎士達が、飲食物を片手に談笑している様子が窺えた。
「団長も副団長もクソ兄貴もアーシュマー隊長殿もバカだよな。こんな女に良いように利用されても、まだ庇ってるとかさあ……」
「…………」
ゼルエスが実技試験とエキシビションゲームを見学に行くと聴いてから、十日以上。
メトリー副団長の指示に従い、毎日遊歩道や噴水や中庭を取り囲む回廊を一人(と、約一名)で巡回しているオーリィードだったが。
「クソ兄貴は元々俺とそう変わんねえけど、半年前の実技試験でぶっちぎりだった団長達は、あんたと関わったせいで……騎士としても人間としても、落ちぶれちまったんだろうなあ……?」
「……………………っ」
青く晴れ渡る空にも、穏やかに流れる白い雲にも。
生い茂る涼やかな緑の木々にも、色とりどりの花々にも。
吹き抜ける柔らかな風と、それに乗って拡がる水飛沫や植物の香りにも。
オーリィードの心が癒されたり、和んだりすることはなく。
「なんせ、あんたみたいな女に取り入られる程度の志しか持ってないんだ。今度の実技試験じゃ、騎士候補も鼻で笑うような結果しか出せないかもな。ケッ! 部下として、人間として、男としても情けねえぜ」
「………………………………~~ッ、げん、に……ッ………………」
気付いた時には、もう。
「この分じゃ、あんたの師匠とやらの実力も、たかが知れて」
「 鬱 陶 し い ! 」
「るぐッ……!?」
オーリィードの右足が音も無く風を裂き。
宙空で正円を描いた踵に、右脇を撃たれたアランの身体は。
カラカラに乾いた木の葉よりも軽やかに、空高く舞い上がっていた。
その内の一人である、異国出身の女性騎士グローリア=ヘンリーと最後に会ったのは、オーリィードが宮廷騎士に昇格する少し前。
当時王城勤めの騎士団に所属していたオーリィードが、休日を利用して、サーラへの手紙に使うレターセットを購入する為に王都へ下りた時だった。
オーリィードから宮廷騎士になれるかも知れないと聞いたグローリアは、ならば宮殿へ上がる前に剣術の仕上がり具合を確認してみようと手合わせをして、オーリィードを軽々と打ちのめした後、こう言った。
『相変わらず、君の剣は素直だね。学んだ良し悪しすべてを吸収して活かす身体と技術は驚嘆に値するよ。でも、精神面ではその素直さが命取りだ』
「素直さが命取り、ですか」
「師匠は、素直だからこそ周りの人間に影響され、振り回されやすくなっているんだと仰っていた」
「素直ねえ。周りの人間に合わせて機嫌を取ろうとしてるだけじゃねえの」
艶々しい質感で高級感を演出する、白く長い木製のテーブルを囲み。
おすすめのメニューを集めた日替わりプレートから、山菜のバター炒めをフォークに乗せて口へ運ぶアーシュマー。
彼の正面で単品メニューの特製キノコクリームパスタをフォークで掬い、とろみが付いたソースをたっぷり絡めて食べるオーリィード。
そんなオーリィードの右隣に座って、アーシュマーとオーリィードに目を向けながら、イノシシ肉のソーセージにかぶりつくアラン。
三人はそれぞれ、無言でしっかり咀嚼してから飲み下し、口の中を空けて会話を再開する。
「……ああ、『周りの人間に影響を受けやすい』には納得です。現に影響を受けていますからね。まさに今、ここで」
「これでもできる限り抑えてはいるんだ。悪いと思ってるけど、これ以上は手の打ちようがない」
「何が手の打ちようがない、だ。自分の在り方に対して、周りの人間がああだからこうだからとか、原因を外側に求めてんじゃねえよ。自意識過剰女」
正午になり昼食時を迎えた、王城内にある食堂。
宮廷騎士のみならず、王城の敷地内で働く者全員が一度は必ず足を運ぶ、低価格・高品質・安定安全・高速回転で評判を呼んでいる、連日大盛況な、食の殿堂で。
はめ殺しの大きな窓の近く、南側角の席に座っている三人の周りだけが、立入禁止の縄を張り巡らせたかのように、大きな空間を開いていた。
