魔王様の弟子

tsuyu

文字の大きさ
上 下
2 / 12
第一部

2.目覚めてびっくり!?

しおりを挟む
 ホワイトアウトした視界が徐々におさまり目を開けると、見覚えのない天井が目に入る。


  (ここ、どこ?)


 窓から差し込む光が眩しく、手を翳す。

「え?」

 目の視界に入った手は小さい。
両手を伸ばして顔を触ると、もちもちした弾力のある幼子のようだ。
 徹夜明けのアラサーの肌とは全く別物であるし、髪を触ると柔らかく明るいローズブラウンの長い髪が手からこぼれ落ちていく。

 三十歳を過ぎてストレスのせいで睡眠障害を抱えた私の肌はカサカサだし、黒髪を自宅で染めても脱色をせずに染めるからダークブラウンにしかならないのに。

  (あれ? 私、何してたんだっけ?)

 月城 陽華つきしろ はるか。三十四歳。
専門学校を卒業してから正社員にはなれず、バイトやパートでかつかつの生活を送り、やっとやりたい事が見つかって数年前からコツコツとスキルアップをはかっていた… 筈なんだけど?

 とりあえず現状把握するために、部屋の中に視線を巡らし、半身を起こす。
八畳ぐらいの大きな部屋に大きな机と壁一面の本棚、何が入っているのか分からないガラス棚、アンティーク調の家具でまとめられた洋館のようだ。
 私が寝転んでいたベッドは天蓋カーテンつきである。何処のお姫様ですか?

「起きたか」

 ガチャと扉が開くと、長い黒髪に蒼い眼、某怪盗がつけているような片眼鏡モノクルをつけ、白衣を着た背の高い男性が入って来た。

「怪我は無いようだが、何処か痛いところは無いか?」

 ベッドに近付いて来ると、私の額に手をあててくる。
目を瞬かせ、その触れた温かい手に鼓動が早くなる。

「喋れないのか?」

 無表情だった顔の眉間に皺を寄せ、顔を近付けようとするので、慌てて首を振り答える。

「い、いえ! 喋れますけど、あの…」
「私はユーリ。君は森で倒れていて、衰弱していたので連れて来た」

 両手で布団を引き寄せ口元まで隠し怯えていると思ったのか、自分の名を名乗り、どうして私がここに居るのか説明してくれた。
 布団を持っていた両手を降し、助けてくれたユーリさんに名乗る。

陽華はるかです。助けてくださり、ありがとうございます!」
「ハルカ… この辺りではあまり聞かない名だな。親はどうした? はぐれたのか?」
「…気付いたら、ここにいたので分かりません」

 話す言葉は通じているけれど、日本人ならよくある名前だし、森に行った覚えも無いので、眉を下げて答えると、ユーリさんは顎に手をあて何か考えている。

「とりあえず、しばらくはここに居なさい。ちょうど昼だ。何か食べれそうか?」
「ありがとうございます。ユーリさんにお任せしてもいいですか?」

 キョトンとした瞳で固まるユーリさんに首を傾げる。

「ユーリさん?」
「…いや、何でもない。分かった、買ってきた果実とスープとパンぐらいしかないが、大丈夫か?」
「はい! いただきます!」

 元気よく返事をして、ベッドから降りようとしてハッとする。

「どうした?」
「あの…靴は…」

 ユーリさんが履いているのは中履きやスリッパではなく、明らかに革靴でピカピカと光っているが使い込まれた上質な高級靴だとわかる。
 裸足で降りて良いものか考えあぐねていると、ユーリさんに抱き上げられ片腕に乗せられた。

「ユーリさん!?」
「靴も服も後で買いに行くから、とりあえずこれで我慢してくれ」
「何から何まですみません… 重くないですか?」
「ゴブリンより軽いから心配するな」
「ゴブリン!?」


 どうやら、ここはRPGとかファンタジーの世界であるらしい。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

二番煎じな俺を殴りたいんだが、手を貸してくれ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:333pt お気に入り:0

美人が得って本当ですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:265

逆転の自由:刑務所からの脱獄者の物語

O.K
エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ほろ甘さに恋する気持ちをのせて――

恋愛 / 完結 24h.ポイント:312pt お気に入り:17

レプリケーション・アビリティー

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

1人の男と魔女3人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:1

ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:122

Twitter 呟怖百物語 (ショートショート。お話のネタ帳兼用)

ホラー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

日曜昼下がりのお茶会

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...