彼氏1000人

渋谷 にこ

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part3 彼との生活

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part3 彼との生活

カフェで一息つく。アイスコーヒーを頼んでタバコを吸う。
私の中で一番落ち着く時間だ。

PM8時。
リクは練習が終わるのは9時だが、友達の飲みに行くのが日課なので、毎日終電くらいか朝まで帰らない日が多い。

こういう仕事の後は、寂しい気持ちでいっぱいになる。だから、リクにギュッとしてほしい気持ちでいっぱいになるけど、そのことで、しつこく連絡してしまったせいで何回も喧嘩してきたので、今はもう彼には干渉もしないし、ワガママもいわず平凡に過ごしている。

とりあえず、家に帰ろう。


家に帰る途中にコンビニでスープを買う。
上京してきて三年目。最初は自炊とかしてたけど、今は、リクのためにしか手料理は作らない。自分のために作るご飯は、正直めんどくさくなっていた。

スープをすすりながら、リクのことを考える。



リクとの出会いは、東京に出てきた時に、あるサークルの集まりで出会った。
私は、東京に出てきて一人暮らしの生活になんの楽しみも感じていなかったし、多分、そこらへんの上京したてのの人とは凄く違っていたと思う。
新しい出会い新しい生活なんていうのは輝いては見えなくて、ただただ母親から解放された喜びと1人で生きて行くという強い思いの中にいた。1人でいいから、ソッとしておいて欲しかった。

そのサークルの集まりも地元の先輩に言われて断りきれずに行くだけのものだったので、めんどくさい気持ちしかなく、適当に過ごそうとしか思ってなかったのだ。

『待ってね~!もう1人来るはずなんだけど、遅刻するみたいなの!噂ではイケメンらしいから、、みんな許してあげてね?笑』サークルのトップらしき女性が言う。

隣の人と話してる人もいれば、ぼーっとしてる人もいる。

早くタバコ吸いたいな~と思いながらいると、遅刻男が現れた。

『すいません。』
急いできたかのように息を切らしながら入って来る。申し訳なさそうな表情。

この人、私と似てる。全て作られたものだな。と一瞬で感じた。

多分、全く急いでなかった。
申し訳なさそうな表情もどこか嘘っぽくて、こうしとけは許されるだろうと分かってる人だ。

これがリクとの出会い。

自己紹介をしてお昼の時間になるとサークルの人たちがお弁当を用意してくれていた。
『種類は多めに用意したから好きなお弁当のとこに座っていいよ!』

海鮮ちらし寿司。一人暮らしでお金もなかったし、浜育ちの私は魚介類が大好きだったので、絶対、海鮮ちらし寿司のとこに座りたかった。『やった~!絶対海鮮ちらしでしょ!!!』と思いながら、海鮮ちらし寿司のある椅子に手をかけた時、同時に手をかけてきた奴がいた。

『あ、、。』
『あ、、、、。』

一瞬の沈黙。
さっきの遅刻男だ。私は、これは私のよと言わんばかりに睨む。
『あ、ごめん。どうぞ?』という遅刻男。
『え?いいの?ありがとっ♡』にっこり笑顔で答える。
悲しげに隣のオムライスのお弁当の席に座る遅刻男。

申し訳ないことしたなーと思い、『ごめんね?私、浜育ちで、お刺身とか大好きでさ、一人暮らしで最近食べてなかったから、どうしても食べたくて、、、。半分こする?』と言うと、『え!?俺も浜育ちなんだよね!!わかるよ!その気持ち!やっぱり新鮮な魚って美味しいよね!東京でお寿司屋さん行ったんだけど全部干からびててさ。笑っちゃったよ~!!』と言う遅刻男。その後、オムライスとちらし寿司を半分こにして、お互いの地元の話をした。ほんの少しだけど。彼も友達を作ろうとかそういうタイプではないらしく必要最低限の会話で私も必要最低限のことしか答えなかったから。それでも、何か私と似てる気がして、この人と仲良くなりたいと思ってしまっている私がいた。

サークルが終わると、みんなでラインを交換しようという話になったので一応グループラインにだけ入ることにした。

私と同じ路線の帰り道の人はいなかったので、ラッキーと思い、颯爽とみんなと、別れてカフェに入ってタバコを吸う。

疲れたな~

隣に誰かが座る。

『え?』
『あ、、。ごめん。気づかなかった』
遅刻男=リクだった。
『あ、いいよ?タバコ吸いにきたの?』
『あーうん。ずっと吸いたいなーって思ってて、、、俺、あーいう集まり苦手でさ、、めんどくさいって思っちゃって。』
『あはは、、私も同じこと思ってた。』


『ドタキャンしようとしてたし!』
『ドタキャンしようとしてたし!』

声が重なる。2人で笑ってしまった。
その後も、タバコを吸いながら話をした。さっき話したのとは違くて、うわべだけの話ではなくて、お互い冷めてるから本音を話していた。時々、沈黙もあったけど、私にとっては居心地の良い沈黙だった。

気づけば2時間くらい話していて、お腹すいてきたので、帰ろうとすると、ご飯食べ行こうよと誘われたので、この人ならいいかなーと思い一軒の魚介系が美味しい居酒屋に入った。

出てくるお刺身に2人で目をキラキラさせながら箸をつつく。

『うん!美味しい』
『ほんと!美味しいわ~』

お酒を飲みながら、2人で初めて会ったとは思えないような居心地の良さのなか過ごしていた。
『俺んち、母親いなくてさ、、、』と急に家のことを話し始めるリク。
『母ちゃんか死んだ日さ、俺、わけわからなくて、死ぬって不思議なんだよな~。さっきまで会話してた人がさ、置物みたいになるんだよ。魂が抜けて、何もなくなるってこういうことなんだなって思ってさ、、、』
私と同じ経験をしていた。私には父親がいない。私も父が亡くなった時同じことを思っていた。
『私も父親が高校一年生の春に亡くなったんだけどさ、同じこと思ったよ。』
いままで誰にも話したことなかったことをリクには、スラスラと話すことができた。同じ経験をしているから、わかってもらえる気がしたのだ。リクは私の話を聞いて同情するわけでなく、本当に分かってくれるようか相槌を打ってくれた。そして、自分の話もしてくれて、私もリクの気持ちには同情とかではなくて、理解できる部分が多くて相槌をうった。
『マイちゃん、酔っ払ってきたかも、、』
『え?お酒強いとか言ってなかった?笑』
『んー、ふふ。今日は弱い日だね。笑』
『ふふ。潰れる前に家に帰ろっか』
『うん。そろそろ帰ろっ』

店を出ると、『またね!』とだけお互い言って電車に乗った。

家に着くと、不思議な気持ちでいっぱいになった。父親が亡くなった日から時間が止まっていたように感じていた私に、リクはすっと入り込んできて、時計の針を勧めてくれた。塞ぎ込みだった私に少しだけ、色づいた世界が蘇ってきた気がしたのである。彼に感謝しなきゃなーと思いながら、その日は就寝した。
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