遠巻きで三人をチラチラと覗き見る者達は、例外なく真っ青な顔をして、小刻みに震えながら冷や汗を掻いている。
中には、食堂に足を踏み入れた瞬間、糸を切られた操り人形の如くパタッと倒れて動かなくなる者も居た。
ここのところ、これが食堂での日常風景だ。
幸い、死傷者は一人も出ていないが、被害のほどは地味に拡大の一途。
それが、ちょっとした隙を目敏く見つけてはしつこく付きまとうアランの敵意を受けて殺気立っているオーリィードのせいなのだと。
つまり、自分がオーリィードにちょっかいを掛けているせいで、無関係な人間達が恐慌状態に陥ったり、気絶したりするのだと。
アラン自身は、そんな因果関係をまったく理解していなかった。
食堂の経営者から見れば営業妨害も甚だしい、傍迷惑な二人である。
「貴女は吸収力が高い代わりに、選別する力がほとんどありませんからね。今みたいに、不機嫌な人間の傍に居ると、とことん不機嫌になってしまう。ごちそうさまでした」
「脊髄反射の域に踏み込んでいるとまで言われたからな。抑えるには相当な集中力と忍耐力が必要だって言われてる。ごちそうさまでした」
「自分の機嫌も自分で取れないとか、お子様かよ。そんなんでよくも隊長に抜擢されたな。ああ、だから団長達に媚を売ったのか。良いよなあ、女は。着てるモンを一枚か二枚脱げば何でも手に入るんだから。マジでうぜえわ。ごちそうさん」
三人同時に昼食を平らげ、三人同時に席を立ち。
勝手に避けていく人波と、パタパタと倒れていく気配に鋭敏な犠牲者達を背に、三人一緒にカウンターへ食器を返して、三人一緒に食堂を出て。
「それでずっと無表情になっていたんですね。もしかして、感情を抑制する為に、思考も遮断しているのですか?」
「まあ、な。何も考えてない状態に近いと言えば近い。引っ掛かりがあると持っていかれやすくなるからって、師匠が教えてくれた手段なんだ」
「遮断なんて上等なモンじゃなくて、普段から何も考えてないんだろ。何も考えてなくたって、身体が一つあれば何でも思い通りにできるんだからな」
すれ違う人達ことごとくに怯えた目で見られながら三人で横一列に並び、同じ歩幅で、宮殿への上り坂を歩いていく。
途中、三人の前方から馬車を引いて歩いてきた馬二頭が唐突にいななき、御者の操縦を振り切って、デタラメな方向へと走り出した。
背後から聴こえる御者の悲鳴や派手な衝突音に振り返ったオーリィードとアランが、御者に手を貸そうとそちらへ駆け寄って余計に馬達を怯えさせる前に、アーシュマーが素早く動いて馬達をなだめ、御者の手助けをした後、再び三人並んで歩き始める。
「平常心を保つ精神修行ですか。控え室に居るシュバイツァー隊の皆さんやアラン殿がずっとこんな様子では、どこへ行っても大変そうですね」
「あいつらは、私を居ないものとして扱っている。だから、私もあいつらを必要以上に構わないと決めたんだ。実技試験まで三週間を切ってるからな。次に問題を起こしたら、団長達はもちろん、手伝いに行ってるティアンまで過労死してしまう」
「そう思うんなら、潔く騎士を辞めたらどうだ。事務はできるみたいだし、あんたなら優秀なメイドや女官にはなれるだろ。団長達に迷惑を掛けてまで騎士の名誉に拘る理由が解んねえな」
宮殿の正門脇にある使用人専用の出入り口を通って、宮殿の正面玄関へ。
壮麗な装飾が施されている巨大な玄関扉を潜れば、そこから見渡せる範囲すべて、シュバイツァー隊が警護を担当するホールだ。
「私は中層階の巡回を終えてから控え室に戻るので、これで失礼しますが、……思うところがあるにせよ、あまりオーリィードを刺激しないほうが良いですよ、アラン殿。加減を間違えると取り返しがつかなくなりますからね」
「行くんならさっさと行け、アーシュマー。そもそも毎日私と一緒に食事を取る必要はないんだからな」
