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さよちゃんとイルカ
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手術の前の深夜の病室に
さよちゃんとお母さんの呼吸の音が重なり合って
静かにひびいていました。
その静けさにそっとかぶさるように
外で小さな風が吹き
木の葉をいくらか舞い上がらせました。
秋の終わりのにおいがしました。
その風にのって
夜空の星の海のなかを
泳いで降りてくるものがあります。
イルカでした。サングラスもかけています。
星くずを体いっぱいに浴びたそのイルカは
小さな体を滑らせて
病室の窓のすき間から
ベッドで眠るさよちゃんの隣に
スッと降り立ちました。
冷たい風を肌に感じて
さよちゃんがゆっくり目を開きます。
「さむいの?」
そう聞かれたイルカは
全身をブルルと震わせました。
すると、イルカの体中についていた星のかけらたちが
病室のなかいっぱいに舞い上がり
その少しくたびれた床の上に
やさしくキスをするように
ゆっくりゆっくり降り積もってゆきました。
さよちゃんは目をキラキラさせて
自分より小さな隣のイルカに
そっと触れてみました。
「つめたいね」
そう言ってにっこりわらったさよちゃんを見て
イルカのほおがポッとあかくなりました。
すると、部屋の床に積もった星たちから芽が伸びはじめ
次々に白い花を咲かせました。
瞬く間にあたりはセンダングサ畑になりました。
それは、お日さまの下の大地に生えているものと比べると
ずいぶん細く小さなものでしたが
でもたしかに、病室のかたい床のうえに
しっかりと根づいているのでした。
さよちゃんに触れられて
イルカの体はどんどんあたたかくなっていきます。
「どこからきたの」
さよちゃんが聞きました。
「とおいとおいところから」
「そうなんだね。あえてうれしいよ」
そう言ってさよちゃんは、とても幸せそうな顔をして再び眠りにつきました。
しばらくすると、イルカのサングラスの奥の方から
あたたかく光る涙の粒が
いく滴もいく滴も落ちてきて
それを受けた床中のセンダングサたちが
キラキラと輝き出しました。
秋の風とさよちゃんとお母さんの呼吸を受けて草はなびき
病室の床をやさしくなでました。
気がつけばもうイルカの姿はありませんでしたが
ベッドにはたしかに、イルカの重みでできたへこみが
まあるく残っていました。
そこに夜明けの朝の光がやわらかく差し始めました。
さよちゃんとお母さんの呼吸の音が重なり合って
静かにひびいていました。
その静けさにそっとかぶさるように
外で小さな風が吹き
木の葉をいくらか舞い上がらせました。
秋の終わりのにおいがしました。
その風にのって
夜空の星の海のなかを
泳いで降りてくるものがあります。
イルカでした。サングラスもかけています。
星くずを体いっぱいに浴びたそのイルカは
小さな体を滑らせて
病室の窓のすき間から
ベッドで眠るさよちゃんの隣に
スッと降り立ちました。
冷たい風を肌に感じて
さよちゃんがゆっくり目を開きます。
「さむいの?」
そう聞かれたイルカは
全身をブルルと震わせました。
すると、イルカの体中についていた星のかけらたちが
病室のなかいっぱいに舞い上がり
その少しくたびれた床の上に
やさしくキスをするように
ゆっくりゆっくり降り積もってゆきました。
さよちゃんは目をキラキラさせて
自分より小さな隣のイルカに
そっと触れてみました。
「つめたいね」
そう言ってにっこりわらったさよちゃんを見て
イルカのほおがポッとあかくなりました。
すると、部屋の床に積もった星たちから芽が伸びはじめ
次々に白い花を咲かせました。
瞬く間にあたりはセンダングサ畑になりました。
それは、お日さまの下の大地に生えているものと比べると
ずいぶん細く小さなものでしたが
でもたしかに、病室のかたい床のうえに
しっかりと根づいているのでした。
さよちゃんに触れられて
イルカの体はどんどんあたたかくなっていきます。
「どこからきたの」
さよちゃんが聞きました。
「とおいとおいところから」
「そうなんだね。あえてうれしいよ」
そう言ってさよちゃんは、とても幸せそうな顔をして再び眠りにつきました。
しばらくすると、イルカのサングラスの奥の方から
あたたかく光る涙の粒が
いく滴もいく滴も落ちてきて
それを受けた床中のセンダングサたちが
キラキラと輝き出しました。
秋の風とさよちゃんとお母さんの呼吸を受けて草はなびき
病室の床をやさしくなでました。
気がつけばもうイルカの姿はありませんでしたが
ベッドにはたしかに、イルカの重みでできたへこみが
まあるく残っていました。
そこに夜明けの朝の光がやわらかく差し始めました。
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