色物語。

木曽ふも乃

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橙ハ息子

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ここに住む人なら誰でも知っている「地馬坂」。
傾斜と長さが異常で有名だ。
その坂の一番上__山頂のような雰囲気の場所にいるのは母と幼い男の子。
母の井戸端会議は始まったばかりである。

「あうあーっ」

ベビーカーから両手両足を精一杯広げて「帰りたい」と訴える。
だが、母はベビーカーを揺らすだけ。

「あぎゃー!てああむう!」

半泣きになると、母は仕方ないなあ、と様子で抱っこした。
少しだけ安心して 指をしゃぶりながら落ち着いたが、やはり帰りたいという気持ちは変わらない。
このまま帰れればなあ、と思いながら騒ぎ立てる。

「ごめんねえ、まだお話中だから待ってね」

よいしょ、とベビーカーに戻される。

男の子は しばらく帰れないと察し、自分で帰ろうと身体いっぱい使ってベビーカーごと動こうとした。
数センチごとに、ゆっくりと動いていた。

ゆっくり、着々と。
坂の下へと向かって。

カタン、小さな音を合図に、ベビーカーは坂を驚くほどの速さで駆け落ちて行った。

母は、井戸端会議中だった。
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