「とか言って、本当なら俺が居なければ隊長同士で仲良くヤれるのに、とか思ってんだろ。良いんだぜ、俺のことは気にせず誘惑なりなんなりしても。その挙動は全部まとめて俺が団長達に証言してやるからな」
「オーリィードに誘惑してもらえるなら、諸手を挙げて大歓迎しますが?」
「アホか。いいから、とっとと失せろ!」
「はい。ではまた、後ほど」
ガルルと犬歯を剥き出しにするオーリィードに見送られ、アーシュマーは笑顔で手を振り、二階に繋がる階段へと歩いていく。
「イイ子ちゃんぶるのも大変だなあ、たいちょー殿?」
今回も収穫無しかと舌打ちするアランをその場に残し、オーリィードも、食事休憩の余り時間を使ってホール周辺と中庭周辺の巡回を始めるが。
食事休憩を口実に持ち場を離れてきたアランも、先日の一件以降徹底的に無視を決め込んでいるオーリィードの後ろから、無断で付いて来る。
「団長も副団長もクソ兄貴も忙しくてたいちょー殿には構ってられねえし、アーシュマー隊長殿も俺に張り付かれてっから手を出せないしで、いろいろ溜まってんだろ? 我慢すんなよ」
「…………」
「それともあれか? 毎晩宿舎で誰かとよろしくヤってるとか?」
「…………」
「そりゃねえぜ、たいちょー殿。おんなじ宿舎の中でも、あんたは女性棟、こっちは男のねぐらだ。抜け出すとか誘い込むとかされても、監視しようがねえじゃん。ズリいなあ」
「…………」
背後でわざとらしくまくし立てるアランには目もくれず。
オーリィードはシュバイツァー隊が警護するいつも通りの静かなホールを抜け、中庭のほうへ足を運ぶ。
「ま、そんくらいズルくなきゃ、権力者に取り入るなんて真似はできんか」
「…………」
宮殿の中庭は、真四角な敷地の中央に噴水を据え、そこから四方に伸びる石畳の遊歩道で四つに区切られた、低木主体の植物園になっている。
手の込んだトピアリーや季節ごとに植え替えられる花々を楽しめるよう、噴水の周りや遊歩道の所々には外灯やベンチが設置され。
食事時や、昼勤と夜勤が入れ代わる時間帯になると、癒しを求めて集まる官人やメイドや騎士達が、飲食物を片手に談笑している様子が窺えた。
「団長も副団長もクソ兄貴もアーシュマー隊長殿もバカだよな。こんな女に良いように利用されても、まだ庇ってるとかさあ……」
「…………」
ゼルエスが実技試験とエキシビションゲームを見学に行くと聴いてから、十日以上。
メトリー副団長の指示に従い、毎日遊歩道や噴水や中庭を取り囲む回廊を一人(と、約一名)で巡回しているオーリィードだったが。
「クソ兄貴は元々俺とそう変わんねえけど、半年前の実技試験でぶっちぎりだった団長達は、あんたと関わったせいで……騎士としても人間としても、落ちぶれちまったんだろうなあ……?」
「……………………っ」
青く晴れ渡る空にも、穏やかに流れる白い雲にも。
生い茂る涼やかな緑の木々にも、色とりどりの花々にも。
吹き抜ける柔らかな風と、それに乗って拡がる水飛沫や植物の香りにも。
オーリィードの心が癒されたり、和んだりすることはなく。
「なんせ、あんたみたいな女に取り入られる程度の志しか持ってないんだ。今度の実技試験じゃ、騎士候補も鼻で笑うような結果しか出せないかもな。ケッ! 部下として、人間として、男としても情けねえぜ」
「………………………………~~ッ、げん、に……ッ………………」
気付いた時には、もう。
「この分じゃ、あんたの師匠とやらの実力も、たかが知れて」
「 鬱 陶 し い ! 」
「るぐッ……!?」
オーリィードの右足が音も無く風を裂き。
宙空で正円を描いた踵に、右脇を撃たれたアランの身体は。
カラカラに乾いた木の葉よりも軽やかに、空高く舞い上がっていた。
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