魔王様の弟子

tsuyu

文字の大きさ
上 下
11 / 12
第一部

11.魔王様に弟子入りします!

しおりを挟む
「国教会はコンラートに任せるとして、目下の問題はハルカをどうするかですね」

片眼鏡モノクルを外してレンズを布で磨く、ユーリさん。
眼鏡は伊達眼鏡(変装)だそうです。
 そして、この片眼鏡モノクルは魔道具だそうです。

 まだブツブツとコンラート様は呟いていらっしゃいますけど?
え? ほおっておいていいの? あ、そうですか…


「ハルカお嬢様はこちらでお過ごしいただく方が、よろしいのではないでしょうか?」

 今まで黙ってお茶を給仕していたヨハンさんが、提案する。

「確かに公爵邸うちだと、色々準備しなきゃだし、それ以外にもちょっとね」
「まぁ、ここなら貴族の目は避けられるし、認識阻害の結界もあるから丁度いいか」

 お貴族様のお宅でなんて、緊張して無理です!
面倒事は少ないに限る!
というか、え? 認識阻害の結界?

「ハルカお嬢様は、ユーリ様の助手になっていただくというのは、いかがでしょう?」
「助手ですか?」
「はい。こちらの世界の事を全く御存じ無いようですし、ユーリ様に御教授いただき、生活面では父もわたくしも居りますので。あと、兄を護衛としてこちらに待機させてはいかがでしょうか」
「いいんじゃない? 魔法の使い方も、特殊スキルも試せるし。常識とかは二人に任せておけば問題無いでしょ? そう言えば、エルンストって今は何しているの?」

 ミリアさんのお兄さんのお名前は、エルンストさん。ふむふむ。

「今は公爵領の警備兵の指揮をしております。そろそろ社交シーズンも終わりますし、奥様方が領地に戻られたら、こちらに来させましょう」
「ああ、領地にいたのか。まぁ、エルンストが指導していたなら、確実に新人も成長しているだろうし。エレーヌは叔母上と一緒に領地に戻るのか?」
「エレーヌは一度奥様と領地に同行し、引継ぎ次第、王都の邸宅に戻って参ります。エルンストもその時に同行させれば手間が省けるかと」

 ミリアさんが隣に来て、「エレーヌとは母の事です。母は現在、分家の侍女長をしているんです」と教えてくれた。

「兄もユーリ様のお側にいれるとなれば、飛んでくるでしょう」

 うんうんと、ヨハンさんとコンラート様が頷く中で、ユーリさんだけ嫌そうな顔をしていたので、エルンストさんがどんな人なのか、楽しみになってきた。


「ハルカ、良かったら助手ではなく、弟子になりませんか?」
「弟子?」

 ユーリさんはミリアさんに提案されてから、ずっと顎にあてていた手を降し、何か思い付いたのか、弟子になる事を提案してきた。

「ええ。特殊スキルに『錬金術』『香料精製』とあったでしょう? 属性も『光』『水』『緑』『金』ですから魔導師に向いていると思います。どうです?」
「ユーリさんが、お師匠様?」
「はい。師匠マスターと呼んでください」

 ミリアさん、ヨハンさん、コンラート様を見て、最後にユーリさんに視線を向ける。
ユーリさんが優しく微笑むので、勢い良く頭を下げてお願いする。

師匠マスター、よろしくお願いします!!  ヨハンさん、ミリアさん、お世話になります!!」
「俺は!?」
「コンラート様は… お仕事頑張ってください」
「転生者仲間なのに… ハルカちゃん何か冷たくない? 仲良くしてよ!」
「あちらの世界での印象と、こちらのコンラート様のギャップが強くて…」
「どう違うの?」

 ユーリさんが興味深そうに聞いてきたので、正直に答える。

「大変有名なピアニストで、クールで格好良い方だったのですが…」
「で? こっちでは、こんなんだったと?」
「こんな!?」
「コンラート様って、チャラいですよね」
「チャラくないよ!? フレンドリーだよね!?」
「コンラート坊ちゃま、言葉が乱れておりますよ」
「え? 何で俺だけ?? ユーリもだろう?」
「公私は弁えている」
「私も普段はちゃんとしているよ??」
「普段?」

  俺と私を使い分けている! と威張るコンラート様に、皆が笑い出したので、ああ、とこの短い時間で、コンラート様の公爵家での扱いをなんとなく察した私は、一緒に笑った。


 夕方から魔導騎士団のお仕事があるコンラート様は、皆に揶揄からかわれ、拗ねていらっしゃいましたが、帰る時に「困った時は連絡ちょうだい」と日本語で書かれた連絡方法のメモをコッソリくれました。

 公爵家のお坊ちゃまは、明るくて頼れるお兄ちゃんのようです。

 ちなみに、あの大量のお見合い写真の束は…
ヨハンさん曰く、後で魔導騎士団 第二 副隊長の執務室兼、仮眠室に届けたそうです。



 こうして私は、“ 魔王様の弟子 ” になりました!
しおりを挟む

処理中です...